期間工難民

昭和天皇誕生日でした。昭和の日という祝日名になったのですか、去年までが緑の日、でもやっぱり天皇誕生日というのがボクたちの世代にはピンと来るように思います。ボクたちの世代というか、昭和に生まれて昭和に思春期を送った人たちと言ったほうが良いのかもしれませんが…。
今日は暖かい、というよりも暑いぐらいの一日でした。半袖Tシャツ一枚で繁華街を歩いていました。
「故郷」ではない街なのです。「帰省」とは「郷里に帰ること」で、「郷里」とは「生まれ育ったところ」ですから、ボクの場合は帰省とは少し違うのでしょうね。「帰宅」が正確な表現なのだろうと思っています。
郷里を離れて、その街に住んで新しい家庭を築く、そしてそこが子供たちの郷里となる、ということはなにも珍しいことではなくて、トヨタに就職してそして豊田市や田原市、豊橋市なんかに住んで、結婚して家庭を持つと、もうそこが郷里となるのです。郷里を離れて、そして次の世代の故郷を築く、ということなのでしょう。
団塊の世代、集団就職で地元郷里を離れて、そしてそういった街に住み着いた人たちが多くて、その2世の人たちにとっては豊田市や豊橋市なんかが郷里になっているようです。ホッチキスもそういった団塊ジュニア世代で、ホッチキスにとっての故郷は豊橋、ご両親の故郷といっても、それはもう異国といった感じの街に感じられるのだろうと、思っています。ご両親も故郷の土に還るのではなくて、異郷の鬼となって我が子を見守るのでしょう。
Nの場合だと、期間従業員から社員登用を目指していて、シニアになることを決めたと同時に家族を郷里から呼び寄せる、そして1年か2年を豊橋市で生活する。晴れて社員登用すればそのまま住み続けるのでしょうが、もしも、もしも仮にその夢が破れた時には、また新しい土地を求めて移住するのでしょうか。それとも再度期間従業員として3年間を仮の郷里で送るのでしょうか。仮の故郷、豊橋。転勤で数年間、その場所で暮らすのとは違う郷里だと、思います。
また、もう帰るところもなくて、寮が唯一の住処という人たちもいて、中には住民票も寮の住所に移している人もいます。Nさんの場合もそうで、前の会社の寮から直接トヨタの寮に引っ越して来ました。住める場所と働く場所があって、入社してしまえばとりあえずその日から困らない生活が出来きますからね。
Nさんは、ほとんどのものを売り払っての引越しになったのですが、売り払えないものが多い場合だと、アパートを借りてそこに荷物を置いての移住になるのでしょうね。Tさんの場合がそうです。誰も住んでいないアパートの家賃を支払う。「半年間の満了金慰労金がちょうど家賃なんですよ」と笑うのですが、その保管料としての数十万円というよりも、安心料としての値段だと、ボクは思っています。帰る場所があるという安心です。辞められない状況というものは、けっこう辛いものがあると思いますから。
Tさんの場合は出稼ぎという感じが濃いのですが、Nさんの場合は難民といった感じもしています。履歴書一枚で雇ってくれるトヨタの雇用力というものは、そういった住む場所の無い人たちにとっては、仕事だけではなくて、その日からの住む場所と食事を約束してくれるものでもあるのです。
難民収容所としてのトヨタということ、そのことを考えると、有期雇用法が3年に延長されたこと、それに伴ってシニア制度ができたこと、そして最長延長者には就職の斡旋をしてくれることなどは、批評されるところもあるしボクも批評もしてきたのですが、救われている人もかなりいて、一宿一飯の恩義を感じて「トヨタ命」なんて人も多いと思っています。そういった人たちのことを、ボクは批評も出来ないし、それは美しい日本人の姿なのかもしれないと思ったりもしているのです。
過労死問題や自殺者などが取り上げられて、トヨタの害がクローズアップされがちなのですが、そういった益もあるということです。トヨタの雇用力ということを、ボクは誰と話すときも使うのですが、それにはボクがここでは書けないことなんかを多く含んでいて、実はそれがトヨタの切り札だったりするのだろうと……、ま、そういうことです。

How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
Yes, ‘n’ how many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?
Yes, ‘n’ how many times must the cannon balls fly
Before they’re forever banned?
Bob Dylan ”Blowin’ In The Wind”

ちょうど45年前、1962年に作られた曲なのです。これほど色々なものが進歩し進化したのですが、それほど変わってないものもあるということもあって、ボクたちはいまだに全てに優劣をつけているように思う。そしてなかなかたどり着けないでいるんだろうと、思っているんだ。

