運賃改定と労働条件改善 – 運転手の労働条件は改善されたのか
タクシー運賃の改定と労働条件改善については、国交省が通達1を発出しています。
- 労働条件の改善措置を講ずること
- 運転者負担の見直し図る
- 利用者に対して働条件改善についての考え方を表明
- 改善状況について、自主的にその実績を公表
以上4点とともに、
- 各地方運輸局長等は運賃改定の趣旨を逸脱すると認められるときには、その事実関係を公表するとともに、必要な指導等を行うこと
と指示しています。
2022年11月に行われた東京特別区武三地域の「運賃改定実施による労働条件の 改善状況調査結果2」の報告が東京ハイヤー・タクシー協会より出ていましたので概観してみます。
運賃改定と労働条件改善はなされたのか
平均増収率31.35%
運賃改定率は14.24%でした。その結果260社中255社で増収率の改善が見られました。その平均が31.35%です。(例:50万円だった売上が65.7万円になりました)
改定率を大きく上回る増収率です。これはタクシー不足により実車率が上がったためです。同じ数の利用者下(実車率)では、改定率程度の増収にしかなりません。また、これがタクシーバブルという現象を裏付けることになります。加えて、ライドシェアの必要性を説く理由になります。
増収率がマイナスになった事業者が5社あります。この状況でマイナスになった理由はなんなんでしょう?
- コロナ禍で勤務体制を変えた
- 高営収者の退職や移籍
- 月給制だから
ただ、この5社についても賃金は改善しています。後述します。
賃金上昇率32.64%
売上が31.35%増収したので、出来高制歩合給での賃金では歩率が変化しない限り、あるいは、控除額が変化しない限り、同程度の賃金上昇がみられます。ということで、32.64%賃金が上がり、287533円が381378円になりました。
改定による賃金改善率
増収がなかった事業者5社においても、賃金の改善はありました。1社が4%〜5%、4社が10%以上の賃金改善率になっています。ということで、運賃改定したすべての事業者で賃金の改善がみられたことになります。
図1 特別武三地区における運賃改定実施による労働条件の 改善状況調査結果 (p.1) 東京ハイヤー・タクシー協会
営業収入に占める賃金支給率の変動
(ここから図2になります)
最後に、営業収入に占める賃金支給率の平均が102.53%です。
平均増収率は31.53%だったので、例えば、50万円→65.7万円になります。これに60%という賃率(歩率)で支払うとすると、賃金は30万円→39.4万円に上がります。この場合の支給率の変動なしで100%です。
つまり、支給率が下がるということは、39.4万円未満になるということです。また、歩率が同じなら営収の上下には左右されません。歩率60%は60%です。例外として、足切り(ノルマ)賃金になったり、最低賃金になってしまう場合がありますが。
このように、支給率が下がった17社は賃金制度を変えたと考えられます。具体的には、スライド賃下げ(つまり、足切り額の引き上げや、歩率を下げる)が行われたのではないでしょうか。
図2 労働条件の 改善状況調査結果 (p.2) 東京ハイヤー・タクシー協会
以上、タクシー運賃改定時の労働条件改善、特に賃金についての状況を概観してみました。考えていた以上に営業収入が増えました(31.35%)。しかし、営業収入が下がったり、支給率が下がった事業者もあります。理由次第では「必要な指導等を行う」ことが必要でしょう。そして、この調査の目的でもあります。