ライドシェア対策、タクシー業界において新たに取り組む11項目
2016年に全国ハイヤー・タクシー連合会が「ライドシェア対策の深度化する項目として、『タクシーサービスの更なる高度化策の検討』を掲げ」、「今後新たに取り組む事項について(案)」として11項目の具体的提案が行われました。(全国ハイヤー・タクシー連合会「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」)
2013年9月にUber Japan株式会社が第2種旅行業者として登録され、翌2014年8月より東京都内でタクシー配車サービスが始まった。2015年2月には、福岡市で「みんなのUber」として自家用有償輸送の実験運行を始めるなど、ライドシェア問題が深刻化しはじめ、私たちタクシー運転手の間でも問題視しはじめた2014年~2016年でした。
その11項目と、5年経過した現在のタクシー業界の状況について解説したいと思います。タクシー運転手としてのの感想を☆で現してみました。
☆☆☆☆☆から★★★★★で、「いいね!」度合いを示しています。
初乗り距離短縮運賃
「初乗り距離を短縮することによる初乗り運賃の引き下げを行うことにより、乗りやすいタクシーの実現へ」ということでした。例えば、
- 2キロ700円を
- 1キロ350円に
このような運賃設計にし、短距離でも乗りやすくした取り組みでした。
東京特別区、武三地区の運賃改定
結局、東京特別区・武三地区では2017年1月に、それまでの、
- 2キロ700~730円、爾後280メートル90円(0.321円/メートル)を
- 1.059キロ380円~410円、爾後237メートル80円(0.338円/メートル)に
運賃改定しました。他の地域でも順次導入されました。
東京で「運送回数は、2km以下の利用者が20%増加するなど「ちょいのり」需要の創出。全体でも7%増加」、京都市で「従前と比較して初乗り距離未満の運送回数が2%増加」という検証結果が出ています。
三河地区の運賃改定
東三河南部交通圏では、前年の2015年に東海交通が、それまでの
- 1.5キロ700円、爾後246メートルごと80円(0.325円/メートル)を
- 1.2キロ600円、爾後246メートルごと90円(0.366円/メートル)に
この案を国土交通省に申請し、翌年2016年1月に運賃改定しました。(東三河南部交通圏では、2019年10月1日に、再度、消費税増税にともない、1.178キロ600円、爾後251メートルごと90円(0.359円/メートル)の、運賃改定を行いました)(タクシー運賃改定)
運賃が上がる現象
初乗り距離短縮が、結果的に、爾後運賃は値上りになりました。東三河南部交通圏では、1500メートル辺りから新料金のほうが高くなるという、初乗り距離短縮というよりも、運賃値上げではないかという声も聞かれました。
東京の改定でも、「10キロ乗車すると、3340円から3450円になる」という日経新聞4月6日の記事もありました。
歩合給制の賃金である運転手としては、客単価の低下につながるということで、反対する人もいました。その後の日車営収の上昇は、初乗り距離短縮が奏功したということでしょうか。
ということで、★★☆☆☆
相乗り運賃(タクシーシェア)
ライドシェアの始まり
「運賃は乗降地点によりシェア出きるシステムの構築」として、「割安にタクシーを利用できるサービスを提供し、利用者利便の向上を図る」「運送の効率化による生産性の向上を目指す」(mlit.go.jp)ことをめざし、2018年1月~3月にかけて実証実験を行いました。
マッチング率10%
結果としてはマッチング成功率は約1割でした。ただ、利用者は「運賃が安い」「また利用したいと思う」という声が多かったようです。国土交通省のインターネットモニターアンケートでは、
- 利用したいが30%
- 利用したくない26%
- わからない44%
という結果になりました。
気になることは、同乗者とのトラブルに巻き込まれるのではないかが52%でした。
相乗りを利用したくない理由として、相乗りする人がどういう人になるか分らない」と答えた人が、男性59.4%、女性71.7%になりました。
2021年の解禁
その相乗りタクシーですが、2021年11月に解禁になりました。しかし、解禁になっただけで、提供している業者がいるかどうかは不明です。nearMeなどのマッチングアプリはあるにしても、提供されていないエリアばかりです。
下の図は国土交通省の報道発表資料に掲載されている「利用イメージ」です。
運賃が安くなるにしても、実証実験のアンケートと同じく『「相乗りする人がどういう人になるか分らない」ので相乗りを利用したくない』利用者と、需要数減少とトラブルを危惧する業界、現場のタクシー運転手も、反応は悪い、というか、現場はやりたくない、と言う声の方が多いようです。
ライドシェア的なライドシェア対策
私も、利用者の利便性向上のために、わざわざタクシーの特性を捨てる必要があるのか、と考えているのですが、「11項目」発表時の2016年の資料には、「カリフォルニアではUber(Uberpool(サービス名))の売上の50%と言われている。」と記載されていて、もともとがUber、ライドシェア対策として考えられていた、とも読めます。
ということで、★☆☆☆☆
事前確定運賃
「期待出切る効果」として、「事前に運賃がわかることにより、安心感が産まれる。UBERでは事前確定は出来ていない。(おおよその運賃情報の提供はある模様)」ということでした。
ライドシェア対策とクレーム対策
タクシーのクレームやトラブルの原因は、運賃、経路(遠まわり)、接客の3つが多く、そのほかのものも、この3つに由来します。
「運賃が高い」ことと「経路」は、同時に発生するので、この事前確定運賃は利用者だけではなく、運転手にとっても経路違いによる運賃が高いという苦情がなくなることから「安心感が産まれる」と思います。これまでのイベントや観光などでの貸し切りや時間制での運行が事前確定運賃だったので、それほど違和感もありません。
導入が停滞している理由
2019年10月に制度が開始されたのですが、2年過ぎた現在でも導入が進まない理由は、タクシーメーターや無線システムの変更にともなうコストがかかるということと、係数という運賃算出の根拠となる数値を出すのが複雑(というか、これはこれまでのタクシーメーターのデータの取り出し方に問題があるのですが)ということもあります。
メリットが少ない、特に地方のタクシーにとっては、ということが導入が停滞している原因だと思っています。
いまだにスマホ配車も半自動(配車センターのパソコンに利用者の情報が入り、それを従来の配車システムに転記して配車する)という地方タクシーの現状では、メーターや無線システムの代替時に、徐々に新しいシステムを導入するのだろうと、そうなると、この事前確定運賃もですが、相乗り、ダイナミックプライシングも、導入には時間がかかるかもしれません。
MaaSには事前確定運賃
ただ、乗ってみるまで分らない時価運賃という現在の運賃制度が、MaaSとの間に親和性が低いので、いずれはメーターも配車システムも変更しなけらばならないのだろうと思います。そして現在も事前確定された運賃での運行があり、あったらいいなということも含めて★★★★☆