一律歩合給について
一律歩合給について考えてみます。前回の「A型、B型、AB型賃金とはなにか」では、タクシー運転手の複雑な賃金制度について、その類型をもとに歩合給の仕組みを考えてみました。
今回から「タクシー運転手賃金5分類」をもとに、一律歩合給、累進歩合給、積算歩合給について、図表を使って3回に分けて考えてみます。
タクシー運転手の賃金制度
タクシー運転手賃金5分類
運転手の賃金は次の5つに分類される、ということは前回書いた通りです。
- Ⅰ-① 一律歩合給制(Ⅰ型 基本給がある)
- Ⅰ-② 積算歩合給制(Ⅰ型 基本給がある)
- Ⅰ-③ 累進歩合給制(Ⅰ型 基本給がある)
- Ⅱ-① オール一律歩合給制(Ⅱ型 基本給がない)
- Ⅱ-② オール積算歩合給制(Ⅱ型 基本給がない)[/point_maker]
この5分類された賃金体系のうち、今回は一律歩合給について考えてみます。
Ⅰ-① 一律歩合給制(Ⅰ型 基本給がある)について
これは3分類ではA型賃金と言われ、この方法を採用している会社が多いようです。
図1はグラフ化したものです。
基本給150,000円、基準額(基礎控除額や足と言ったりします)500,000円、歩率50%での賃金カーブです。売上が500,000円までは基本給だけです。500,000円を越えた時点で、その越えた分について歩合給が発生します。
=150,000円 歩合給
150,000(基本給)+150,000(歩合給)
=300,000円 賃金
実際は、これに手当が加算されたり控除され支給総額が決まります。
手当を含めた賃金が、最低賃金を割る場合は、最低賃金部分が支払われます。その時の歩合給は緑の部分になります。最低賃金周辺に基本給を設定している理由でもあります。例えば120,000円程度に低く抑えられている場合もあります。
賃金設計の理由
この低い基本給の設定にも意味があって、欠勤、遅刻早退に対する控除額算出は運転手に利点になります。しかし、年休などの算出には不利になる場合があります。要するに、遅刻早退には甘く、休むことには厳しくする設計になっていると言えます。
休日出勤の奨励
前々回の「国際自動車裁判で考える賃金の複雑さ」で例に引いた賃金の算出方法{(所定営収-所定内基礎控除額×53%)+(公出営収-公出基礎控除額×63%)}も、A型を基礎にしています。この例の場合は、さらに、歩率、基礎控除額を所定(シフトで決められた勤務)と、公出(休日出勤)に分けて、公出部分は歩率を上げます。基礎控除額を下げることによって、休日出勤での賃金支給部分を高くしています。休日出勤を奨励する方法として、これも知恵の結晶です。
下の表は国際自動車裁判で例示されたものですが、休日出勤を奨励する歩合給算出方法と言えます。
基礎控除額が所定29,000円、公出24,100円、歩率が所定53%、公出63%になっています。この数字を、営収が50,000円の場合に適用すると、
所定:(50,000-29,000)×53%=11,130円
公出:(50,000-24,100)×63%=16,317円
同じ売上の場合に賃金は、公出(休日出勤)したほうが5,187円も高くなります。休日出勤奨励には、稼働率を最大まで高くしたいという会社側の思惑があります。
稼働率の最大化
タクシー会社は所有車両の100%稼働を理想とし、それに近づけようとします。タクシー会社は最少人員で全所有車両を24時間365日稼働させようとします。。
例えば、最大稼働時間は、所有台数100台の場合、100×24×365=876,000時間になります。運転手の平均拘束時間が月200時間とすると年間2,400時間、876,000÷2,400=365、最大値にするには365人もの運転手を必要とします。
しかし、雇用問題や労働法、車検三検事故などの車両、また人件費などの問題もあって不可能です。
担当車制度の理由
これを、例えば一人当たりの月間平均拘束時間(≒労働時間)を伸長し260時間にすると、876,000÷(260×12=3,120)=280.77、281人で達成できます。この最大理想値に近づける賃金設計が休日出勤の奨励と歩合給、それも複雑な知恵の結晶となっています。
1車2人、2車3人制の理由
1台の車両を2人で使用する、1車2人という担当車両制度も、この稼働率を考えたものです。
タクシー会社は所有車両の100%稼働(365日24時間を最小人員で)を目標にします。例えば、最大稼働時間は、所有台数100台のとき、100×24×365=876,000時間になります。
運転手の平均拘束時間が月200時間とすると年間2,400時間になります。
876,000÷2,400=365
つまり、最大値にするには365人の運転手が必要です。
次は積算歩合給について考えてみます。