期間従業員たちのゴールデンウィーク(3)

田んぼに張られた水の上には、眩しく輝いている太陽だったり、優しい新緑の山だったり、どうしようもなく切羽詰った夕陽の赤だったり、重く悲しい月光だったり、星だったり…。この季節の田の風景はどこも同じようであり、でも違っていて、とても美しい日本の風景だと思っています。
野洲駅の夕暮れ
野洲の夕暮れ。赴任時、3月10日はこの駅に泊まったのだけれど、あの日は雪になりそうな雨で…そんな記憶がよみがえる野洲だったのだけれど…。
九州にいます。昨日の夕方帰り着きました。普通電車で帰りました。
昨年のゴールデンウィークはバスで帰省しました。夏は18きっぷ。

帰省バスの乗って
乗り場は帰省客であろう人たちで混雑していました。中には田原工場で見たことのある人もいました。半分、いや3分の2ぐらいの人がトヨタや三菱の自動車関連の期間工や派遣社員なんだろうと思いました。若い人もいれば、50を過ぎているであろう人もいました。バス乗り場に来ると、そこには故郷の気配が少ししました。それぞれが故郷を想い、家族や恋人のことを想い、ただ時間が早く過ぎることを願っているように感じました。その想いだけが、きっと、ボクたちを支えてきたものだったのでしょう。
聖地へ、そんなことを考えました。長距離バスでの帰省がそう感じさせたのでしょう。五体倒地を繰り返しカイラス山へ向かうチベット教の宗徒のように、新幹線や飛行機ではないということが、その思いを強くしているように思いました。いえ、バスで帰るということは、そういうことなのでしょう。
夜がいくのを待つ、そんな時間が過ぎていきました。少し興奮もしていたのでしょう、少しウトウトしては時計を見る。その繰り返し。
闇が薄紫の風景と変わる頃、窓際の人は少しカーテンを開けて外を伺う。そこには見慣れた風景があったのかもしれません。そうではなかったにしろ、想いを感じる形があったのかもしれません。ボクは反対車線を走る車のナンバーに「帰ってきた」ということを実感しました。
そうして風景は完全に見慣れたものへと変化しました。そこいらに思い出が転がっていました。前に見た時と少し変わっているように感じました。それは木々の緑のせいなのかもしれません。バス停に着くと豊田に行った日のことが思い出されました。そんなに昔のことではないのですが、それはもう何年も前のことのように感じました。
バスを降りると、それからまたバスに乗る人、駅に向かう人、歩いて市街地方面へ向かう人、ベンチに座ってタバコを吸う人、電話する人…。少し恥ずかしそうに故郷の地面を踏みしめているように感じました。ボクはそこいらを少し歩いて家に向かいました。早朝の空気は少し濡れていて、確かに田原のものとは違っていました。それがなぜだかは分かりません。

雨の夜行バス
帰りのバスとは違って、行きのバスの中は重苦しい空気が漂っていたと感じたのはボクだけではないと思います。バスが名古屋に到着しても降りようとしない人もいました。行きはよいよい帰りは怖い…。
雨が窓ガラスを濡らす。ホーホーとした雨の糸が、時間の隙間にもぐり込む。追い越す車の音、トンネルの中での反射音、タイヤからの音、ボクたちが唯一外を感じることの出来るノイズの心地良いこと。閉ざされたカーテン越しに思うことは、散りばめられた思い出のパズルで、それを繋げるモドカシサは、時間とともに増殖を始める。なんと時間というものの残忍なことよ。

