タクシー業界において今後取り組む事項追加9項目について
タクシー業界は、2016年に「タクシー業界において今後新たに取組む事項について」として、11項目の目標を設定し実現に向け取組んできましたが、2019年になり新たに9項目を追加しました。
「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」への追 加 項 目 全国ハイヤー・タクシー連合会
11項目については、解説と私なりの評価を『「タクシー業界において今後取り組む事項11項目」について』に掲載しています。その追加9項目についても、同じように解説したいと思います。(以降「タクシー業界追加9項目」と略す場合があります)
MaaSへの積極的参画
MaaSとは
まず、タクシー業界追加9項目の1項目目、MaaSとは、について考えてみたいと思います。
下の図は国土交通省の「日本版MaaSの推進」に使われている概略図です。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療などの目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
これまでも、旅行や観光の分野では旅行商品として旅行会社が、図のような、出発地(ご自宅)→目的地(旅館ホテル・観光)→ご自宅、を一つのサービスとして販売を行っています。旅行や観光は、移動サービスとも言えるので、航空、電車、バス、タクシーなどの複数の交通サービスを利用するほうが、確実に円滑に提供できるからです。
MaaSは、これまでの旅行商品として宿泊、観光、移動のセット販売だけではなく、「利用者一人一人のトリップ単位での移動のニーズ」に応えるために、手段を多様化し、選択肢を拡大化する、そして予約や利用を簡易化させます。
それは移動の利便性の向上だけではありません。例えば、
- 公共交通空白地問題の解消や
- 小中学校統合した過疎地の通学手段の確保
- 健康増進のため外出機会を創出するための移動の確保
- 地域の見回り活動
タクシーを含む地域の移動に関する課題解消に活用するものです。
MaaSへの積極的参画
さて、追加9項目の1項目目は、その「MaaSへの積極的参画」です。
○ 国土交通省が早期実現を推進している
・MaaS相互間の連携によるユニバーサル化
・多様なサービスとの連携による移動の高付加価値化
・望ましいまちづくりとの連携
を特徴とする「日本版MaaS」において、タクシーを明確に位置付ける
○ 他の公共交通機関等との連携のよる新規需要の取り込み
を期待出来る効果及び目標としています。
これまでは、個人の移動は個別の運賃料金の支払いをしていました。例えば、自家用車、バス、電車、タクシー、など移動サービスごとです。「相互間の連携」「多様なサービスとの連携」がなく単独のサービスでした。
その中でも、タクシーは非常に使いづらい移動手段です。というのは、
- 電車やバスからの乗継が悪い
- 時間帯によっては運行していない
- 待たされる
- 運賃や料金が地域ごと時間帯ごと違う
さらに道路状況によっても変ってくるという時価料金で、他の公共交通よりも高額です。
このタクシーの特性が、この国の移動を複雑困難なものにしてきた原因です。ファースト、ラストワンマイルを担っているというのにです。
公共交通空白地対策
また、移動サービスを受けることさえできない地域もあります。公共交通空白地というよりも、公共交通疎外地があり、拡がっているのがこの国の現状です。Uber対策で始まった「今後新たに取組む事項」にこそ、実はUberのようなものが必要になってきています。そして実際にUberのシステムを使った自家用有償輸送を運行している自治体もあります。
MaaSで便利になるでしょう。その一方で、アプリ、プラットフォーマーの乱立で不便になることも想定できます。上に掲載している図に「ひとつのサービスとして提供、検索、予約、決済」という「ひとつ」という、誰でもいつでもどこでも、同じサービスの提供を受けられるような仕組みが必要だと感じています。
人類は移動したから進化したのかもしれません。そして、移動によって「公共の福祉に資する」という道路運送法の理念こそ、実は私たちタクシー運転手の使命でもあります。ということで、もっと移動を、もっと簡単に、望ましい、住みよい街をめざして、★★★★★です。
自動運転技術の活用方策の検討
概要
[概要]
・国、自動運転技術開発企業と連携し、各種実証実験に積極的に参加する等、自動運転技術における幅広い知見を深め、自動運転技術を活用した旅客自動車運送事業の在り方を検討
