銭ゲバ(3)ゲバ棒の意味

「格差社会ですかね、格差なんてずっとずっと昔からありましたよ。なくなりませんよ。貧乏人は必要なんですよ。お金持ちのためにね」と、派遣切り反対のデモの参加者に凄むシーン、その台詞が強烈な第三話の始まりでしたね。そして父との再会…。
「ふさわしい人がいるよ」
「愛してくれるの風太郎さんだけだもん、風太郎さんと結婚したい」
「結婚しよう茜、この家の一員にしてくれよ」
そして命がけで信用されようとする。
その格差が原因で死んだ母親、風太郎の殺人もその格差が原因でした。ずっと昔から、それは風太郎が生まれたときから、彼にまとわりついて離れないでいました。
「銭ゲバ」ゲバの意味は、ゲバ棒なのでしょう。あの安保の時の象徴であった、形而上的的な武器。
それは、例えば金剛杖のようなもののように思います。目の傷はあの頃のヘルメット。時には墓標となる。擬死再生の装置、ちょうど遍路が金剛杖を持ち、菅笠をかぶり、白衣を着て、「南無大師照上金剛」と唱えるように、イデオロギーを唱える。その「平和」とか「安保反対」という句偈。「金のためなら」とそれらが同調する、ようにボクには感じます。
人は幸せのために、幸せというなにか完結したものを求めてなければ生きて行けないのだろうと思います。それは、あの闘争だろうが、遍路だろうが、そして風太郎のような生き方だろうが、同じように思います。そして全く同じ手法で行われる。人としての業なのでしょうか。
格差はあったし、今もある。
ところが、上と下という両極だけではなくて、その中間も存在する。その象徴が食堂を営む家族です。
「何のために生きていたのか」
「あなたが生まれてきたことがお母さんの幸せ」
と食堂の人たちは言う。
その食堂の人たちは、ゲバ棒やあるいは金剛杖を持っていなくて、ひたすら庶民という形の「普通の幸せ」を希求する。
それでも、その場所にもたどり着けないのが、現在の格差の実態で、「金のためならなんでもする」という覚悟、それは犯罪ということも含めてなのだけれど、そういうことでもしないと、這い上がれないという格差や貧困の問題を、そこに提示しているように感じました。
闘うということ、それは第三話が労働組合の「派遣切り反対」という闘争とも比較されています。それがどれほど甘っちょろいものか、ということを風太郎は言っているように感じます。そしてそれは意図も簡単に「金」で転んでしまう。数十万円で人を刺してしまった、デモでビラを配っていた男がそうです。
労働組合のゲバ棒は「ビラ」なのですが、それとて実は「金くれ」と書いている薄っぺらなイデオロギーなのだと、いうことのメタファーなのでしょう。
今回はいろいろな「ゲバ棒」が登場しました。そしてそれらの多くは人の中にある、個人的な欲求完遂のためのもの、ということをボクたちの前に示してくれたように思います。そしてその欲求なんてものは実は幻想なのかもしれないと、実はかなり薄っぺらな物かもしれないと、それらのどれもがあの食堂の人たちの「絆」というこれもまた家族というゲバ棒なのですが、それには勝てないのかもしれない、ということなのだろうと、言っているように感じました。
今回も取り急ぎ、記憶が新しいうちに大急ぎでアップします。あとで加筆・訂正するかもしれませんが、ボクのリアルタイムな声ってことで…。
銭ゲバ
銭ゲバ(2)

6件のコメント

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    ゆうすけさん、こんにちは。
    そうなんですか。
    なるほど、そういうことなのかもしれませんね。
    巨大化した「システム」がボクたちの前に壁として立ちふさがっていますからね。(村上春樹さんの演説みたいですが)金以外に家族とか、言葉とか、そういった人間が作りだしたもの、全てなのかもしれませんね。
    そう考えると、70年代でも現在でも、そして未来でもってことなんでしょうね。

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    ゲバルトの形容詞形gewaltigには、暴力的なという意味以外に、巨大なという意味がありますね。金という人間が作り出したものが、社会において巨大化し、人間自身が巻き込まれてしまうという意味もあるのかなあと思います。ジョージ秋山さんの視点は好きでしたね。

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    ゲバゲバさん、こんばんは。
    そうですねえ、銭ガバでしょうね:)
    なんていうか、40年前とほとんど同じ構造だと思うと、なにしてきたんだろうねえ、なんて思ってしまいます。

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    まことさん、こんばんは。
    そうですね、あの組合運動の虚しさってことですよね。あすこだけでも番組が成立するように思います。
    ビラ配ってデモをしても、格差はがなくなるわけではないですしね。それどころか「切らなきゃ良いのか」ということにもなって、格差容認しているようなものだし。
    人を突き落として受験という「戦争」を勝ち抜いて来たと言うこと自体、もうすでに手を汚しているとも思うのですけれど。結局みんなゲバ棒を使って、隣の人を抹殺してんじゃん、ということのようにも思っています。

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    銭ゲバ… 原作できてから40年たっても銭ゲバ。原作者は銭ガバ? 来週も楽しみです。

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    今回も良かったです
    毎回、違った意味で深いドラマだと思います。
    田原さんが書かれてるように
    「格差社会ですかね、格差なんてずっとずっと昔からありましたよ。なくなりませんよ。貧乏人は必要なんですよ。お金持ちのためにね」
    という場面がとても印象的でした。
    あのクールさが
    組合運動の虚しさを浮き上がらせているような。。。
    どうにもならない格差を皮肉ってるようで
    真正面の闘いじゃないダークさが惹きつけますが
    自分もヤバイですね。。。

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