タクシー産業の特性

タクシーって、なんですか?

道路運送法ではタクシーを 「一般乗用旅客自動車運送事業」として、「一個の契約によりロの国土交通省令で定める乗車定員未満の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業」と規定しています。(道路運送法第二章第三条)

そのタクシー産業の特性について考えてみました。

乗車定員未満とは

まず定員ですが、国土交通省で定める「11人未満」になります。つまり乗車定員4人程度の乗用タイプの車両から、定員10人のジャンボタクシーと言われるものまでです。それらの車両をメーターや貸切運賃により目的地まで運送するのがタクシーです。

タクシーのいろいろな営業方法

例えば、流しのタクシーの場合、利用者は通行しているタクシーに向かって「乗せてください」と合図する、そしてタクシー運転手がその合図を認め停まる、乗車。

駅などの待機所

この場合は、停車しているタクシーに利用者が乗車。

無線配車

利用者が配車センターに電話する、配車センターがGPS-AVMなどの配車システムを使いタクシーへ配車指示をする、その指示を受信する、お迎えに行く、乗車。最近では、スマホアプリ経由で配車注文するスマホ配車もあります。

自由な働き方

次に、タクシー運転手は、乗車や配車までの間、どのエリアのどのルートを走るか、どこの待機場所で待機するか、いつ食事をし、いつ仮眠をするか、誰からも指示命令をされることはありません。

なお、営業形態が「車庫待ち等」(*1)の交通圏のタクシーは、基本的に流しをしないので、待機場所での乗込みと無線配車(アプリ配車)だけになります。車庫待ちになると、少しだけ自由度が少なくなって、待つことが仕事になります。

私も「車庫待ちなどの営業形態」で認可されている東三河南部交通圏(*2)で働いています。しかし、自由度が少なくなると言っても自由なことに変わりはありません。

タクシー産業の特性について

そんな、タクシー産業の特性については、次のように説明されています。

1.  国際経済労働研究(2019年07 藤野輝一氏)(*3)

    1. 中小規模事業
    2. 労働集約産業(賃率約70%)
    3. 低価格弾力性
    4. 景気動向による影響
    5. 即時財
    6. 同一的サービス等、中小事業者保護や利用者保護といった観点からの規制の必要性

2.  福祉拡充とタクシー需要の減退:タクシー運転者の賃金停滞の背景(橋本由紀氏・小前和智氏)(*4)

    1. 政府規制産業
    2. 法人タクシーと個人タクシーの併存
    3. 平均年齢の高さ
    4. 事業環境や営業方法が都市部と地方部で大きく異なる 総合研究

3.  日本のタクシー産業(慶応義塾大学出版会)(*5)

    1. 交通労働の特徴として
    2. 移動を伴う(労働過程において労働者(運転手)自身が交通手段である車両とともに移動する。
    3. しかも彼らの仕事場(労働環境)は、歩行者や一般車両も通行する公道である。この点が彼らの労働負担を増し、かつ、事業者による制御(労務管理・安全管理)を困難にする要素。
    4. 生産と消費が同時に行われる即時性である。

これから、上記13項目の特性について解説を試みてみます。

1-1. 中小規模事業

タクシー産業の事業規模は、個人タクシーの所有台数1台から数十台規模の中小企業が多いようです。事実、東三河南部交通圏の最大手東海交通でも、所有台数203台、社員数275人です(*3)。そのほかのタクシー会社はせいぜい40台、従業員数100人未満の中小企業です。

1-2. 労働集約産業(賃率約70%)

この「労働集約産業」とは「存在している産業の中でも人間による労働力による業務の割合が大きい産業のことを労働集約型産業と言う」(*7) ということです、つまり、売上が人にかかっている(タクシーの場合、運転手の売上がすべて)ということです。具体的には、経費の約70%が賃金で、その賃金の基礎が、売上の歩率60%という歩合給の制度を考えるとわかります。

1-3. 低価格弾力性

これは、価格(運賃)が高くなっても低くなっても、需要にはそれほど影響しない、ということです。これまで何度か運賃改定されてきましたが、私たちの営収の落ち込みは少なく、どちらかというと景気や車両数に影響されているようです。

1-4 . 景気動向による影響

上に書いたように、景気こそ収益に直接関係します。

1-5. 即時財

つまり、必要な時に乗車し、そして降りたら終わりです。

1-6. 同一的サービス等、中小事業者保護や利用者保護といった観点からの規制の必要性

これは運賃によく表れています。運賃やサービスが会社ごと違ったら、小さいタクシー会社は倒産します。そして利用者は混乱します。

2-1. 政府規制産業

タクシー産業は、岩盤規制なんて言われています。要するに、参入の認可制から増車減車、運賃料金まで政府の規制と認可許可が必要です。

2-2. 法人タクシーと個人タクシーの併存

これは、そのままです。

2-3. 平均年齢の高さ

以前からタクシー産業の高齢化が問題視されています。しかし、高齢者でも仕事を続けられる、始められる、ということでもあります。これは悪いことでばかりではありません。もちろん高齢化による弊害もありますが。

2-4. 事業環境や営業方法が都市部と地方部で大きく異なる

このことについては「流し」がなく「車庫待ちなどの営業方法」が地方に多いことが最も異なる点でしょうか。

3-1. 移動を伴う

これはそのままです。タクシーと共に、職場が移動します。そして自由に移動できます。

3-2. しかも彼らの仕事場(労働環境)は、歩行者や一般車両も通行する公道である

その通りです。

3-3. 生産と消費が同時に行われる即時性である

これは、1-5でも挙げられています。つまり、即時財で、コンビニのおにぎりのように、イベントなどに対して、通常の2倍3倍の供給量を用意することもできません。

なんとなく、ボンヤリと分かってきたような……。

タクシー産業の特性とは

つまり、景気に左右されやすいんだけれど、国の規制で守られているので、簡単には倒産しない、高齢者の多い中小企業で、車(乗車定員10名以下)を、好きな場所やコースを移動しながら、利用者を乗せて降ろし、賃金はその距離や時間で決まる仕事、そう言えます。

この特性こそが、タクシー業界の表と裏です。表を考えれば非常に楽な仕事、裏を返せば厳しい職場、ということになります。高齢者が多い、ということはすなわち

(1)体力を必要としない

(2)長く働ける

(3)人間関係が良い

(4)競争が少ない

(5)若くないのに若いと言われる

(6)苦労話が聞ける

(7)会社の規則やルールが緩い

なんて良いことずくめ、なはずです。40代でも若手と言われます。30代は孫です。競争もほとんどなく、ルールも規則も緩い、それは悪いことではないはずです。

こうして書いてみて、私自身も私が続けられてきた理由もハッキリしました。ということで、もう少しタクシー業界の中、その中を知りたい、そして働いてみたい、という人は、次をお読みください。

参考文献やサイト

*1.「8.車庫待ち等の拘束時間などの特例」タクシー・ハイヤー運転者の 労働時間等の改善のための基準p.9
*2.東三河南部交通圏 会員会社|愛知県タクシー協会(公式ホームページ)
*3.Int’lecowk 2019年7月号(通巻1091号)目次 | 国際経済労働研究所インフォメーションセンター
*4.RIETI – 福祉の拡充とタクシー需要の減退:タクシー運転者の賃金停滞の背景
*5.慶應義塾大学出版会 | 総合研究 日本のタクシー産業 
*6.会社概要 – 東海交通株式会社
*7.労働集約型産業 – Wikipedia

豊橋市市役所前市電の軌道 タクシーもよく通ります

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