・現行タクシーと共存する新たな環境作りを目指し、タクシー業界からの具体的な要望案をとりまとめる具体的には、自動運転タクシーの導入に向けた道路運送法改正に向けた具体的な議論において、運賃、需給、保安基準、車庫に関する規制等について、実証実験等の事例も参考にしながら行政
に対する要望書を作成[期待出来る効果及び目標]
・自動運転レベル4、5が実現した際においても、タクシーを国民の移動手段として 明確に位置付ける
・ドライバー不足の解消
・人件費を中心とした運行費、運行管理費等の費用の削減
確かに自動運転タクシーの運行が始まれば「ドライバー不足の解消」「費用の削減」には効果があるでしょう。レベル4、5でなくても、自動化にともなう高度な運転支援によって、人為ミスによる事故、例えばブレーキとアクセルの踏み違いや、病気起因の事故が激減し、安全性も増すことになります。
- ドライバー不足は解消され
- 経営が安定化し
- 利用者の選択肢が増える
- 公共交通空白地も移動困難者も減少し
- 事故も減少する
自動化が進むことは良いことばかりに思えます。
人による自動運転自動車の運転
ただ、完全自動運転になったとしても、人が運転するタクシーはなくならないはずです。高付加価値化した移動手段となって、必要とされるはずです。なぜなら、サービスの本質は人の温もりだからです。
人の気持ちを理解し、人に優しい自動運転化されたロボットの方が便利でしょう。いえ、私たちがプロドライバーがそこに達すれば良いのです。それが、私たちが生き残る道なのだろうと思います。利用者の行動を決めるのは便利さや値段だけではないからです。
私は、というと、タクシーには黙って乗っていたい、運転手の自己紹介もいらないと思っています。だから、自動化されたタクシーを選んでしまいそうです。床屋さんも、ガソリンスタンドも、コンビニも、自動化されたものを選びそうです。
ということで、活用方策というか、いずれは自動運転タクシーが登場するでしょう。タクシー業界追加9項目の2項目目は★★★★★です。そのうえでの、人運転タクシーが貴重になるってことです。
キャッシュレス決済の導入促進
概要
[概要]
クレジットカード、非接触型ICカード(交通系IC含む)、QRコード決済等について、国の支援も活用しつつ、導入を改めて促進
[期待出来る効果]
・スムーズなお支払いを実現し、お客様の負担を軽減
・訪日外国人のタクシー利用促進
・現金取引の減少による防犯上のメリット
[今後の課題]
・決済事業者に対し、決済手数料の引き下げを要望
・決済手数料による原価上昇についての対応の検討
・決済後、タクシー事業者への入金までに一定期間を要することによる資金繰りの問題の検討
2018年6月に、「情報漏えいと不正被害の防止」と「セキュリティ強化」を目的とした「割賦販売法の一部を改正する法律」(改正割賦販売法)が施行されました。
すでに決済端末を導入していたタクシー会社も対応に迫られました。具体的には、ICカードや非接触型カードでの決済が可能な端末への切り替えです。端末未導入のタクシー事業者も多く、新規導入にしろ切り替えにしろ、全車両に装備しなければならないタクシー会社は、その費用の問題を抱えることになりました。
ただ、補助金の支援や、導入費用ゼロという決済代行会社も登場、さらには配車アプリの端末に決済機がついたものが出たこともあって、キャッシュレス化が進んだようです。また、PayPayなどの、QRコードによる決済方式は、ステッカーを貼るだけというように簡単に導入できたので、クレジット端末は未導入でもQRコード決済は導入しているというタクシー会社に増えて、キャッシュレス化はかなり進んでいるように感じます。
キャッシュレス化でチップがなくなります
配車時に決済手続きが済んでしまう、利用者は乗って降りるだけ、という便利なシステムも登場しました。タクシー運転手とすれば、チップが減った、という声もあります。実際「お釣りは取っといて」というやり取りが少なくなっています。20年30年前には当たり前だったタクシーのチップは、キャッシュレス化で消滅寸前です。運転手の実収入(バブル期には小遣いはチップだった、とか、食事とタバコ代にはなった、そうです)は減少して、運転手のキャッシュレス化も同時進行しているようです。そういうこともあって、運転手としては★★☆☆☆です。
Uberイーツのように、アプリ内でチップを頂けるシステムができたら、3項目目は★★★★☆です。
子育てを応援するタクシーの普及
概要
[概要]
・従来から取り組んできた子育てを応援するサービスである「妊婦応援タクシー」及び 「育児支援タクシー」の取組を全国津々浦々に普及
・利用者の方々の様々な要望を聞きながら、更なる子育て応援サービスの展開を検討