と、去年のゴールデンウィークの帰省のことです。カテゴリーの「帰省・旅・休日」を読み返すと、記事を書いたときの情景が思い出されて、そして涙が止まらなくなります。(自分で書いたもので泣いて…なんて思うのですが)
仕事をしている間というのは、時間が、質的量的ものを含んで、みんなに平等に与えられていると思うのですが、休日や、いえ、仕事以外の時間には少し差があって、こうして九州の片隅で真夜中にブログを更新しているだけの男もいるのだろうし、寮にいてカップラーメンをすすってDVDを観ている人もいたり、温泉旅館に泊まっている人、海外に行っている人…その時間の使い方(というよりもやっぱり「与えらいる時間」なのだろうと思うのだけれど)はそれぞれなんでしょうね。
ボクが、バスや普通電車なんかの各駅停車の旅をするのは、移動こそ旅だと思っているからなんです。はいはい、ま、旅費にお金をかけたくないと思うのもありますけれど。新幹線とか飛行機なんてのは、どうもかしこまっていて、目的地までの時間をいかに省略するかという、コストダウンの原理みたいなものでいっぱいで、そして車内/機内も「かしこまった移動」をする人たちの集団が、「なにがなんでも目的地までだもんね」なんて感じの利益優先主義の原理みたいなものが、これまたいっぱいで…。息苦しくなりますよね?
ま、バスもそうなんですが、各駅停車の旅ってのは、ちょっと違っていて「普段着の移動」みたいな感じで、ちょっとミマス(田原地区のスーパーですね)まで、という延長で、結果的に「あらら、もう博多なんだね」みたいな感じの風景の連続性がありますよね?いきなり「着いた」ではなくて、自分の位置をマッピングするような感じと言ったらいいのかもしれませんね。
そんな連続する車窓を背景に、日常の些事が繰り広げられるのが各駅停車の旅で、そこにはやっぱり圧倒的なリアリズムみたいなものがあって、割烹着姿の奥さんがサンダル履きで登場するのではないかと言う期待感に胸を膨らませていたりするのです。冒頭の田んぼの風景だってそうでしょうし…。
そして

日本海へ(3)
きっと、その少女もそしてボクも、新幹線や飛行機なんかに乗る時はキチンと「私たち人畜無害です」なんて背筋を伸ばして、そして少し気取ってしまうのでしょうが、ローカル線の、そして一時間に一本しかない、それも夜の便に乗ると、実家の部屋の中にいるような気持になるのかもしれないですね。
ま、決してボクも変な下心みたいなもんをペロリと出して、「時間まで一杯飲むか」なんてことは無かったですから。ま、それがジャパンの純情ってもんだろ。ってね。

こんな少女と出会ったり

帰郷・夢寐(12月28日)
糸崎行きの始発電車がホームに入ってくると、そのひとは自分の立っている位置を確かめるようにうつむき、そして少し後ずさりしたんだ。
ボクたちは寒くて眠れぬ岡山駅新幹線口前ベンチの夜を過して朝をむかえていた。朝が来たという感触はなくて、夜はまだ続いていたんだけれど、時刻表だけは生真面目に朝をそこに記していたんだ。

こんな寒い夜を過ごして始発電車に乗ったり……。
そんな出会いや思い出なんかを作れる時間があるというのも各駅停車の旅だったりすると思っています。時間の使い方は、例えば「時は金なり」なんて聞くと「速いことが良いこと」と思われるのでしょうが、実は「ゆっくりとした時間の使い方」が大切なことだっていっぱいあるんだと、ボクは思っているんです。
速くイクと嫌われるからね。って、それは違うか;)
#「オレのタクトタイムは65秒だぜ~」なんてことになると、ちょっと問題ですから…。
##画像は田原に帰ってから載せたいと思っています。たぶん、ここには野洲に沈む夕陽かな。

6件のコメント

  • blank

    岡山駅 旅館

    岡山駅☆旅館で見つけた、いい旅館! !いつも、このブログを読んでいただきありがとうございます。大変ご好評のこの旅館日記ブログ。今まで、あんな旅館、こんな旅館を紹介してきました。今日紹介する旅館お奨めは、ベネフィットホテル ほんまちです——————

  • blank

    ウエちゃんさん、こんばんは。
    えっと、トヨタですと8時間弱で定時ですから…。ボクの感じですと、それぐらいの体力をお持ちの方も少ないんじゃないかと思っていますよ。工程によってずいぶんと使う筋肉も体力も違いますけど。
    きっと、奥様にも伝わるだろうと思っています。きっと愛が全てなのだろうと思っています。もう動けないと思ったときに、動けるような力っては気持ちだろうし、そのときに思い出すのは愛なのだろうと、思っているんです。

