仮の迎車と偽装迎車について

仮の迎車あるいは偽装迎車とは、「空車」であるにも関わらず「迎車」という表示板を車外に向け表示し、次の動態、例えば「迎車」「実車」になるまで、「迎車」の状態を維持することです。つまり「迎車」を装っています。そのことから仮の迎車、偽装迎車と言われています。

その仮の迎車と偽装迎車について考えてみます。

通常の動態変化

ここでは都市部での「流し」の運行方法を前提に考えてみます。

空車~実車

タクシーは通常「空車」で走行しています。その「空車」車両に利用者が手をあげ乗車します。そしてメーターを入れます。これを「実車」と言います。「実車」し目的地に到着し「支払」をすると「空車」になります。つまり「空車」「実車」「空車」の動態を繰り返すのが通常の運行方法です。

空車~配車(迎車)~実車

次に、アプリや無線での「配車」があった場合です。「空車」で運行中(あるいは待機という空車状態)から配車注文が入ります。この注文を受けると「迎車」になります。「迎車」になりお迎え場所に向かう、そして到着し「実車」になります。「空車」「迎車」「実車」「空車」で一営業サークルです。

次の図1は、この2通りの運行方法についてのものです。

タクシーの動態変化 空車〜実車 空車〜配車〜迎車〜実車

図1 タクシーの動態変化

つまり、実車の前の動態は必ず「空車」か「配車」+「迎車」になる、ということです。

偽装迎車について

前項で概説したように「実車」の前の動態は「空車」か「配車」+「迎車」です。ところが、「偽装」をすると、「迎車」の前に「配車」がありません。つまり「迎車」の対象ではない利用者を「実車」にします。これが偽装行為なのです。

乗車拒否や客選びのために「迎車」や「回送」を使うことは昔からあります。中には「実車」を使う人もいます。

このような行為は乗車拒否のみならず配車忌避にも使われます。つまり「客選び」のための違法な行為です。

仮の迎車について

ところが、仮の迎車については「配車」を受けるための運行なので「客選び」が介在しません。なぜならば、運転手本人が選ぶのではなくアプリから割り当てられた配車を受けるだけだからです。

このことが「客選び」に当たらないとする理由だと考えられます。

次の図2は、仮の迎車と偽装迎車についての概説図です。図をもとに説明を試みてみます。

タクシーの迎車 真の迎車、仮の迎車と偽装迎車 概略図
図2 仮の迎車、迎車、偽装迎車 概略図

仮の迎車なのか偽装迎車なのか

③は「空車」「迎車」実車」になっています。この配車を受けるまでの時間と距離が「仮の迎車」です。

④は通常の迎車です。走行中の「空車」に「配車」が入り動態が「迎車」になります。そして「実車」になります。前項②と同じ「空車」「迎車」「実車」になっています。

⑤が問題です。「空車」走行中に、運転手がなんらかの目的をもって「迎車」にします。そのまま「迎車」で走行、繁華街や待機場所で(そのまま、あるいは「空車」で移動し、迎車の対象ではない利用者に対して)「実車」になります。

つまり、「迎車」ではなく「空車」状態を維持するために「迎車」を悪用した、ということです。そして「実車」までの間に、乗車拒否と配車忌避が起こります。それは結果的に「客選び」になります。

この一連の「偽装迎車」の主体は運転手本人です。タクシー会社でも配車アプリのプラットフォーマーでもありません。

仮の迎車にならない方法として

図3は、「空車」状態での走行がない、つまり「流し」が介在しない「配車」だけの運行パターンです。アプリ専用車両のめざすところは、このパターンでしょう。こうなると「客選び」はありません。配車がかかっている迎車での走行です。

しいて言うならば、停車中の車両に利用者がやってきて「乗せて」というパターンでしょう。しかし「配車中」あるいは「迎車中」です。乗車拒否にはあたりません。もし困っている人がいるのならば、その場所に配車をしてもらうことも可能ではないですか?