・各自治体が子育て中の家庭に配布する子育て支援のための商品券等の対象にタクシーサービスを追加するよう要望
・結婚・子育て資金及び教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置を拡充し、「妊婦応援タクシー」及び「育児支援タクシー」に係る費用を非課税とするよう要望[期待出来る効果]
・新規需要の取り込み
・公共交通機関としての社会貢献により、タクシーが身近な存在であることをPR
マタニティタクシー、妊婦応援タクシー、陣痛タクシー、呼称は違っていても「妊婦応援タクシー」は、2012年に日本交通が開始したという記録があります。(陣痛タクシー | タクシーなら日本交通)
陣痛タクシー
豊橋市内においても、2014年に、東海交通と豊鉄タクシーが「陣痛タクシー」として始めました。東海交通は小石マタニティクリニック、豊鉄タクシーはパークベルクリニックに通院、分娩予約されている方が対象になります。
- 事前にお住いの住所を登録(タクシーがお迎えにうかがう住所になりますので、里帰り出産などの場合はその住所です)
- 陣痛が来たらタクシー会社に登録した電話番号から電話(すでに登録されているので、「陣痛タクシーをお願いします」だけで配車できます)
- 365日24時間お迎えに行きます
東海交通は豊橋市内の方のみ対応、豊鉄タクシーは営業所のある田原市、蒲郡市、豊川市、新城市のみならず、パークベルクリニックでの出産を予定されている全ての人を対象にしています。(ただしタクシー代の上限が一万円です)
いざとういう時に安心なのでしょう。しかし私たちタクシー運転手は不安です。破水される方もいて「こっちのほうが緊張した」なんて話をよく耳にします。緊張と同時に、何か起きたらどうしよう。あるいは、どうなるんだろう、なんて不安もあります。それでも、出産と言う一大イベントに少しでも立ち会えることや、役に立てることに喜びも感じます。
PR効果と社会貢献
こう書いていて、確かに「期待できる効果」とされている、新規需要の取り込みと社会貢献というのは達成できています。そして、タクシーが身近な存在であるというPRにもなっています。
ただ、豊橋市のケースのように、
- 陣痛時に限定
- 病院も限定
という条件付きのサービスは、タクシーの付加価値を高めるのでしょうか。結局、産婦人科医院の価値だけを高めているようにも感じます。「公共交通としての社会的貢献」を実感しているか、疑問の余地が残ります。
そのために、一般化して誰でも事前登録によって陣痛時に病院までお送り出来るようなサービスが望ましいのでしょう。そして出産時だけではなく、その子供たちが育つまで応援できるようなタクシーのあり方を考えなければならないのだろうと思います。そのためには、私たちのレベルアップも必要で、ハードとソフトの両面で応援、支援できるようになれば良いのだろうし、出産割引や子育て割なんてタクシーを利用しやすい制度もあったら良いなあ、なんて思ったところで、希望も込めて4項目目は★★★★☆です。
ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)・福祉タクシーの配車体制の構築
概要
[概要]
◯各タクシー事業者、グループ、協同組合等において、利用者からのニーズに応じてUDタクシーをスピーディーに配車できる体制を構築
→ UDタクシーの導入の更なる促進
→ 配車センター等のオペレーターの教育等、UDタクシー配車の対応について整備◯国及び自治体の支援も活用しながら福祉タクシーの導入促進を検討するとともに、大型の電動車椅子利用者等、現状で対応が困難な利用者について、適切な車両の手配に資するよう、福祉限定事業者との連携体制の構築を検討
◯利用者に適切な案内をしていただくため、空港、鉄道駅、観光案内所、病院等に対し以下の情報を周知
・UDタクシー及び福祉タクシーの配車を申し込むことができる配車センター等の連絡先
・UDタクシーの仕様、UDタクシーを利用することができる車椅子の仕様及び乗降スペース等[期待出来る効果]
・ニーズに応じた車両の提供が可能となることから、利用者利便が向上
・新規需要の拡大
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会発行の「Taxi Today in Japan2021」と「ユニバーサルデザインタクシーの導入状況 」によると、全国のタクシー車両数は令和2年3月現在227,134台です。そして「令和2年3月末現在、全国で合計約20,000台(19,961台)のユニバーサルデザインタクシーが導入されています(JPN TAXIについては、令和3年2月末現在、全国で約24,000台、東京で約13,500台)」と発表されています。
