値上げ反対、タクシー運賃値上げについて(6)

値上げ反対の理由について、6回目はまとめてみます。

東京都内のタクシー運賃値上げの理由として、以下の項目があげられています。

  • 利用客の低迷
  • キャッシュレス決済機の導入費用
  • 感染対策
  • 燃料費高騰

この4項目が値上げの理由にはならないのではないか、ということをこれまで述べてきました。

都内タクシー運賃、値上げへ キャッシュレスや燃料高で: 日本経済新聞

東京都内タクシー料金 秋にも15年ぶりの値上げ 原油高で申請相次ぐ – Yahoo!ニュース

この4項目以外にも、例えば、乗務員の労働環境改善のため、賃金を上げるため、などが改定が決まれば発表されるはずです。

原価標準基準を満たすのか?

今回のような異常事態に、「利用者の低迷」を値上げの理由にしていいものか、という疑問が今回の長々したブログ記事を書くきっかけでした。

「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の判断基準」(101号通達 別紙1)

災害、その他の理由によって異常な原価が発生し、当該地域の原価の標準を算定するために適当と認められない事業者」に該当し、そもそも原価標準基準を満たさないのではないのでしょうか。

このコロナ禍で、そしてウクライナ危機で、タクシー事業者だけが利用者が低迷し収支が悪化しているわけではありません。また、利用者も大いに痛んでいるのではないのでしょうか。

そのような状況で、今回の値上げが利用者に理解されるのでしょうか?

運賃値上げは正しいのか?

異常な原価と異常な収支率は新型コロナ感染症拡大による緊急事態宣言やまん延防止特別措置による人流抑制が原因です。コロナ終息とともに、移動制約がなくなれば回復すると考えられます。現に3月21日のまん防解除後は実車率・日車営収が上昇し「解除バブル」と言われるほど回復しています。

考えない経営

コロナ禍での利用者の低迷以外にも、スマホ配車の手数料、タクシー車両代の高額化が原価を押し上げていると言っています。

しかし、それらは利用者の利便性を向上させ、利用者を増やす機会にもなっています。そして経営の効率化を促進する/させました。例えば、

  1. スマホ配車が多くなれば無線室の効率化ができます。配車を外注化する会社も増えてきました
  2. 無線配車の一括化。各社、あるいは各営業所ごとの配車を一元化することによって経費削減と高品質化
  3. 外国人利用者の利便性向上により白タクの排除
  4. 車いす利用者の増加(これも福祉タクシーではなくて、タクシー会社がやってもよかった分野です)
  5. UDタクシー講習受講者増加によるサービス品質向上

また、燃料費高騰については前回考えたように

  1. 価格が上下する燃料費は運賃に上乗せしないで、サーチャージ料のような制度で調整する
  2. JPN TAXIの導入で燃料使用量げ減少している
  3. コロナ禍での総走行距離減少で原価構成比が変化している
  4. 燃料代高騰が経営を圧迫する仕組みにしてしまうと賃上げができない
  5. 「災害、その他の理由で異常な原価」での計算は正当性がない

税制の問題

それ以外にも

  1. 燃料に対する税制にも問題があります。タクシー車両1台あたり年間710,411円もの税負担があり、そのうち14万円もの石油ガス税を支払っています。(図12)

タクシー1台当たりの年間納税額(全国ハイヤー・タクシー連合会)
図12 タクシー1台当たりの年間納税額(出典 全国ハイヤー・タクシー連合会 TAXI TODAY 2021

乗務員負担か利用者負担の二択

繰り返しになりますが、このようなことが考えられる中、儲からないからっと言って、利用者に負担を求めるのは、正しいことなのでしょうか?

それに「タクシー業界において今後新たに取り組む事項」11項目や追加9項目、「タクシー革新プラン2016」「訪日外国人向けタクシーサービス向上アクションプラン」「タクシー事業におけるアクションプラン」にあるものが、今回新たに「運賃値上げ」の理由になって良いものなのでしょうか。

例えば、キャッシュレス化はそれらも計画に盛り込まれていました。それなのに新たに理由にできるのでしょうか?まるで、初めてのことのように言う。加えて、キャッシュレス化が済んでいる事業者も多いのではないのですか?GOpay導入のため、ではないですよね。

不当な運転手負担

もう一度書くと、私は運賃値上げそのものに反対しているわけではないのです。

この「タクシー運賃値上げについて」の第1回目で北九州ブロックのタクシー運賃が、まったく同じとは言えませんが、コロナ禍の異常な原価の中で、改定が必要と判定されたことを提示しました。

北九州で認められたので、東京でも認められるだろう、という見方をする人もいます。しかし、北九州と東京では申請理由が違います。北九州の運賃改定の申請理由は「運転手の労働条件改善やキャッシュレス決済への投資が理由」というものでした。「運転手の労働条件改善」を第一理由にしていたことです。

