運賃改定と労働条件改善

運賃改定でタクシー運転手の労働条件も改善されるのでしょうか。

「運賃改定実施後において、各事業者において、適切に運転者の労働条件の改善措置を講ずること」という運賃改定に際しての留意事項が国交省から出ています。1

例えば、運賃改定後に運転者の労働条件が改善されたか調査したところで、相変わらず年収は低いままではないのか。そして、相変わらず不当な運転者負担は存在する。悪質だとしても、30日車の営業停止、痛くも痒くもない。なぜならば、運転手はいないがタクシーは車庫に眠っている。なんならもう1台、60日車でも……。

運賃改定と労働条件改善と利用者利益

コロナ感染症、LPG燃料代高騰、そしてウクライナ危機、移動手段の多様化、高齢化に運転手不足、タクシー業界を取り巻く環境は厳しい。コロナが終息後も、この2年間で変化した移動サービスは、あの頃のような沃土ではない。

そうしたなか、東京の運賃改定で、初乗運賃を400円にするか500円にするか「せめぎあい」が起きている。運賃値上げは必要だ。私たちも苦しいし、経営も苦しい。

各社の動きでは、大手4社のうち、「GO」加盟の日本交通と帝都自動車交通は初乗り0.8キロ400円、一方、「S.RIDE」の大和自動車は同1.0キロ500円で申請している。加算についても日交、帝都自交が80円、大和自交、国際自は100円となっている。(東京交通新聞2022年2月21日付)

いろいろなことが推察されるの。例えば、初乗運賃を現行の420円から500円にすると、利用者が「高い」となるのではないか。400円にしたほうが、これまでのタクシー行政との整合性が取れるのではないか。なぜならば、これまで初乗り距離短縮運賃を行ってきたからだ。

ということで、私たちの賃金に直結する運賃改定、何度か言及はしてきたのだけれど、今回さらに考えてみた。

複雑なタクシー料金

タクシー料金は

  1. 初乗り運賃
  2. 加算運賃
  3. 迎車料
  4. 予約料など

で構成されている。

初乗り運賃は、乗車から一定の距離までの運賃、例えば東三河南部交通圏では1.178kmまで600円、その後251mにつき90円が加算される。時速10km/h以下での走行時には、1分35秒までごとに90円が加算される。

さらに、迎車回送料金120円、早朝予約(4時~8時)料金430円が加算される。

前日までに、7時00分の予約をして場合の運賃料金は、120円+430円+600円=1,150円、最低でも1,150円になる。その後1.178km以降は251mごと90円が加算されることになる。

この運賃が地域(交通圏)によって違う。そしてこの違いが地域外営業を難しくし、さらには公共交通空白地を拡大することになっている。

公共交通空白地、地方の移動について(4)

タクシー運賃比較表

次の図は、東京都特別区・武三交通圏、名古屋交通圏、東三河南部交通圏のタクシー運賃の比較表だ。

 

タクシー運賃比較表(3)運賃改定すれば労働条件改善がされるのか。

現行の初乗り運賃と距離、加算運賃と距離(2022年2月27日現在)は

  • 東京武三 420円 1.052km 80円 233m毎
  • 名古屋市 450円 1.031km 80円 231m毎
  • 東三河南 600円 1.178km 90円 251m毎

に設定されている。

5kmまでの運賃は、

  • 東京武三 1,780円
  • 名古屋市 1,890円
  • 東三河南 2,040円

となり、豊橋市、豊川市、田原市、蒲郡市、新城市がある東三河南部交通圏のタクシー運転手が一番高い運賃収入になる。

初乗り運賃が違っても…

5kmでは、東京と名古屋の差は110円だったのだが、その50m手前、4.950kmでは、東京武三1,780円、名古屋1,810円、30円の差でしかない。

次の図は、「せめぎあっている」東京の運賃改定の予想図を作成してみた。

 

タクシー運賃比較表

初乗り運賃と距離、加算運賃と距離は以下の通りです。加算運賃と距離は現行の数値と同じで作図した。

  •   現行  420円  1.052km  80円 233m毎
  • (1)400円  0.800km 80円 233m毎
  • (2)400円  1.000km 80円 233m毎
  • (4)500円  1.000km 80円 233m毎

初乗り400円の(1)と、500円の(3)とでは、

  • 初乗り距離までは100円の差ががあるものの
  • 1km以降は20円という僅差で推移している
  • 5km時点でも同じく20円差で終わっている

つまり、初乗り運賃に関係なく、加算距離と運賃で調整すれば、同程度の運賃になることが分かる。

消えた初乗り距離短縮運賃思想

ワンメーターが多くなると、と言う人もいる。司会、1日の営業回数の内、何回あるのだろうか。短い距離での利便性が失われると、ファースト・ラストマイルの利用者が困ることになる。そして、例えばmobiを代表とする地域定額乗り放題の移動サービスに奪われる。さらに、そういった移動サービスの参入を許すことになる。