導入されないUDタクシー
令和2年3月時点、国内では1%に満たないUDタクシー率です。
東京では次の通りです。
- 法人タクシー車両数30,695台
- 個人タクシー車両数11,810台
- 合計42,505台に11,230台
- 約26%の導入率
いまだに導入0台という事業者や市町村もある状況です。それでは配車体制を構築するどころか基礎工事さえできません。
国土交通省は令和2年11月20日に「バリアフリー法及び関連施策のあり方に関する検討会」において、次期目標の見直しに関する「最終とりまとめ」を発表しました。「バリアフリー法に基づく基本方針における次期目標について(最終とりまとめ)(概要) 」
導入率25%という目標
それによると、「2025年末までに、約90,000台、各都道府県における総車両数の約25%について、ユニバーサルデザインタクシーとする」という目標を掲げています。タクシー用車両がJPN TAXI一択なので、自然淘汰的に代替が進むのでしょう。しかし、このコロナ禍での業績不振により代替が困難な事業者も多いはずです。そういった事業者は、古い車両をそのまま乗り続けます。そのことが、さらに導入を遅らせています。
25%程度まで導入が進めば「スピーディに配車できる体制」や「UDタクシー配車の対応」の基礎ぐらいはできるでしょう。導入の補助金があるにしても、旧来のクラウンコンフォートとの値段差で相殺されてしまっては、お得感はありません。わざわざ、あるいは、思い切って買い替えることはしません。さらに、設備投資する体力のない事業者も多いようです。
タクシー専用車両
自然淘汰的に代替が進むとして、あと3年もすれば、25%には達するのでしょう。その頃にはEV化という新たな問題に直面します。車両が淘汰されるのではなくて、事業者が淘汰され25%もの会社が消滅した、なんてならなければいいのですが。
車両がUD化すればバリアフリーになるということではありません。全車両UD化の前に、配車拒否、乗車拒否という問題が起きています。つまり、私たちのUD化も必要です。人と車両、その配車体制の構築は必要だということです。5項目目は★★★★☆です。
その前に再構築しなければならないのは賃金制度を含めた労働環境にあります。
「運転者職場環境良好度認証」制度の普及促進
[概要]
・「運転者職場環境良好度認証」制度について、全タク連及び各都道府県協会が連携し、全国のタクシー事業者へ周知を図り、普及を促進
・認証項目の達成状況に応じ、「一つ星」「二つ星」「三つ星」の3段階で認証されるので、少なくとも「一つ星」の認証を得るように取組を進める
・タクシー業界のイメージを向上させることにより、乗務員不足の解消を図る[期待出来る効果]
・働き方改革アクションプラン(平成30年3月策定)で示された取組を確実に進めるとともにタクシー事業者が認証基準を満たすために様々な改善に取り組むことを通じて、より働きやすい労働条件・労働環境を実現
・今後検討されるインセンティブ措置による実益
(1)ハローワークを通じての周知
(2)一般監査の端緒から「長期間監査を実施していないこと」を除外
(3)補助金の優先採択
(4)2種免許取得の支援拡充(要望) 等
https://www.untenshashokuba.jp/
2021年度 申請案内書(認証項目・参考項目の解説を含む)を見ると、「一つ星」の基準に満たない会社をどうするのかということのほうが問題ではないのかと思ったり…。
今後検討されるインセンティブ措置が魅力に感じるかもしれません。そして、それにつられて星を増やす企業が増えれば自然と職場環境もよくなるでしょう。6項目目は★★★★☆です。1つ☆なのは、一つ星ぐらいは当たり前のことなので。
労働力確保対策の推進
追加9項目の7項目目です。運転手不足をどうするか、できなければタクシーの存続自体危ぶまれます。つまり、ライドシェア解禁論が再燃します。
「求職者が安心して就職できるため」に制度化された「働きやすい職場認定制度」もこの項目に該当するかもしれません。
各項目について考えてみたいと思います
女性ドライバー・新卒を始めとした若年ドライバーの採用拡大と定着・育成を進める方策
一昨年あたりから日本交通で新卒者の雇用を進めています。新卒者を中心とした営業所もあるようです。
タクシー運転者の平均年齢は高く、60歳を越える会社もあリます。地方では低賃金を受容できる年休受給者という労働力に依存している体質が、平均年齢を上げています。そのことが、平均賃金を下げている原因にもなっています。
