つばめ vs 名鉄
つばめvs名鉄ということになりそうな予感。というもの、つばめタクシーが運賃改定申請を3月31日に行った。
そのことについて前回考えてみた。
今回は運賃改定の手順から、もう一度考えてみたい。
運賃改定の審査手順は次のようになる。(参照「タクシー運賃値上げについて考えたこと(3)」)
図1 運賃改定の審査手順について(「タクシー事業に係る運賃制度について – 国土交通省」より)
1. 3ヶ月
3月31日につばめ自動車が最初の申請をした。この第一号申請から3ヶ月間受付をする。よって6月30日までに「運賃改定したい」タクシー事業者は申請をしなければならない。
2. 70%ルール
その6月30日までに、今回申請があった運賃適用地域(名古屋交通圏)における法人タクシー事業者の7割を超える申請があった場合に、運賃改定手続きを開始する。
名古屋交通圏の法人タクシー保有車両台数が75社5,196台(出典:東京交通新聞第3003号「名古屋交通圏法人一般タクシー台数 本誌とりまとめ」)、その7割の3,638台分の申請が必要となる。
つばめ自動車の所属するつばめタクシーグループが1,138台保有している。したがって、残り2,800台の申請で改定作業が開始される。
名古屋交通圏の法人タクシー事業者の保有台数は以下の通り。(同じく「東京交通新聞第3003号「名古屋交通圏法人一般タクシー台数 本誌とりまとめ」より作図)
グループ・会社名 | 保有台数 |
つばめタクシーグループ(13社) | 1138 |
名鉄タクシーHD(6社) | 901 |
フジタクシーグループ(5社) | 535 |
宝タクシーグループ(3社) | 415 |
まいにちタクシーグループ(4社) | 307 |
明和グループ(7社) | 302 |
グリーングループ(6社) | 232 |
名古屋近鉄タクシー | 232 |
名古屋ハイタクグループ(4社) | 184 |
第一交通産業グループ(2社) | 154 |
東宝交通 | 115 |
名古屋エムケイ | 105 |
名鉄西部交通西部 | 85 |
柳木交通 | 45 |
帝産キャブ名古屋 | 40 |
東名交通 | 39 |
ひばりグループ(2社) | 39 |
瀬戸自動車運送 | 36 |
文化交通 | 35 |
キリンタクシー | 32 |
栄交通 | 25 |
柴田自動車 | 28 |
名古屋バス | 28 |
日の丸タクシー | 27 |
昭和タクシー | 22 |
豊明交通 | 20 |
太平交通 | 16 |
丸八交通 | 13 |
いづみタクシー | 11 |
大橋タクシー | 10 |
やすいタクシー | 10 |
東海タクシー | 8 |
玉利タクシー | 7 |
合計75社98営業所 | 5196(特大51大型1普通5144) |
3. つばめタクシーグループ1138台+名鉄HD986台
名鉄西部交通は事業再編で名鉄HDへ全株移管されての傘下になっているはずなので(というか名鉄グループなので)名鉄HDの保有台数は986台になる。つばめ+名鉄で2,124台、全保有台数の40%にあたるので、両グループが値上げ申請すればそのまま当確が打てるかもしれない。
しかし1558台が申請を出さなければ70%に到達しないので、仮に名鉄HDの986台がその出さないほうに加われば残り572台、そうなるとギリギリまで分からなくなる。
ただ、価格弾力性の低い産業であるので、値上げしても需要量に変化はない、そう考えるはずだ。みんなで渡れば怖くない、のだろうし。
6月30日に締め切られ、運賃改定が行われる。11月、年末の繁忙期、一年中で一番需要が高まる季節。値上げするには最も良い時期だ。それも考慮している。さすが天野社長だ。
でもね、ウクライナ危機が去り、新型コロナ感染症が収まり、燃料費が通常に戻り、景気が回復していたら、「あ、ごめん、燃料代安くなったじゃんね」と撤回しますか?
図2 ガソリンおよびLPG小売価格の推移(数字が入っている年に東京特別区の運賃改定が行われました)
4. 燃料費高騰という理由
前回も書いたように、「燃料費高騰」値上げ申請理由にしていることをボクは問題にしている。
「燃料費高騰」は確かに経営を圧迫していのだろう。そのため支援を受けている。しかし運賃改定で燃料費高騰分を運賃に加算する。では、燃料費が下がったら値下げするのだろうか?あるいは、運賃で回収しました、と支援される補助金を返金するのだろうか?
さらに問題は、コロナ禍での異常な原価(原価構成)が発生している中、総括原価方式による正常な原価計算ができるのだろうか……。火事場泥棒のニオイがしないか?
それらを含めて、タクシー運賃の決め方やあり方、石油ガス税のあり方、運転手の賃金の仕組み(歩合給)を、変える必要があるのではないのか、そう思う。
(そのことについても拙ブログ「タクシー運賃値上げについて考えたこと(1)| 道中の点検」でも書いています)
「燃料費高騰」ではなく、まずは「運転手の労働条件の改善」を理由に挙げてくれ。賃金が上がらないまま物価だけが上がり、ボクたちの生活はなにひとつ「上がらない」。そして労働条件の改善で(値上げの)是非を問うてくれ。
このコロナ禍で、エッセンシャルワーカーとして24時間365日街を守ってきた。フードデリバリもした。ワクチン接種会場への輸送もした。感染者の輸送もした。薬品も運んだ。なにをやっても貧しいままだ。
そこを世間に問うてくれ。
そして歩合給で威喝する賃金制度を改めてくれ。そうすればキチンと原価計算もできる。ボクたちの賃金も日払いから解放され年収で確定される。そのためにも「運転手の労働条件改善」「運転手の貧困化解消」「運転手の賃金安定」を値上げの理由にしてくれ。
5. つばめ対名鉄、そして2人
と、何度も同じことを書いてきた。
つばめの天野社長が「燃料費高騰のため」と言い、名鉄の浅野社長が「運転手の労働条件の改善のため」と言ってもらいたい。そして「そうだよね、タクシー運転手頑張ってくれたよね」と社会から認めてもらえる。そんな値上げになってほしい。
経営者が運転手のことを少しでも考えているのならば、自ずと「運転手」という文言が発せられるはずだ。そう思う。
そして、2人の経営思想がタクシー業界の未来を決める。そう考えているんだが…。
図3 名古屋 つばめ自動車運賃改定案と現行運賃
参考・出典
タクシーのつばめ自動車(名古屋市)は一日、名古屋地区の初乗り運賃などを値上げする運賃改定を中部運輸局に申請したと発表した。申請は三月三十一日付。同社は新型コロナウイルス感染拡大の影響や原油高に伴う燃料費高騰が経営を圧迫しているためと説明している。
名鉄タクシーグループの事業再編(会社分割(簡易吸収分割))に関するお知らせ
統計局ホームページ/小売物価統計調査(動向編)/東京都区部の価格の動向
タクシー事業の現状について(特別区・武三交通圏) – 国土交通省 地方運輸局