歩合給について、タクシー会社の無能な社長たち
歩合給こそ、タクシー事業の発展を阻害している原因ではないでしょうか。なぜなら、無能な経営者でも出来高制歩合給という賃金制度と、足切りという賃金の仕組みによって利益を出せるからです。言い換えれば、タクシー会社の収益は運転手次第、ということです。無能な経営者でも「事業の継続が容易となる」1ということです。
そして、そのような経営者が退場しない仕組が、私たちを苦しめているのです。さらに、現在深刻化している運転手不足の要因なのです。
歩合給という飴と鞭
タクシー事業が抱えている問題のいくつかは出来高制歩合給に起因します。




何度かこのブログで述べてきましたが、要約すると、経営努力や意欲のない事業者(経営者)であっても、歩合給だったから会社が存続できたのです。その無能な事業者による経営が、運転者の賃金を含む労働環境改善の道を閉ざしてきたと言えます。
タクシー事業の原価構成
歩合給がタクシー事業の生産性向上や品質改善の阻害因子であることは、原価構成が人件費67.5%2ということからも証明できます。3
人件費が原価の67.5%ということは、事業収益、収益率は人件費で決まる、と言えます。つまり、タクシー経営のコツは人件費を抑える、これに尽きるのです。(人材派遣会社の原価構成もこれに近いのではないのでしょうか。)例えば、ケーキ屋さんは、美味しいケーキを作ろうとします。そして、良質の材料を使うとか、高くても腕の良い職人を雇う、なんてことになります。タクシー経営者にはそういった経営哲学や思想が非常に希薄です。
出典:TAXI TODAY in Japan 2023 全国ハイヤー・タクシー連合会4
歩率の操作だけの収益率改善策
収益が人件費で決まるのですから、例えば、歩率が65%だとすると、65%を60%にすれば、あっという間に5%も儲かるのです。賃金の歩率だけではありません。経費と言われる修理費や交通費も歩率で調整します。
その一例が「不当な運転手負担」と言われる、経費(原価)の運転手負担です。その運転手負担には、事故修理代、高速料金代、障がい者割引、決済手数料などがあります。このように、会社の経費が歩率に紐付けされています。つまり、人件費を中心に運転手に関する経費をいかに歩率によって操作するかが、経営手腕なのです。