賃金と将来性が新卒者の希望に添えるののでしょうか。いまだに、長時間労働で年収300万円程度に張り付いる状況で、どうして夢や希望を持てと言えるのでしょか。また危険な職業というイメージが女性の入職率を低いものにしています。
賃金の問題
若年タクシー乗務員は
- 他産業の若年労働者より高収入であること
- 定年以降も就労可能
- 収入額が著しく減少しない
- 生涯賃金で見ると高収入になる
をPR材料としています。しかし、他産業の賃金カーブが年齢、経験により右肩上がりになり、定年により下降してゆくカーブを描くのに対して、タクシー業界はよりフラットになります。つまり、将来性がない、ということです。
(出典)令和元年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ。統計調査 – 全タク連の数字をもとにグラフ化
この若年層高収入、フラットな賃金カーブという特性が、
- 定年以降も就労可能
- 収入額が著しく減少しない
- 生涯賃金で見ると高収入になる
という証明でもあります。
長時間、長期間労働により生涯賃金を確保できている、と言えます。しかし、タクシー運転手間の賃金格差が2倍にもなる地域もあります。平均的な「高収入」ではないのです。その賃金の正体が、若年ドライバーの採用と定着を妨げていると言えます。
高齢者ドライバーの活躍を推進する方策
そもそもの話なんですが、年金制度がありながら、高齢者の活躍は必要ですか。ですから、高齢者については「自由な無理のない働き方」が出来る労働環境とその設計が望ましいのです。
外国人ドライバーの登用を拡大する方策の検討
訪日外国人向けタクシーサービス向上アクションプランの推進
これは「2020年に東京において開催されるオリンピック・パラリンピックに向けて、今後、更なる訪日外国人の増加が見込まれて」いる中、「訪日外国人のニーズに対応した安全で快適なタクシーサービスの向上を図る」ために、次の4項目にちて対策を講じていました。
訪日外国人向けタクシーサービス向上アクションプラン概要 – 全国ハイヤー・タクシー連合会 (全タク連)
-
- 訪日外国人の母国と同じタクシー・ハイヤーの利用環境づくり
- 言葉の不安解消
- 決済の不安解消
- 関係機関と連携したプロモーション活動
このうち、2.言葉の不安解消の項目に「外国語で接遇が出来るドライバーの採用促進」というものがあって、「2019年度までに外国語接遇対応ドライバーを1万人に。(在住外国人1,000人、日本人9,000人)」という目標を掲げていました。
そのために
-
- 中国人留学生等を定時制乗務員(週28時間以内)として採用
- 国際業務ビザのインバウンド対応ドライバーへの適用(要望)
- 英語・中国語等による第2種運転免許試験の受験(要望)
- 技能実習制度へのタクシーサービス業務の指定(要望)
を、行うとしていました。
改正入管法の「特定技能1号」の状況を確認し、タクシーサービス業務への拡大(要望)
「特定技能1号」は、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
現在14分野ですが、これにタクシーサービスを入れてもらうように要望するというものです。
日系4世の受け入れに対応できるように業界内部における「受入サポーター」の確保や、ブラジル、チリ等、日系4世の多い外国へのPR活動の展開
特定活動ビザの拡大に合わせて、日本の大学を卒業する外国人留学生の就職先として、タクシードライバーの魅力を発信
戻らない人たち
以上3つの項目で労働力確保対策の推進を行ってきました。しかし、法人運転者の数はこのコロナ禍でさらに減少しました。
例えば東京特別区・武三地区では、
- 2019年12月に58,939人いた運転者が
- 2020年12月には54,986人に
- 2021年12月には51,024人まで減少しました
労働力の確保はさらに困難になっています。
「外国人の登用拡大・二種免許取得要件緩和で考えたこと – 道中の点検」に書いたのですが「『労働力確保』ではなくて、経営者もそしてボクたちも、一緒に働く仲間を募集する、という気持ちで受け入れないと、技能実習生に対するイジメや差別が起きる」と思うのです。
それに働いている私たち自身が分かりやすい職場環境の整備をしないと、そのうえで本当に働きやすい職場環境にしないと「確保」どころか、これからもさらに離職する人が増えるのだろうと、そして結局年金受給者に依存する高齢化低賃金という環境は変わらないと思います。
コロナ禍やウクライナ危機で、私たちの変化が加速することを願って、7項目目は★★★★☆です。ひとつ☆なのは、やっぱりよくわからない業界だ、と、私が思っているからです。