4件のコメント

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    なんのために生きているのか、というと、やっぱり生きるために働いているということになるかもしれませんね。
    食べて寝る、というだけのことが、とても難しく思う。そして愛するなんてことは、もっと難しくて、そういった働くことが、そのまま食べて寝て、愛すること、そのためになるのだろうし…。
    コンパクトに考えるのなら、食べて寝るだけの人生ならば、それほど働かなくてもいいのかもしれませんね。

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    朝早く工場のサイレンが鳴る
    男はベッドから起き 服を着る
    弁当を 持ち 朝の光の中に出て行く
    働くだけの 働くだけの 働くだけの人生だ
    多くの不安と痛みを通って俺は親父が 雨の中 工場の門を通って行くのを見ている
    働きすぎて耳が悪くなっても 働かずには生きて行けない
    働くだけの 働くだけの 働くだけの人生だ
    一日が終わり 工場のサイレンが唸る
    人々は 目の中に死を持って 門を出てくる
    今夜は誰かが 痛いめにあうはずだ
    働くだけの 働くだけの 働くだけの人生だ
    働くだけの 働くだけの 働くだけの人生だ
    1978年 B‐スプリングスティーン アルバム「闇に吠える街」7曲目 「ファクトリー」和訳より

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    ウエちゃんさん、おはようございます。
    えっと、ボクの今すんでいるところも、そんなアウェー感がありますよ。だいいち言葉が違いますから、うまくコミュニケーションできなかったり…。それが一番アウェーってのを感じる時かなあ。
    ですから、ボクも最初トヨタに行く事に関しては、ここに居るよりは安心感みたいなものがあったかもしれません。ここに引っ越してからのトヨタでしたから。
    退職・引越し・トヨタを一ヶ月半でできたのも、そういった安心感みたいな比較をしたのだろうと思います。
    いえ、トヨタの件はほとんどの人がそう思っていると考えていますし、ボクも、そうですから。引っ越して来て、そこから仕事を探すというよりも、今の住所に居住していた時間を長くしたいということもあってのトヨタでしたしね。
    トヨタにいる間にいろいろ考えたかったし。
    そんでも、ま、まだあとどれくらい歩けばいいのかは、なかなか見えないのですけれど…。
    ボブ・ディランは、はい、ま、muko47さんも、ウエちゃんさんも、この歌の年齢だったもんで…。1962年ということを書きました。
    ボクは、毎日、ゴロゴロしています。

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    こんばんは。
    明日から実家のある大阪へ戻ります。ただ、現在実家のある街は私が生まれ育った場所ではないので、「帰省」ではないのですが。
    トヨタへ旅立つまでの時間を、家族や旧友たちと過ごしてきます。本来なら、妻と別れを惜しみたい所なんですが、彼女の精神状態は、それも許してくれないようです。まぁ、元をただせば全て私の責任なので、仕方ないですね。
    私は、数年前に大阪を離れ、妻の実家にほど近い関東の街で暮らしているのですが、仕事関係以外の友人ができない生活に、これまでも淋しさは感じていました。まして、職を離れ家庭生活も壊れかけてる現在、味わっている「アウェー感」と言ったら、堪らない物があります。だから、ひとりでトヨタの街へ行っても平気な筈なんですが…。
    管理人さんが言ってくれた「愛」という事。皮肉な事に、こんな状況になった今だから、何のてらいも無く、言い切れます。笑っている妻の写真。カレンダーに書き込まれた妻の文字。クローゼットの妻のワンピース。そして、妻の残り香。全てが愛おしいです。本当に妻を愛しています。でも、妻を残して私はトヨタへ行きます。それが、妻が望んでいる事だからです。また、笑顔で『おかえり』と言ってくれる日だけを夢見て…。
    失礼な言い方に聞こえる方もいらっしゃるかもしれませんが、私にはトヨタに骨を埋める覚悟なんてもちろん無くて、いずれ今住んでいる街に戻って、そこを故郷にしたいと思っています。ただそれができるまでの期間、私を受け入れてくれるトヨタの街とそのシステムには感謝しないといけないな、という気持ちは持ち始める様にはなりました。あとは行ってから、冗談のひとつくらいは言い合える仲間が早くできる事、これが今いちばん望んでいる事です。
    もう5月か。いよいよだ…。
    あっ、ボブ・ディランの『風に吹かれて』って、私と同い年の曲だったんですね。

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