売上と賃金の仕組み、タクシー運賃値上げについて(2)

今回はタクシー運転者の売上と賃金の仕組みを考えてみます。

なぜならば、運賃が上がろうと歩合給制の賃金のため反映されにくいからです。タクシー運転手の賃金は売上の40%~60%程度の歩合給です。売上=賃金、そして売上は単価×回数になります。

4.タクシー運転手の売上と賃金の仕組み

運転手の賃金=売上

売上=客単価×回数

売上は客単価と回数に依存します。ただし、

客単価は統制不可能(お客様を選べないし、乗車するまで分からない)ですので、結局は

回数=時間

になってしまいます。

ですから、

運転手の賃金=時間 になります。

これが拘束時間の上限(299時間、322時間)が法によって規制される理由でもあります。

タクシー業界の労働時間や休息時間の問題の複雑さがこの「賃金=時間」にあります。残業規制、休息時間延長について経営側が反対するのは分かりますが、運転手からも反対の声があるのはこのためです。

バスとタクシー運転手の休息「9時間」案 健康・安全より運行優先 国際基準にほど遠く:東京新聞 TOKYO Web

賃金=客単価

もうひとつ、賃金=客単価ですが、統制ができないとしても客単価が高いほうが効率よく売上を上げられます。初乗り距離500円程度の客単価で10回営業するよりも、5000円1回を選びたくもなります。(必ずしもロングが効率が良いわけはなく、実車率も関わってくるのですが)

この「賃金=客単価」が、短距離利用者の乗車拒否問題の原因になります。「待機場で1時間待ったのにコロ」なんて声を毎日のように聞きます。

運賃値上げが運転手の賃金に反映されにくい、そうですよね?客単価なんてのは、あるいは1回の時間単価なんてのは、分からないのですから。要するに、運賃を上げても売上次第では、また歩率や運転手負担によっては、賃金は上がるどころか下がるのが、業界の歩合給の仕組みなのです。

そして長時間労働が健康格差までひき起こすことになります。さらには車いすや短距離利用者の乗車拒否問題も歩合給に起因するもので、それが悪評になっています。運転手不足解消は賃金制度改革に帰結するのではないでしょうか。

 

5.タクシー運転手の賃金引上げの簡単な解決方法

運転手の労働条件改善が運賃改定で成し遂げられるとは思いません。値上げした分をどう分配するのか、あるいは会社が改善できるほどの体力を回復できるのかも疑問です。

運賃に依存しない賃金制度

運転手の賃金を上がる方法はそんな婉曲的な方法ではなく、賃金制度そのものを変えることです。

タクシー運転者(男)と全産業男性労働者の年間給与の推移
図5 タクシー運転者(男)と全産業男性労働者の年間給与の推移(全国ハイヤー・タクシー連合会の資料より転載)

私たちは全産業男性労働者の給与と年間200万円程度の格差があります。さらにこのコロナ禍での影響を受けて拡大したというのが、図5から見て取れます。

他産業はなぜ500万円もの収入があり、コロナ禍でも落ち込みが少ないのですか?

これも歩合給だからです。例えばトヨタ自動車の従業員が「今年は生産台数が少なかったから月給を下げるね」なんてことはありません。

ところが、タクシー運転手の賃金は売上(時間、回数、客単価)によって変化するので、「今年は調子が悪かったから月給下げるね」もあるし、「去年の半分だった」ってことも実際起きています。

歩合給からの脱却

歩合給だからです。ではどうするかというと、他産業並みの年間給与になる固定給にすればいいだけの話なんです。固定給で月給30万、40万円支給してください。それだけの話なんです。

繰り返しますが歩合給こそが業界の宿痾であり、運賃の値上げが運転手賃金(労働条件改善)に反映できないでいる原因なのです。運賃改定と運転手の賃金について次からさらに考えてみます。

歩合給が業界をダメにするたったひとつの理由 | 道中の点検

「車いす対応タクシーで乗車拒否」について考えたこと | 道中の点検

タクシー運転手の賃金について | 道中の点検

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