成果主義の失敗 タクシー運転手の賃金再考

タクシー事業の成果主義による歩合給制は、運転手の賃金と言う点においてはモチベーションアップになる。

売上の多寡による評価制度がさらにモチベーションを上げることになる。

しかし、それが運転手を利己的にし個人主義に拍車をかける。

その結果が、ご存知の通りのモラルの低下、例えば短距離利用者や車椅子利用者の乗車拒否や、交差点内での乗降や違法な付け待ちということになる。

この成果主義が集団全員のモチベーションアップになり、全員が「よく働く」ようになれば集団の利益は増加するのだろうが、そう簡単にいくものではなく、運転手の営収は散在する。

そうして、いわゆる働き蟻の法則に帰結する。

4倍の格差

次の図は、今年のある月の日別の最高営収と最低営収を示したグラフだ。

 

タクシー営業収入 日別最高最低表
図1 日別最高最低営収表

大きな開きがある。平均4倍程度の差が生じている。

歩合給による成果主義でタクシー運転手のモチベーションを上げようとしたとしても、このような結果になる。

成果主義の敗北は、営収(売上)だけを評価基準にしているために起きているともいえる。

なぜならば、労働の目的は賃金だけではないからだ。

くわえて、例えば年金受給者、副業として従事している人など、はたらかなくていい人たち」「はたらきたくない人たち」も存在する。

言い換えると歩合給(という成果主義、個人主義)によって生まれたといっていい集団が営収下位グループを形成している。

成果主義とタクシー運転手の賃金

図2は、運転手の営収を年齢で分類した分布図だ。

タクシー運転手年齢別営収分布図
図2 年齢による営収分布図

C、Dを構成するのは上述した年金受給者や副業従事者、それにほんとうにマイペースな人たちだ。

この集団の中には最賃割れ、要するに、歩合給が最低賃金以下の人たちがいる。

上位グループは、営収のピークなので、これ以上の増収は難しい。それで、このCとDのグループをいかに引き上げるかに知恵を絞ってきた。それが「知恵の結晶」と揶揄されるタクシー業界の賃金を含めた労務管理のシステムだ。

ということで、図3のように底上げをしたいのが事業者だ。それが「足切」というノルマを設ける真意でもある。

ただ、足切を設けたところで、最賃割れは起きる。いや、実は「起こしている」といってもいい。(その秘密は後述します)

タクシー事業 日別最高最低売上表2 成果主義の失敗とタクシー運転手の賃金
図3 日別最高最低営収表2

自由で儲かるひとたち

知恵を絞ったところで、最賃割れは起き、儲けない人たちは2割程度存在する。

これまでは、完全歩合給で営収に応じた賃金を支払っていればよかった。あるいは、待機時間を労働時間に入れない、なんて(悪)知恵を働かせて、労働時間に見合った最低賃金さえ支払わなかった。

「自由で儲かる」歩合給制は、儲ける運転手だけに有効ではなく、事業者にも都合のいいものだったのだ。

ところが、待機時間も労働時間になり(当たり前なんだが)、完全歩合給なんてことも難しくなっては、その集団がコスト高になってきた。

そうなると、儲ける運転手だけではなく、儲けない運転手にも「自由で儲かる」仕事になった。

ここで少しまとめると。

A、Bグループは歩合給で儲ける。

1,000,000円 (営業収入)× 0.6 = 600,000円(賃金)

C、Dグループは最低賃金で儲ける。

200,000円(営業収入)×0.6 = 120,000円 = 170,000円(賃金)

{1,000円(最低賃金)× 170時間(労働時間)=170,000円}

12万円の賃金は最賃補償をされるため17万円になる。売上げが全くなくても17万円は支払われる。

やらないもの勝ち、そんな集団ができてくる。集団におけるクリームスキミング、あるいはフリーライダーと言われる人たちの登場だ。

業界の宿痾

それでも、そういった人たちが悪いのか、というと、決してそうではない。突き詰めれば歩合給という成果主義で、自己責任を押し付けていた事業の在り方に瑕疵があったのだ。

結局、出庫してから自己責任で利用者を乗せるだけ、という「自由で儲かる」システムこそ、タクシー業界の宿痾だったのだ。

出庫してから誰の管理下にもない、それは「自由」だとしても、「儲かる」場合は良いのだけれど、「儲からない」場合は、お互い困ったことになる。

普通は、「儲からない」のなら会社がなんとかしようとする。ところがタクシー事業は歩合給というものに甘えてきて、「儲からない」のなら「賃金ないよ」という罰ゲームに終始してきた。

そしてそれもこれも自己責任で終えていた。

なんの施策もせず、そしてなんの教育もせず、運転手に全てを委ねていた。格差が拡大しても、貧困がまん延しても、自己責任で運転手に犠牲を強いていた。

 

もう、ここまで読んで(うまく書けてないんだが)賢明な読者の方なら分かってもらえたと思う。そう、どこかの国と同じことを、タクシー業界が行っていたのだ。

新しい賃金制度で、みんな幸せ

では、どうするかというと、

配分の調整

最賃割れは歩率で調整できる。

最低賃金が(170時間×1,000円=170,000円)、営収400,000円とすると

×40%=160,000円

×50%=200,000円

そう、歩率を上げることによって最賃割れは起きなくなる。

逆累進歩合給制のようなものにして、仕事を創出しながら、売上の低くなった運転手の歩率を上げる、そんな仕組みの創設。

月給制

月給制にすれば、業務量に関わらず最賃はなくなる。

仕事の創出

出庫させ「さあ、稼いできて」という放任、無責任な管理ではなく、仕事を作る。

「流し」主体ではなく「配車」主体へと、業態転換を行う。これがアプリ配車に力を入れている本質だったりする。

そして新しいタクシーコモンズを

これまでのように、成果主義で儲けない人たちを疎外するのではなく、分配や仕組みを変えて増収を図らないと、「自由で儲かる」歩合給制は複雑化する業務に対して、いやそもそも公共交通とは相性がよくない。売上での成果主義ではないタクシー運転手の賃金制度が求められる。

短距離、車いすの利用者に対する乗車拒否、先急ぎ行為による交通違反、交通事故、歩合給だから起きている。

そして、タクシー業界の発展を阻害して、ボクたちを貧しくしているのも、歩合給という制度なんだけれど、どうして誰も、ここにメスを入れようとしないのか、不思議でならない。

成果主義 – Wikipedia

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