一方、東京特別区・武三交通圏の値上げでは、日本交通の川鍋一朗会長の強調する「燃料高で利益が全部消えてしまう」と、「キャッシュレス決済の導入」が、優先理由になっています。

(いえ、申請理由そのものは総括原価方式での「適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない」という運賃決定方式には関係ないのでしょうが)

運転手の労働条件の改善と言うのならば、このコロナ禍でフードデリバリ―やコロナ感染症患者輸送や食料医薬品の配達、予防接種会場への移動手段など、このコロナ禍でエッセンシャルワーカとしての責務を果たしてきた私たちの、この長時間労働低賃金を少しでも普通に近づける、賃金格差の解消という大義はあるでしょう。

経営の失敗

ただ、これまで述べてきたように、「原油高やコロナ禍での異常な原価を理由」が理由にはなりにくいと思います。

(どの年を事業年度にするかということもありますが、コロナ禍での原価を言うのならコロナ禍なんでしょう)

また、「キャッシュレス決済」については、運転手にその手数料を負担させている会社もあります。これがなくならない限り「キャッシュレス決済」が値上げ理由になるはずがありません。利用者と運転手への二重搾取をするつもりなのでしょうか。

そして、実車率が上がりながら稼働1台当たり1日の営業収入(日車)も上昇している状況は、供給不足(運転手不足)が生じている証拠です。輸送人員が横ばいであることでそれを証明できます。つまり、儲からないのではないのです。労務管理、雇用の失敗なのです。

運転手の労働環境改善を怠ったまま、やれキャッシュレス決済費用が、やれ(今後国からの支援策のある、そして値下がりの可能性のある)燃料代が、ということしか言えないから、さらに運転手が集まらないのです。だから、値上げ反対なのです。

歩合給の廃止を

今回の「キャッシュレスや燃料高」での値上げは利用者の理解は得にくいでしょう。ただ、価格弾力性が低い産業ですから、値段が上がっても利用者が減るということはないし、そもそも運転手不足ですので実車率、日車ともあがるでしょう。それが運転手の賃金上昇につながるのですが、それでは抜本的な解決にはなりません。

運転手が増えれば賃金が下がります

供給不足でmobiや相乗りタクシーなどが進化します。それはタクシー事業の需要を減らすことです。

そして賃金も下がっていきます。そもそも供給不足のタクシー事業を理由に、例えばUber解禁、もしくは2種免所持者によるタクシー会社管理のUberなんてものの進出理由にされかねません。

いずれにしても長時間労働低賃金から脱出することはありません。

長時間労働は、休息時間の11時間化や80時間残業なんて法により解決されたとしても、時間=賃金 という歩合給の仕組みのため、労働時間縮小=賃下げになります。

お先真っ暗

問題は、その歩合給での賃金制度です。いつまでたっても賃金が上がらないのも歩合給だからです。利用者の低迷と供給率に左右されながら、今回のような異常な社会情勢になればワーキングプアになり、景気がよくなれば+αの賃金になる。

そして総括原価方式での運賃の算出方法もです。歩合給なので原価が不透明なのです。営業収入に対しての構成比でしか賃金を設計できない。

固定給ならば、賃金が上がれば原価も上がります。ずばり「運転手の労働条件改善」が賃上げの理由になります。ただそれだけのことなんです。

それだけのことなのですが、そしてそれが運転手だけではなく、利用者にも不利益になっています。

東京特別区・武三交通圏 改定運賃予想(まとめとして)

東京都内タクシー運賃と運賃値上げ予想 値上げ反対
図13 東京特別区・武三交通圏の現在のタクシー運賃と値上げ予想

これまでが安すぎたともいえるので、多摩地区並みにして、その分を運転手の労働条件の改善につなげられればいいのに、というのが私の考えです。

 

以上、うだうだと15,000字ほど書いてみました。タクシー業界の宿痾として歩合給と利用者無視、そして変わらない制度と法、それらが異常時にはやはり痛み出すんだなあ、なんて考えています。

運賃値上げに大義があるのか、というと、やはりいつものとおりで、利用者と運転手無視で話が進められています。どうか、ハイタク協会も労働組合も、そのことを第一義に考えて、社会の公器としての経営思想をお願いしたいと思っています。

そして、このコロナ禍とウクライナ危機によって、改革が加速されることだろうと、そして新しい人たちも登場しているので、急加速されていくことを祈っています。

参考文献

「総合研究 日本のタクシー産業」 慶應義塾出版

「タクシー運賃の規制制度と課題」 太田和弘先生

「日本の地方部における公共交通プライシング転換の方向性」 加藤博和先生

「規制緩和とタクシー産業」 安倍誠治先生

ほか、各ページに引用先のリンクを貼っています。

もう少しうまくまとめられれば…。

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