運転手の賃金、その実態
運転手の賃金、その低さがバス、タクシー運転手不足の原因にあげられます。タクシー運転手の賃金については、出来高制歩合給です。そのことが賃金問題を複雑にしています。さらに、地域差、個人差が大きいのが特徴です。そのため、実際にはそこまで低くない人や、それ以上に低い人がいます。今回は、タクシー運転手の賃金、その実態について考えてみます。
全産業労働者との比較
次の図は全国ハイヤー・タクシー連合会（以下、ハイタク連）が発表しているタクシー運転者の年間給与の推移です。これによると、令和4年度は全産業労働者の554.9万円に対して363.6万円、191.3万円もの差があります。
『タクシー運転者(男)と全産業労働者(男)の年間給与の推移』1
地域格差
次に、そのデータ（全国平均363.6万円）を都道府県別に分解したのが次のグラフです。大阪の4,371,600円から、茨城の2,084,100円まで、実に2,287,500円もの差があります。
タクシー運転者年間給与（2022年度都道府県別）
この2倍の地域差があることも、タクシー事業の特徴です。エッシェンシャルワーカーとして公共交通を担っている人たちが、地域によってこれだけの差があることは問題にはならないのでしょうか？
個人格差
加えて、地域差の他にも個人格差が大きいのもタクシー事業の特徴とも言えます。次の図は、私が勤めていた事業所の、ある月の最高最低営業収入を調べたものです。
タクシー日別最高最低営業収入フラフ
おそらく、同じようなことが全国の事業所で起きています。つまり、地域差があり、個人差があるのが、タクシー運転手の賃金だということです。その格差が2倍以上あります。
運転手の賃金別分類
賃金の地域差については、需要差で説明できます。では、運転手の営業収入（＝賃金）格差はなぜ起きるのでしょうか？次の図は、タクシー運転手を4分類したものです。
タクシー運転手の4分類
- Aは若い稼ぐ人たち
- Bは中高年の稼ぐ人たち
- Cは中高年の稼がない人たち
- Dは若い稼がない人たち
Ｃ、Ｄを構成するのは年金受給者や副業従事者、それにほんとうにマイペースな人たちです。Dの人たちは、年金や副業とは別に、例えば、親と同居している、という人が多いようです。（このことについては、以前「成果主義の失敗 タクシー運転手の賃金再考」で詳述していますので、今回はこれだけにします）
つまり、多様な働き方ができるのがタクシー運転手なのです。しかし、あまり多様過ぎると会社の利益が…。ということで、性悪説に基づいたルールが設けられました。2
出来高制歩合給という運転手の賃金について
運転手の賃金格差が生まれるのは、出来高制歩合給という賃金制度が原因です。この賃金制度は競争原理や成果主義がもたらす長所もあります。それに、多くの運転手も好意的に捉えています。
しかし、この出来高制歩合給が「運転手の賃金」を不明なものにしています。あるいは、曖昧なものにしています。つまり「賃金」が、地域、会社、運転手個人によって変動するということです。それも日々変化します。それがゆえに「賃金」という概念が曖昧、とも言えます。
変動する賃金
もう少し述べると、賃金が運転手により変動するので、「賃上げ」が意味することも違ってきます。中には「高くなくても良い」や「4、5、6月は社会保険計算期間だから」なんて、意図的に低賃金になる人もいます。このことが賃金の概念を曖昧にします。
つまり、「運転手の賃金」が低いことは確かだとしても、低さを許容している人もいるということです。そのため、運賃を上げる、歩率を上げるという賃上げの方法はあったとしても、それはきっかけであって、結局は運転手次第になっているのです。
となると、今の賃金制度では賃金を上げることは個人的な問題にすり替わってしまいます。したがって、賃金を上げるためには「賃金」を賃金制度の中で確固たるものに再設計しなければなりません。その方法のひとつは、固定給化です。変動する運転手の賃金を固定することではないでしょうか。
2023年度の運転者年収です。コロナが明けてタクシーバブルの地域もありますが、下がった地域もあります。
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