大規模災害時における緊急輸送に関する地方自治体との協定等の締結の推進
「全国の全ての都道府県協会と地方自治体との間で、災害時の緊急輸送の確保を目的とした協定等を締結」する目標を掲げていました。
期待できる効果を「公共交通機関としての社会貢献により、タクシーが身近な存在であることをPR」としています。
確かにPR効果はあると思います。大規模災害が起きなければ、身近な存在として感じてもらえるかもしれません。でも、ひとたび大規模災害が起きた場合、私たちは動けるのでしょうか。
UDタクシーでさえ乗車拒否問題が頻発しているのに、公共交通機関という意識をもって社会貢献を自主的にできるのでしょうか。危険を顧みずタクシーを運転することが出来るのでしょうか。そう思うのです。
今も、いろいろな社会貢献を行い、公共性をアピールしています。しかし、私たちの多くがタクシーという職業に求めているものは「自由度の高い職業」です。それをスイッチひとつで、変えられるのでしょうか。そもそも大規模災害が起きたら自分たちも被災者になっています。ということで、8項目目は★★☆☆☆。
タクシー産業の国内外へのアピールの推進
アピール4項目
- 全国タクシーガイドへの全会員事業所の登載の推進
- 国内外への日本のタクシーの素晴らしさを動画、ステッカー、広告等によりPR
- 日本政府観光局(JNTO)と連携した海外プロモーション活動
- タクシー全面広告の解禁への取組(特に東京)
上記4項目の目標を掲げていました。
ジャパンプレミアム
日本のタクシーの素晴らしさのPRとして
- 観光タクシーをはじめとする多様な輸送サービスの提供
- 徹底した労務管理、車両管理による安全性の高さ
- 事業者及び乗務員の倫理観の高さ
- 忘れ物を高い確率で確保・保管・返却
- 遠回りをしない、メーターを不正に操作しない
- 釣り銭を誤魔化さない
- 特別な資格(二種免許)を持ったプロドライバーの運転
- 多彩な決済方法への対応
- チップ不要
をあげています。
国内へのアピールは、このコロナ禍で、例えば感染者の移動、在宅治療者への薬品の配達、予防接種会場への移動、フードデリバリなど、タクシーの公共性をアピールできたと考えています。
ただ、相変わらずタクハラを訴える声も聞こえてきます。
逆に、カスタマーハラスメントやタクシー運転手への暴行事件なども起きています。
UDタクシーの乗車拒否問題は、タクシー業界のUD化というPRされる事案に水を差すことになりましたが、これは運用方法に問題があってのことだと考えています。
期待出来る効果を
1.新規需要の取り込み
2.タクシー業界の全体の接遇や品質の底上げ
としています。
確かに、日本のタクシーの素晴らしさ、その動画があれば、教育材料にもなるだろうし、広告やステッカーなどでのPRで私たち自身が自己啓発できるのかなあ、なんて考えています。
ということで、最後9項目目は★★★★☆
考えない人たち
現在2022年3月ですが、この追加9項目が発表されて3年近く経ちました。そのうち2年間はコロナ禍でほとんどのタクシー事業者が経営不振になり、中には倒産閉業する会社も出ました。
特に地方のタクシー会社は悲惨な状況です。最低賃金周辺の賃金に離職率も高くなっています。労働力確保がさらに困難になっています。
ただ、コロナ禍で、食品や衣料品のデリバリ―や感染者輸送、ワクチン接種会場へのタクシー代補助など、公共事業も行えました。これまでのタクシーとは違った感覚を私たちも持つことことができました。
自由という不自由さ
賃金、自由、そのことは労働としてのタクシー業界の魅力で、募集に使われるキャッチフレーズですが、そのことが逆に定着率を低下させます。歩合給であるために今回のようなコロナ禍で市況が悪化すれば低賃金になる。市況悪化もですが、事故や違反でその自由もすぐに奪われるのです。
すぐに同世代よりは高賃金で働ける、入社2か月でベテランと同じ賃金、とタクシー業界の良さを説きます。派遣社員や期間工、非正規雇用で働く若い人も同じようなことを言っていました。
賃金制度改革を
「楽して稼げますか?タクシーの運賃値上げで考えたこと – 道中の点検」にも書きましたが、甘い甘い歩合給での賃金制度はそんなに楽して稼げる職業でもありません。そして不透明です。
運賃は同一地区で同じですが、歩率も勤務も環境もすべて違うのもタクシー業界です。そこも人が集まらない理由です。
それでも、このコロナ禍、ウクライナ危機で、いろいろな変化が加速し、利用者、運転者、事業者ともに良くなればいいのになあ、そう考えています。タクシーにまだまだ未来はあるということで、タクシー業界は★★★★★かもしれません。