累進歩合給について
今回はタクシー運転手の累進歩合給について考えてみます。
累進歩合給については、「労働基準監督署による監督指導や地方運輸局等による監査を実施した際に、累進歩合制度が採用されていないかについて確認を行い、採用されていた場合には、廃止するよう指導等を行って」(*1) いるようです。
平成26年(2014年)の第186回通常国会での答弁ですので、8年経った現在は「廃止」されているかもしれません。しかし、月例給では廃止されたとしても、トップ賞や奨励加給といった方法で残っている事業者もあるようです。
累進歩合制度の廃止理由
この賃金制が廃止されなければならないとされる理由は「労働者の長時間労働やスピード違反を極端に誘発するおそれがある」(*2)ということです。
図3-2を使って具体的に考えてみます。足切500,000円、基本給150,000円に設定しています。
500,000円から700,000円までの営収(運賃収入)では、歩率50%で支払われ、700,000円から900,000円までは70%、900,000からは90%になるとします。
500,000円 50%
700,000円 70%
900,000円 90%
図のように、歩率の変わり目で、賃金は緑、赤、青と変化していきます。緑と赤の変更点700,000円では、歩合給が250,000円から290,000円に上がっています。わずか1円の差で40,000円の賃金差が発生っすることになります。次の変化点900,000円では80,000円違います。
長時間労働、交通違反
この急激な変化がタクシー運転手の「長時間労働やスピード違反」を誘発するのです。あと少し、あるいは、もう少し、という心理です。
「ぶっこみ」という自爆営業
また「ぶっこみ」と言われる架空営業(自爆営業)を誘発します。40,000円の賃金差があるのですから、例えば営収660,000円になったら、40,000円の架空営業をしても、元は取れるのです。
賃金締め日前の営収が累進に近づきぶっ込みをしたとします。それだけなら良いのですが、結局、最初から高い歩率を目指すようになります。そして無理な営業スタイルになる。その結果、長時間労働になり、事故や苦情につながる、ということです。
上は国土交通省の「タクシー運転者に係る賃金規制の概要」です。トップ賞も累進歩合給と同じで、いえ、もう少し煽られて競争になり長時間労働になりがちです。
乗車拒否問題
というよりも、歩合給自体が、長時間労働やスピード違反を誘発する賃金制度です。それに、車いすのお客様への乗車拒否問題もです。さらに、ワンメーター問題のこの賃金制度が原因です。このように歩合制に起因するものは少なくはありません。
これまで数回に分けてタクシー業界の賃金について考えてきましたが、「知恵の結晶」といわれる業界の賃金制度は、非常にわかりにくく、それゆえ私たちの働き方も複雑にしています。私は歩合給こそ業界の宿痾の要因だと考えていますが、ただ、歩合給だからこそ「自由」度が高くなるとも言えます。
*1 第186回国会(常会)参議院議員小池晃君提出タクシー業界における累進歩合制賃金と乗務員負担制度に関する質問に対する答弁書