空車、配車、迎車、実車を繰り返す営業方法 仮の迎車について

図3 常時配車と迎車による運行

車庫待ち等の運行形態

これまでの話は「流し」での運行形態でのことです。ところが、車庫待ち等の運行形態の地域では、(基本)流しがありません。つまり「仮の迎車」で車庫、待機場所を移動しています。

通常の運行方法が図3なのです。車庫か待機場所で「空車」から「実車」「空車」、その間に「迎車」が入ります。または、車庫や待機場所から「迎車」「実車」「空車」です。

タクシーの車庫待ち等の運行形態 イメージ図

図4 車庫待ち等の運行形態イメージ図

実車中の車両への配車

「仮の配車」もダメならば「実車」中の車両に「配車」する方法もあります。この方法はAVMシステムが開発された当初からあるんです。新潟無線や富士通テン(デンソー)のシステムには次の図5のように、「配車対象動態」が細分化されています。「実車」中のタクシーに「配車」をします。そのタクシーが「空車」になった時点で「配車」「迎車」になります。「実車」「空車」「迎車」が一連の流れのなかで完結されます。

タクシーの配車システム 各動態からの配車

図5 タクシー配車システムによる配車対象動態

これでクリアするはずです。つまり「仮」や「偽装」ではなく「迎車」だけになります。配車アプリにもこのシステムを実装すると「仮の迎車」問題も解決されます。ただし、運転手が配車忌避という客選びをしなければの話です。

表示の問題

国交省は「迎車板を置いて迎車状態にするということについては問題ない」と回答(国交省 旅客課長)しているそうです。

問題がないという理由は、次の配車を待っている状態であって、客選びではないからでしょう。「仮の迎車」から「真の迎車」ですので、「迎車」~(迎車対象者の)「実車」になるからです。

これが「「仮の迎車」~「空車」「実車」になれば、偽装迎車です。しかし、仮の迎車~真の迎車~実車という流れの中で、運転手の恣意的「客選び」が介在しないことで、問題がない、ということなのでしょう。

スーパーサインと屋上灯の問題

表示の問題として、スーパーサインと屋上灯の連携の問題があり、迎車板だけだと屋上灯は連動せず消灯しない。迎車状態でありながら屋上灯が点いた状態になる。その点については、早めに解消してほしいと伝えている。(回答は自動車局旅客課)

ということですが、連携しなければいいのです。運転席で点灯消灯できる車両もあります。図6のトルグスイッチがそうです。これは、タクシー車両であることを明確に表示するために、実車中でも点灯できるようにしています。メーター非連携なのです。(空車中でも消灯できます)

タクシーメーター非連動の行灯 トルグスイッチ

図6 メーターと連動していない屋上灯(行灯)のスイッチ

偽装は誰がするのか

これまで述べてきたように、システム上の問題があるとしても、「実車」「配車」「迎車」「実車」という一連の流れになったとしたなら「偽装」も「仮」もなくなります。

それに問題の本質は、偽装は誰が何の目的のためにするのか、ということなのです。

配車による需給ギャップの解消と実車率の向上

そもそもの話なのですが、この「仮の配車」が考案されたのはひっ迫する需給問題にあります。

確かに配車アプリの利用者の増加が、需給ギャップを拡大しているかもしれません。それにしても「タクシーが来ない」「予約が取れない」ということが社会問題化しています。それは地方においても同じことです。

さらに、利用者側のアプリ利用方法に問題があるかもしれません。でも、それはまた別の話で、この需給問題の解決こそ業界の優先課題なのです。

ライドシェア的なタクシーの運用

最後に。配車を主体とした運用がタクシーの生き残る道だと考えています。ライドシェア的でもありますが、利用者の「いつでもどこでも」ということには配車のほうが利便性が高いと思います。それに地方のタクシーは配車が主体です。すでに過疎地域においてはタクシー事業者が車両管理、運行管理をすることによって自家用有償輸送が行われています。

過疎地域だけではなく、タクシー不足の地域においても登録制自家用有償輸送から解禁が始まるでしょう。なぜならタクシー不足だからです。タクシー不足のみならず、タクシー会社が撤退した場合の交通権の問題があります。誰がどのように住民の移動を担うのか、という問題になります。

過疎地域を見捨てますか?コンパクトシティ化して中央部に集中移住しますか?それこそ国防上問題が出てくるのではないのですか?と、ふと思うのボクは、ボク自身に対して、お前こそ偽装憂国の士、あるいは、仮の憂国じゃないのか、と自問自答しているところで、長くなりそうなので止めます。

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