福岡西鉄タクシー未払い割増賃金訴訟について
福岡西鉄タクシーの運転手ら87人が、割増賃金など約2億690万円の支払いを求め福岡地裁に提訴しました。この残業代未払いについて考えてみます。
西日本鉄道グループの「福岡西鉄タクシー」(福岡市)の運転手ら87人が、同社に割増賃金など計約2億690万円の支払いを求め、福岡地裁に提訴したことが分かった。14日の第1回口頭弁論で原告代表塩塚大雄さん(37)は「労働の対価が正当に支払われないのは、人権を軽視した労働環境だ」と陳述した。会社側は請求棄却を求めた。
原告側は、同社が導入している「変形労働時間制」は無効だと訴え、労働基準法が原則と定めた1日8時間、週40時間を超える分の時間外労働(残業)の賃金を求めている。
この問題、新聞記事によると
- 変形労働時間制を適用
- 労働日や時間を特定することを条件
- 1と2に対して会社が業務の都合で労働時間を変更できる
この労働条件で発生した残業代が未払い、ということです。
変形労働時間制
変形労働時間制においても法定労働時間は1日8時間を基準とします。
- 1か月≒171時間(30日)
- 1年≒2085時間(365日)
1か月または1年の変形労働時間制でも、この時間を超えると法定労働時間外となり、割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。
長時間勤務と休日をまとめ取り制度
福岡西鉄タクシーでは、長時間勤務をする代わりに休日をまとめ取りできる「変形労働時間制」を適用していたということです。
これは、広義でのフレックス勤務といえます。そして、次のような勤務も可能ということです。
- 金土に16時間=32時間
- 残り8時間を1日か2日で
- 合計40時間
- その他の日は休日出勤扱い(特勤)
あるいは
- 3日で40時間
- 残り4日間休み、最初の4日間休み、残り3日間勤務
これだと、連続8日間の休日が取れます。さらに、年休を組み合わせると毎月長期休暇が取得できます。タクシーだからできる勤務だとも言えます。
問題は何か?
自発的な残業では問題化しにくいのがタクシー事業の残業問題です。なぜならば、稼ぐために自らが時間を伸ばすからです。このため、1か月262時間や288時間という拘束時間規制があります。1
会社指示の労働日追加と時間延長時の残業代
では、なぜ福岡西鉄タクシーの運転手が提訴したかです。新聞記事にもある「会社が業務の都合で労働時間を変更できる規定を設けている」ということから、勤務日の変更、だけではなく、追加の指示があったものと思われます。「業務命令」なんて言ったかもしれません。
あるいは「もう少しやって」「この配車をやってから終わって」という、会社指示の労働日と時間の延長があったのでしょう。そうしないと、会社の営業や配車業務に支障をきたす事態になったのでしょう。そしてよくあることです。
会社指示の時間短縮での損失
次に、問題になるのは、会社側が「暇だからこの日は休んで」と労働時間を短縮される場合もあったでしょう。その上で月を跨いで、人の足りない日に回される。人の足りない忙しい日ならば良いのですが、単に足りないだけの日への変更は売上に影響します。(不利益変更とも言えます)
会社都合の供給過剰
さらに、繁忙時である週末に稼働を集中させることにより供給過剰の惹起、そのことによる売上の減少も考えられます。それが原因で「運転手は給与が少なくならないよう、体調が悪い日も無理をして出勤し、十分な休憩も取らずに働いている」という事態になったのではないのでしょうか。つまり、会社の経営の失敗の尻拭いです。
タクシー運転手と残業
タクシー事業は運転手の歩合給による自発的な労働によって成り立っています。そして、経営者はいかに運転手の自発性を引き出すかを考えてきました。つまり、飴と鞭を考えてきたのです。いえ、それだけに知恵を絞ってきたと言えます。
今回の提訴の原因でもある「変形労働時間制」も、「休日をまとめて取れる」という飴がありました。ところが思うように売り上げが上がらないために運転手が犠牲になったのかもしれません。
こうした勤務体系は悪くはないんです。そしてタクシーだから可能なのですが、そうすると営業に影響する場合も、ということなのでしょう。
そして、タクシー運転手の残業時間を0にすると賃金が減ります。しかし、残業代を一般の企業のように支払うとなると、今度は働かなくなるし…。タクシー事業の特質、営業所外で自由な働き方は、運転手にとっては良いことでもあり、悪いことでもある、そう考えています。