これまでの「初乗り距離を短縮することによる初乗り運賃の引き下げを行うことにより、乗りやすいタクシーの実現へ」とする「初乗り距離短縮運賃」思想の否定になる。

初乗り運賃を低くして運賃収入をあげるために

 

タクシー運賃比較表 東京武三

  • (3)400円 0.800km 80円 200m毎

前の図に(3)を加えた。

「初乗り距離を短縮することによる初乗り運賃の引き下げを行うこと」をした。そして初乗り距離移行は、これまでの運賃よりも高いものになっている。考える上で少し極端な数字にしたが、加算距離を調整すれば悪くない運賃設定になる。

平成29年の「タクシー初乗り410円」実証実験の結果を再検証

平成27年(2015年)から平成29年までに、国交省の自動車局に設置された「新しいタクシーのあり方検討会」「運賃制度に関するワーキンググループ」で検討され、平成28年8月5日(金)~平成28年9月15日(木)に実証実験が行われた。

  • 410円 1.059円 80円 237円毎

日本人利用者の約6割が、410円タクシーになれば利用回数が増えると回答した。

回答結果を平均すると、410円タクシーの導入により、タクシーの利用回数が月4.8回か回から月7.0回、約46%増加するとの結果が得られた。

また、外国人利用者の約8割が、410円タクシーは「安価」又は「適当」と回答した。

タクシー初乗り410円の実証実験結

運賃制度に関するワーキンググループ – 国土交通省

タクシー初乗り410円の実証実験結果

 

そして、平成29年1 月に、初乗り運賃410円、1.052km、80円 237mでの運賃改定がおこなわれた。

また、「タクシー業界において今後取り組む事項11項目」の一番目の項目に「初乗り距離短縮運賃」を掲げていることから、現行の運賃、420円から400円にしたい、そして0.8kmにしたい、そういった思惑が、ハイヤータクシー協会会長側にあると推測する。

こうした経緯があるため、今回の改定で400円台から一気に500円になることへの、なにか徒労感みたいなものが、特にこのワーキンググループに参加した人にはあるのかもしれないし、それが「せめぎあい」になっているのだろう。

運賃改定と労働条件改善と移動改革

冒頭にも書いたように、移動サービスの環境は変革期を迎えている。これまでタクシーが担ってきたファーストラストマイルを、例えば、mobi(エリア定額乗り放題サービス)がうかがっている。タクシー運転者不足は公共交通空白地を拡大し、その隙間をコミュニティバスやチョイソコ(健康増進のための乗り合い送迎サービス)が埋めようとしている。結果的に、ライドシェア解禁という話になる。

その周辺を切り捨てて、中長距離の移動に限定する覚悟があるのならいい。そして、人々の生活と切り離して贅沢な商品としての道を選択すればいい。だが、大名商売はできないはずだ。なぜならば、タクシーのIT化DX化がライドシェアへの道順になったからだ。言い換えれば、タクシーがライドシェア化したのだ。

利用者、運転手、事業者の利益

と、私の感情で言ったところで、タクシー事業者が倒産しては元も子もない。それに、私たちの賃金にも関わってくる問題だ。利用者+運転者+事業者、この三者が最大の利益を享受できるような最適解がどこかにあるはずだ。

と、普通のことを書いたところで、結局は、運転手の賃金は歩合給で運転手次第なのだ。つまり、運賃改定が賃金改善に繋がりない、だから、労働条件改善にならない。そして予想も結果も分析しにくい、そんな複雑な運賃と賃金制度のタクシー業界なのだ。

資料

自動車:運賃制度に関するワーキンググループ - 国土交通省国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。
自動車:運賃制度に関するワーキンググループ - 国土交通省 www.mlit.go.jp
自動車:運賃制度に関するワーキンググループ - 国土交通省

初乗り1㎞340円タクシーについて

初乗り1㎞340円タクシーについて(運賃制度に関するワーキンググループ-国土交通省 資料)

340 円タクシーが導入される一年前(平成 8 年)、行革委・規制緩和小委員会が「規制緩和に関する論点」を公開し、運輸省(翌年 12 月国土交通省へ統合)もタクシーの当面の規制緩和処置を発表し、規制緩和の波は確実にタクシー業界へも押し寄せていた。

道路運送法(昭和26年法律第183号)(抄)

(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金)

第九条の三

  • 一般乗用旅客自動車運送事業者は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。
  • これを変更しようとするときも同様とする。

2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によつて、これをしなければならない。

  • 一 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。
  • 二 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと。
  • 三 他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること。
  • 四 運賃及び料金が対距離制による場合であつて、国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは、これによるものであること。
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タクシー運転手の賃金について

  1. 報道発表資料:タクシー運転者の労働条件の改善を図ります
    ~タクシーの運賃改定に際しての留意事項~ – 国土交通省

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