  • blank

    こんばんは。
    先日、コメント書かせて頂いた45歳のオールドルーキー(予定者)です。皆さんが思い思いのゴールデンウイークを過ごしていた昨日、私はトヨタへのウォーミングアップも兼ねて、派遣バイトで家具の配送へ行っていました。
    最近ちょくちょくこの手のバイトには行ってたのですが、いやぁ~、今回のはキツかった!テレビボードだ、ソファーだ、ダブルベッドだ、とデカい物ばっか、朝の8時から夜の8時まで担いできました。気持ちは『何クソッ』なのですが、最後の配送先で遂に手に全く力が入らなくなった時は、悔し涙が出そうで、体力的にますますトヨタへの不安を募らせる結果に陥ってしまいました。つい先日まで偉そうに管理職ヅラしていたツケで、身も心も金縛りにされた様な気分でした。
    ただそれと同時に、新築の高層マンションへ家具を収めながら、つい2年程前にマンション購入を実現させようと、妻とモデルルーム通いをしていた日々を思い出し、胸の潰れる様な想いも味わうことになりました。
    いろんな事があって、現在、妻とは家庭内別居状態で(そんなに広い家じゃないのにね…)6ヶ月先、あるいは1年先、ひょっとしたら2年11ヵ月先でも、私には戻る場所が無いかもしれません。そういう事も、私がトヨタでの生活に明るい未来を見い出せない、大きな理由になっているんです。
    じょんさんへ
    激励の言葉、有難うございます。
    こんな私の頑張りが、他の方に勇気を与える事が出来るまでにはどれだけの時間が必要なのか、今は全く想像もつきませんが、この場を通じて繋がりが生まれているこの数日の感覚が、少なくとも私に勇気をくれている事は間違いありません。頑張る。それをしないかぎり、私にはトヨタにも、家庭にも、そして人生にも、もう行き場が無いのですから。
    管理人さんへ
    頑張りの連鎖かぁ…。確かに、ここにコメントを寄せられている皆さんには、今までそれを感じる事ができたし、その場に私も加われた事を光栄に思います。同時に、そんな場を作ってくださった管理人さんに、あらためて感謝です。

  • blank

    おはようございます。
    こっちの朝は寒い。
    >グッピーさんへ
    福岡の方でしたか。ボクも最初の時はGWは寮でした。寮周辺が静かだったかな。
    食堂も開いてれば良いのにと思うことがありますが、やっぱりそこで働く人のことを考えると…。それでも、田原地区だと4田原寮と滝頭寮で営業しているのかな。
    帰るところですか。えっと、ボクも、ここは故郷ではないのですが、それでも、帰るところがあるってことは安心感が違うかなあ、って考えています。「いつでも辞めてやるよ」ってなことも考えることが出来ますからね。
    でもやっぱりごろごろの毎日で、寮に居るほうが体を動かすし、健康的かもしれないと思っています。なによりも風呂が狭くて…風呂だけは寮が一番だと思っています。
    名古屋の夜ですかあ。駅周辺しか知らないから、どんなもんなんですかねえ。やっぱり色々とスゴイんだろうと、朝から考えています。
    >muko47さんへ
    あれ、今日帰省だったのですか。
    東京も連休中は静かなのかもしれないですね。
    総武線は、叔母が市原にいて行ったときに、それに成田発の飛行機に乗るのに使ったことがあるかなあ。
    えっと、ここでも暇なので、更新すると思います。今日は、何しようかなあ……。

  • blank

    今、僕は東京駅からの総武線の電車に乗ってます。
    20分前は豊田からの夜行バスに乗ってました。
    管理人さんと比べると全然近い距離なんだけど、旅慣れてない僕には これくらいが限界。
    ね、眠い。
    管理人さん、故郷でリフレッシュした後のブログ、楽しみにしてますよ!

  • blank

    管理人さんも九州なんですね。私も福岡県から来て一年を越えましたが、一度も帰省せずに名古屋の夜に繰り出しています。連休になると、ありえない位に寮は静かになりお風呂で人と一緒になるのも稀です。帰る場所がある事が羨ましいです。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA