賃金の問題…ですか?
運転手不足の原因のひとつに「賃金の問題」があります。そのことについて考えてみました。
はじめに、タクシー運転手の賃金は「出来高制歩合給」で支払われています。つまり、稼いだ分に応じて(各社の)歩率をかけたものが賃金になります。(例:50万円×50%=25万円)
出来高制歩合給の問題
この賃金制度には次のような問題が内包されています。
- 長時間労働の誘発(=事故惹起)
- 需要による賃金(=低賃金化)
- 乗車拒否(=品質の低質化)
- 事業原価の複雑化(=出来高制依存)
しかし、悪いことばかりではなくタクシー運転手にとっては「頑張っただけもらえる」という良い面もあります。しかし、この「頑張っただけもらえる」という成果主義には、「頑張れなかったら」「頑張れない人」はもらえない、という残酷さも持ち合わせています。
頑張っただけもらえる、それが次の年齢別賃金カーブに現れています。
若年層での月給の高さと、働き盛りの30歳後半の高さが特徴的です。さらに、全労働者では定年とともに月給が減少していますが、タクシー運転者は50歳から減少がはじまります。これは、体力がある時には稼げるということではないでしょうか?
つまり、この出来高制という成果主義は、経験や年齢とは無関係に低賃金化します。さらに、市場にも影響され突発的な事件や事故にも影響されるということです。低賃金が問題だ、早計に結論付けることは問題が矮小化し、その多寡にだけ注目される、ということです。
(例えば、固定給制での低賃金は文字通り「低賃金」を意味します。しかし出来高制では、運転手の「頑張っただけ」になるために、低賃金の問題が自己責任に追いやられるケースが多いということです。責任が経営者ではなく、運転手側に転嫁されやすいのです。)
賃金の問題ですか?
次に、コロナ禍での大量離職を考えてみます。
- 賃金が急減した
- 感染症への恐怖
この2点が要因でしょう。そしてこれも労働環境、その悪さに起因します。具体的には、次のように考えられます。
- なぜ賃金が急減したか=コロナ感染症による需要激減=出来高制歩合給という賃金制度だから
- なぜ感染症を恐れたのか=密室という感染リスクが高い職場=感染予防を含む、車内設備が貧弱だから
つまり、離職原因は労働環境が悪いということです。そして、賃金の問題はその中のひとつの要素なのです。賃金が減少するのは、賃金制度が問題でもあります。その賃金制度の弊害、とも言えるでしょう。
そして、2の感染防止についても、コロナ以前からの業界の労働環境改善が貧弱だったことが主因です。なぜならば、遠い昔からある、運転者へのカスハラ、暴行事件防止のための施策が行われていなかったからです。例えば、運転席と客席との分離を行なっていれば、感染防止もすぐに出来たはずです。
このように、大量離職は起こるべきして起こった、必然的な帰結なのです。運転手の自由な働き方は、諸問題も運転手に内製化していったのです。
タクシーバブル
さて、賃金の問題です。昨年、「タクシーバブル」という表現とともに、タクシー運転手の高い収入が話題になりました。今もSNS上では月収100万円なんて数字を目にします。それは高い人たちだとしても、求人広告には「40万円以上」なんて金額が並んでいます。(下の画像は「タクシー 求人広告」Google検索したものです)
このことから、タクシーバブルと言われるぐらいの高収入なのに、運転手不足になるのはなぜ?と、なりはしませんか?
犯人は誰だ
つまり、タクシー不足は賃金を含めた労働環境にあるのです。賃金の問題は、その中のひとつなのです。これを理解していないと、賃金が安いから、と安直になり、問題が矮小化されます。つまり、問題解決を遅らせながら、その犯人を運転手自らにしてしまう、ということです。
売上がいかない、賃金が安いのは、仕組みのせいでもあるんです。そして、成果主義の「道徳的ドグマ」は、実は運転手不足を引き起こすスイッチなのです。成果主義とその周辺のシステムこそ、犯人なのではないでしょうか?