同意製造工場

ライン作業は気持ち良いのでしょうね。
随分前に、フロイトの快楽原則やステップを踏むダンサーの楽しさ、という視点で「ライン作業の快楽」ということを書いたのですが、その他にゲーム性ということもあるのでしょうね。例えばこれも前に書いたことなのですが、ボクだと「ゴルゴ13ゲーム」としてインパクトでボルトを締めていました。
インパクトレンチというライン上のマグナム45は、ボルトという弾丸を一発一発装填して、ターゲットに向かって撃ち込まれる…。いかに早く正確に出来るか、ということがかなり楽しい時期もありました。ゲームとして作業を行うことで、苦痛を軽減できたし、苦痛を快感に置換していたのだろうと思います。
マイケル・ブラウォイという人の著書に『同意製造工場』というのがあるそうです。先日、ふとしたきっかけでその学者の名前を知りました。和訳されていないのか図書館にもAmazonにもなかったので読んでいないのですが、佐藤郁哉さんが書いた『組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門』の中で、そのブラウォイの『同意製造工場』を紹介しているようで、その書評を読んでみました。
(書評だし、また引きで悪いのですが)

非常に面白いフィールドワークの入門書 – インキュベ日記
工場は一般に低賃金・重労働・単純労働・危険な職場であろうと俺は思うが、ブラウォイは工場の労働者を観察していく中で、「なぜ労働者はそんなにも一生懸命に働くのか?」という疑問を持つ。この問いに対する答えとしてブラウォイが提唱するものは「ゲームとしての労働過程」というアイデアである。様々な工夫を凝らして働くことが一種の「ゲーム」であり、そのゲームに興じることが、重労働や単純労働といった苦痛を軽減したり、工員たちの間のインフォーマルな社会関係で受け容れられ、一定の評価を得る。経営サイドにとっては図らずも真面目に働いてくれて嬉しい限りだし、工員たちも「ゲーム」に埋没することで苦痛を忘れられる。しかし工員たちはゲームに興じることで、現在の従属的・搾取的な地位・環境にあるという事実を結果的に黙認し、それに「同意」を与えてしまっている。そのことで従属的・搾取的な生産関係と階級間の関係に対する同意を製造し再生産している――という理論である。

快楽と感じた時点で、すでに期間工という非正規労働者の地位に「同意」を与えてしまっている、と言ってもいいでしょう。ここでは作業自体を、例えばボクの「ゴルゴ13ゲーム」のようなことについてではなくて、『様々な工夫を凝らして働くことが一種の「ゲーム」』ということ、すなわちカイゼンを行うことがゲームで、それに「埋没することで苦痛を忘れられる」としていますが、カイゼンについては、少し疑問に感じているのですが(工夫ということではなくて単純にスピードゲーム、あるいはダンスとしての動き、ま、それもカイゼンと言えばカイゼンなのですが)個々のカンコツ、暗黙知などもそれに含まれるのでしょう。
派遣切りされた非正規労働者に「正規雇用のチャンスはあったはず」という意見もあります。確かに昨年前期までは雇用状況もよくて、一昨年はトヨタも期間従業員から1200人と過去最高数登用しました。愛知で2倍以上の求人倍率があったのですが、かなりの数の人たちが、正社員という選択をしなくて、期間工や派遣社員としてライン作業に携わることを選択した、それは非正規という立場での快感もあったのだろうと思います。
毎日の生活が同じことの繰り返しで、その変化のない同じような行動も快楽なのですから、一度入ってしまうとなかなか抜けられないのかもしれません。「期間工スパイラル」というのは、なにも強要されたとか、そうせざるを得なかったということではなくて、自らの選択、それもかなり好都合なもの、だったのでしょうし。
「期間従業員をなくせ」なんて言う人も少なかったですよね。それで生活する、というよりも、それを利用する、という立場の人が多かったと思います。「金を貯めて」とか「時間を利用して」とか「ステップアップ」なんてワーディングで、その正当性を認めていました。一時的に利用することは良いことだと、ボクも思っています。
それは派遣、日雇い派遣も同じことで、労働者のほうが「同意」して働いていたのだから、派遣会社としても「今更」なんて驚いているのかもしれません。(全ての人ではないですよ。年齢によっては正規の道が閉ざされてる人も多いですからね)
どうも、そういうことを考えていると、失業者対策、雇用問題の複雑さが浮かび上がってきて、単に正規社員での雇用を望んでいるのではなくて、その失業者の大多数を占める元製造工には、あのゲームが忘れられないのではないかと思ったりしています。作業だけではなくて、寮での生活、いや期間工としての生活が、快楽的要素がたっぷりあるのではないのかと。
そしてその位置にいるということ、モラトリアムとしての快楽もあるのではないかと思っています。正社員になるとそこが終点になってしまいますから、いよいよ『同意製造工場』に拘束されて、というか中毒になってしまうのでしょうから。阿片窟のような……。
たぶん。
ライン作業の快楽
ライン作業の快楽(2)
ライン作業の快楽(3)
楽しそうな顔をして働いていますか?~ライン作業の快楽(4)~

5件のコメント

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    元エンジン製造さん、こんばんは。
    う~ん、ま、正規・非正規というのではなくて、ライン作業というのは、どうもうまく仕組まれているなあ、と思っています。
    あと「ストレスによる管理」なんて方法とか、知らず知らずに…。悪く言えばマインドコントロールされているということなのかもしれませんね。

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    自衛隊も銃を撃ちによく訓練にいくから楽しいと思いますよ。金は貯まるし仕事は面白いし車のライン作業なんかどうでもよくなりますよ。

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    確かに、期間限定だからあの退屈極まりないルーティンワークをこなせたんでしょうね。
    期間仲間はみんな正規をみて、「終身刑だよな」って
    侮蔑の目で見てたし・・・

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    今井Kさん、こんにちは。
    ああ、そうですね、回答のような…。回答は、あっさりだったのですが…。
    2月になりましたね。
    相変わらずの日々です。ここも畑でもあれば良いのですが…。

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    まるで誰かからの質問への回答のようですなぁwww
    素晴らしい。
    おいらは毎日ブログとかTシャツのネタ練ってたような…

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