銭ゲバ

きっと、驚いた人も多かったのではないかと思います。松山ケンイチくん、こんな俳優さんがいたことにも、ボクは驚いたのですが、ひさしぶりに湿気とか匂いとかを感じさせるドラマかなあ、なんて第1回目は感じました。
「銭ゲバ」原作が書かれた1970年(昭和45年)という時代は、まだこの国にも貧しさがあって、蒲郡風太郎のような貧しさ喘ぎながらも「ベラ」(象徴的な意味でね)を贅沢だと思う、そんな少年が多くいました。宮崎努、宅間守、小泉毅と同年代、地方の、あるいは都会でも貧困の風景がすぐ隣に拡がっていたのだろうと思います。
その貧困の向こうには、安保、三億円強盗、大阪万博、と社会が大きなエネルギーを孕んでいて、ベトナム、浅間山荘、それらの変化が関わる関わらないにしても、隘路を彷徨うごとく胸裡に残ったのだろうと考えています。ほとんどの場合はカタルシスとなって、肯定されていった、のだろうと思っています。
ボクの生まれた田舎、漁村という集落にも、貧困の風景がありました。貧しさが平等にあった地域、時代でした。もらい風呂や、米の貸し借りなんてことも、普通に行われていました。
ボクの実家は、それでも風呂もあったし、十分ではないにしろ食糧もありました。ボクは貸すという立場からそういう現場に立ち会うことが出来ました。何人かのおじさんは父のことを「兄貴、兄貴」と言っていました。それは今でも続いていて、この正月にも、そのうちのひとりのおじさんが母に持ってきたという肉を送ってもらいました。そういった地域的家族、良くも悪くも言われるコミュニティーなんてものが、昔から、そして今でも存在します。
というボクの実家でさえ、長姉は中学卒業すると就職しました。そしてその10万円にも満たない収入から仕送りをしていました。定時制の高校を卒業して、その翌年には結婚をしました。そうすることが、彼女の幸せだったのであり、家族の幸せだったのでしょう。
両親は、特に父親はそのことを死ぬまで詫びていました。信じられないかもしれませんが、そういうことが少し前までは、あったのです。次姉も大学は二部でした。たまに「学資保険や銀行が融資してくれるのだったら、もう少し違う道もあったのにね」と、言うことがありました。電機メーカーの製造工場、ラインが彼女の昼間の仕事でした。そしてやっぱり仕送りをしていました。
家族という共同体が存在していた頃は、ひとりひとりの収入は少なくても、世帯収入が普通の生活を出来ることを可能にしていたのかもしれません。ボクの実家のように。
貧困というのは、少し前までは普通に、ボクたちの隣にあって、格差を感じることもなく、夢と同じ線上で触れあっていたのです。「努力」という、今では陳腐でチープな言葉になった差を、ボクたちは信じていました。真面目にやったら報われる、という価値も普通に存在していました。
そして「家族」という、これまた今ではインフレ化されたものに、幸福の在処を求めていました。ありふれた毎日、風呂があって糧がある日々が、ボクたちの希求する幸福だった時期があったのです。そしてそれが労働へのモチベーションになっていたのでしょう。
その在処、あるいは人生の桃源郷、普遍的な人類のあり方、なんてものを手に入れるのが困難になってしまったのが、今の貧困ということのように思います。その原因に「アメリカ」とか「家族」「資本主義」なんてキーワードを入れて考えても、解決策はまた別問題なのでしょう。
あの頃の貧困と比較すると、まだ今は幸せなのかもしれません。仕事は選ばなければありますから。風太郎の生き方のように派遣という道もあります。そして畳の下いっぱいのお金も貯められるでしょう。
でもそれは風太郎のように家族や人間関係を捨て去っているから出来ることのようにも感じます。ドラマの意図もそういうところにあるのでしょう。家族や人間関係の希薄化こそが、今の貧困問題の、いえ、風太郎という人間を作った原因なのだろうと考えています。
いきなり日雇い派遣、それもかなり条件の悪い派遣会社というシチュエーションで始まった「銭ゲバ」なのですが、40年前のことではなくて、実は今も起こっていること、あるいは今後起きること、と考えると、なるほど、あの頃も今も100年に1度の未曾有の変化点に社会があるのだろうし、田舎のようなコミュニティーは「派遣村」に代替され、「サラ金」で風呂や糧を借りられるのだろう社会に変化したのだろうと思うと、今ドラマ化されるべきなのかもしれないと考えています。
ただあの頃は、そのベクトルが上に向かっていたのですが、今は下方向に、そして地下に向かっていくように感じています。あるいは虚勢された貧困だけが残ってしまうようにも思うのです。そうなると国自体が貧困化する、という最終局面になる、ということです。
まだ風太郎のような貪欲さが残っているうちは、変化も起きるのでしょうが…。そうした期待感や、あの頃の高揚感みたいなものがない今の世の中は、この季節の冬枯れた風景にもにていると思っています。そしてなにか得体の知れない怖さみたいなものを、感じています。
そう感じさせる松山ケンイチくん、うまいね。でも、次の役に影響しないかなあ、と考えています。
と、「派遣の品格」も日本テレビだったかな。きっと同じ人たちが制作しているのだろうね。同じ匂いがします。きっと。
銭ゲバ(2)
銭ゲバ(3)ゲバ棒の意味

7件のコメント

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    風太さんへ
    そっか、昨日が最終回だったね。今からようつべで見る。

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    銭ずらぁ~自爆ずらぁ~?

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