タクシー事業の費用構成イメージ図
明日は明日の風が吹く
「明日の売上は明日にしか分からない」「売上は運転手次第」「歩合給でないと仕事しないからな」よくある社長のセリフです。まるで他人事です。しかし、確かに会社の営業収入は運転手次第なのです。分かっているのは「足切り金額(ノルマ)はいくだろう」という大雑把な売上予想と、その足切り金額×人数という程度なのです。
そもそも、経営と言える基礎や概念がないのがタクシー会社の無能な人たちなのです。しかし、それで良いのです。なぜなら、出来高制歩合給だからです。
これまで述べてきたように、原価構成のほとんどが人件費だからです。経費=人件費=運転手の出来高による歩合給だからです。営業収入が悪ければ、自然に経費も減少します。このことは、賃金制度自体が運転手負担になっている、と言えます。
東京特別区武三地区、運賃改定時の算定根拠5、歩率の根拠はここから求められそうです。
出来高制歩合給による品質の劣化
人件費と品質の経費削減が、タクシーの品質劣化をもたらしました。そしてその人と品質を粗末にした結果が、今のタクシー不足です。
前項で、ケーキ屋さんを例にしてコストと品質の話をしました。出来高制歩合給の致命的な欠点は、出来高≠品質ではないということです。つまり、美味しいから売れているのではないのです。さらに、お客様がケーキ屋、ケーキの種類を選べない状況で商売をしているのです。6
この出来高と品質の関係を象徴しているのが、乗車拒否問題です。近いから、車いすだから、という理由で乗車拒否という規則違反をします。あるいは、スピード違反、横断歩道での停車、無理な割り込み等も起こします。さらに加えて、長時間労働になり、それに起因する交通事故、健康障害など、引き起こします。
すべて、出来高制が原因です。そして歩合給だからです。
歩合給という賃金の不透明さ
不透明さも、タクシー運転手不足や離職率の高さの原因です。第一に、入社するにあたって、出来高制という不安定さを思うことでしょう。出来るのかどうかが分からないのに入社しなければなりません。
第二に、事故や病気になった場合には「出来なくなります」。この不安はタクシーに乗っている限り付きまといます。いえ、労災になるほどの事故なら保証もされるでしょう。しかし、自らが起こした事故、違反は保証してくれません。
第三に、同一交通圏同一運賃なのに、会社によって歩率が違います。その歩率も、例えば、ボーナスの有無、退職金の有無、乗務員負担の有無などにより分かりません。この分かりにくさについては「歩率の操作だけの収益率改善策」の項で述べた通りです。
賃金が複雑に難解になります。そしてそのことが「知恵の結晶」と言われる怠惰な経営を許すことになります。経営努力や生産性改善ではなく、経費削減だけ知恵を絞る原因になりました。
無能な経営者が退場しない理由
これまで述べてきたように、出来高制歩合給は良いことがないのです。いえ、あるとしたら、やっただけ貰えるという成果主義賃金ということでしょう。この「やっただけ」が、品質の劣化をもたらし、運転手の命を縮めている、というのはこれまで述べてきた通りです。
そして「知恵の結晶」という方程式が、怠惰な経営をさらに怠惰にしました。何も考えなくても、飴と鞭で運転手が「自由7 」に「自発的に」「稼いで」きてくれた/くれるのです。
経営者からして品質に興味がないものだから、いまだに「サービス業か8」や「底辺か9」という論争が起きます。
そもそも、出来高制という成果主義や競争は、資本主義そのものなのです。その競争が嫌いで「自由」を希求したにもかかわらず、競争や成果主義の虜になっているのです。いえ、競争や成果主義が好きなら良いんです。そして制度がもう少ししっかりしていれば良いんです。今は、単純にやったもん勝ちになっているのです。そして「売上正義」になっています。
歩合給からの脱却
最後にライドシェア問題のことを絡めて言えば、この出来高制歩合給こそライドシェア的なのです。「不安定な賃金制度が日本の雇用を破壊する」のではなく、すでにタクシー業界において「不安定な賃金」も「雇用破壊」も起きてるではありませんか。それが運転手不足です。
いつでも、どこでも、誰でも、雇用されます。ところが、離職率も高いのです。コロナ禍での大量離職も、出来高制歩合給という賃金制度による低賃金が原因だったのです。その大量離職からタクシー不足に陥り、ライドシェア問題になっているのではありませんか?
このような問題解消のためには、賃金を固定給化すれば良いのです。あるいは、多方向からの評価制度を確立し、基本給30万円からの賃金制度を設計にすれば良いのではないでしょうか。
このようなことを言うと、経営者側(のような考え)の人が出てきます。そして「遊ぶ人がいる」「仕事をしない人がでる」「年金受給者が」とか「働かなくてもいい人もいる」なんてことになるのですが、売上を経営者が創作すれば良いだけなのです。事業者が、いかに売れるかを考えれば良いのです。どうすれば美味しいケーキを作れるか、を考えることが必要なのです。
経営を運転手から事業者へ
これまで運転手まかせだった売上を、経営者が作る、それだけの話なのです。「遊ぶ人」は経営者が対策を考えるのです。「働かない人」も同じです。それら全てを労働者に任せっきりでした。それが業界の発展を阻害したのです。
だから、歩合給こそが業界の宿痾であって、それを取り除かなければならないのです。それが出来ないのなら、ライドシェアでも良いんじゃね、なのですよ。


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- TAXITODAY in Japan 2023 全国ハイヤー・タクシー連合会
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