値上げの妥当性、タクシー運賃値上げについて(4)

第4回目は、運賃値上げの妥当性について考えてみます。

東京特別区・武三交通圏のタクシー運賃値上げには「タクシー業界はコロナ禍で利用客が低迷する一方、キャッシュレス決済の導入など感染対策の投資や燃料費などが増加しており」「早ければ10月にも値上げ」と報道されています。

本当に「早ければ10月に値上げ」されるのでしょか?前回までに書いたように、やっと「運賃改定の手続きを開始」したところです。

第4回目と第5回目は「運賃改定を行う必要がある」のか、値上げの妥当性について考えてみます。最初に、報道されている運賃値上げの必要性の根拠、利用客の低迷と経費の増加について考えてみます。

利用客の低迷

都道府県別タクシー売上2019年比2022年2月 運賃値上げの妥当性
図1

 

第1回目の図1を再度掲載します。運転手の賃金もですが、利用者数もこの売上推移と同じ曲線を描き「低迷」しています。

感染症による利用者の低迷

しかし「利用客の低迷」は、新型コロナ感染症の拡大が原因です。つまり、緊急事態宣言、まん延防止特別措置という人為的な人流抑制がその要因です。社会構造が変化したなんてことではないはずです。今回のまん防解除後や昨年年末は、2019年度比100%に近い日車(稼働1台当りの1日の売上)売上になっています。

では、コロナ禍前はどのような状況にあったのでしょうか?

東京のタクシー輸送実績 国土交通省資料
図7 東京のタクシー輸送実績 国土交通省(第59回公共料金等専門調査会_資料4

図7は国土交通省発行の「東京のタクシー輸送実績(法人事業者データ)です。

これを見ると、上から2番目の輸送人員は、2007年の運賃値上げから2008年(平成20年)にかけて急落しています。これはリーマンショックによるもので、その翌年まで下降しています。そこからは横ばい状態です。

しかし、1番上の実車率は2009年から上昇し続け、2018年(平成30)には46%までなっています。実車率の上昇は稼働1台当たり1日の営収(日車)が高くなっている証拠です。

図8「各地の日車営業収入の推移」がそのことを証明しています。1台当たりの売上が25%良くなって50,000円を超えています。

 

各地の日車営収の推移2021年版
図8 各地の日車営業収入の推移(法人)1

各地の実車率の推移2021年
図9 各地の実車率の推移(法人)2

 

利用者の低迷ではなく供給不足による営収減少

平均実車率がここまでになると、おそらく毎日供給不足が発生していたはずです。

供給不足を起こしながら運賃収入は横ばい。これは実働車両数が足りなかったということです。車両不足ではなく、運転手不足による供給不足を起こしながら日車を引き上げました。

日車×稼働数が会社の営業収入です。つまり、運転手さえいれば儲かっていました。(ただし日車は下がりますが)

図7の一番下が営業収入の線もですが、横ばいだったのは利用者の低迷ではありません。同じく、タクシーが供給不足だったと考えたほうが自然です。

経営努力なき値上げ

結論として、供給不足が売上を「低迷」させていたということです。今回の申請理由の「低迷」は、コロナ禍の移動制約があったからです。「外出するな外食するな(というタクシーに乗るな)」という国策でした。それを運賃値上げで利用者に押し付けるける。そして、恒久的な運賃設計に組み入れることは正しいのでしょうか?

経営努力もせずに運賃値上げで売上を増やす。そういったことから「岩盤規制に守られている」と言われるのです。アフターコロナに商機を見だしている経営者もいるはずです。コロナ禍で策を考えていたはずです。そういう経営者、事業者はいないのでしょうか。

今回の「利用客の低迷」は運賃値上げの理由にはなりません。つまり、値上げの妥当性はないのです。

キャッシュレス決済の導入費

「キャッシュレス決済の導入」の問題は、(過去の)設備投資が問題ではなく、キャッシュレス決済増加にともない3~5%程度かかる費用が固定化したところにあります。

キャッスレス決済機の導入には、補助金や支援、決済機導入費用ゼロという決済代行会社もありました。(工事費は別ですが)PaypayなどQRコード決済はステッカーだけで導入費用はかかりませんでした。もう少し言えば、QR決済の中には手数料がかからないところもありました。

ただ、キャッシュレス化が進んだからその経費を運賃に上乗せし利用者負担が多くなるのは、運賃規制されていな一般企業ならまだしも、なにか違和感を感じます。そして値上げの妥当性の違和感につながります。モヤるのです。

さらには、その決済手数料3%~5%を乗務員負担としている会社がまだある、ということも問題です。原価として運賃に上乗せしているのに、乗務員にさらに負担させるといことは許されないことだと思います。

感染対策費

これも、補助金が支給されています。が、それだけでは足りないので、やはり売上に対して数パーセントが経費化しているでしょう。

例えば、マスク代、アルコール代などの消毒費、空気清浄機などが考えられます。これらは、コロナ前には必要なかったものです。

しかし、運転手への感染対策と考えれば、やっと運転手に対する安全対策が施されたということです。

運転手への暴行事件は防護板が脆弱だったことも原因です。運転席と後部座席を隔離するような設計をしていれば、飛沫予防を改めて施す必要もなかったはずです。コロナ禍が運転手の労働条件を改善してくれただけで、運賃改定ではこれまで考えてくれなかった、それが実感です。

次回は燃料高騰について考えてみます。

  1. 全国ハイヤー・タクシー連合会 TAXI TODAY 2021
  2. 全国ハイヤー・タクシー連合会 TAXI TODAY 2021

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