タクシーへ帰れ
乗り捨て
では、なぜ、運賃組換えを行い、初乗り距離短縮運賃にしたのでしょう。
図2では、運賃改定後に、運送回数、運送収入とも、増加しています。距離短縮運賃になって利用しやすくなったからと、結論してもいい数字です。
(個人的には、報道され話題になったこともある、と考えています)
実は、利用しやすくなったのには、利用しやすい理由があるのです。
それは、乗り捨て部分が少なくなったからです。
乗り捨てとは、利用者が1000mの距離を乗車するとして、
それまでの730円2.0kmでは
2000m=730円
そして
1000m=730円
支払い金額は同じで、1000m分を利用しないままになります。これを「乗り捨て」と言います。
もっと極端に言えば、乗車しメーターを入れると、動かなくても730円なんです。最大2000mの乗り捨てが発生します。
これを、距離短縮をして410円1.059kmにすると、
1059m=410円
1000m=410円
59mしか損分がありません。そして最大1059mの乗り捨てです。それまでの運賃の半分です。
また、金額では320円も違います。このもったいない、とか、損した、とか、捨てた、という感覚が利用のブレーキになります。
逆に、損が少なくなり、超過支払いが少なくなるので、安くなったという感覚になるのではないでしょうか。
ワンマイルの問題なのだ…
短距離利用のブレーキは「乗り捨て」だけではなく、利用者の運転手に対する「申し訳ない気持ち」と「嫌がられる気持ち」にも左右されます。
少し前に書いた記事です。
そして「コロ」とか「ゴミ」なんて揶揄されるようにそのワンマイルは、運転手から忌嫌われてきました。
ところが、利用者や運賃から考察すると、例えば初乗り運賃は決して安いものではなく、100メートルでも500円、1000メートルでも500円、という近い距離になるほど「乗り捨て」という超過支払いが多くなる仕組みです。
忌み嫌っている運転手にとっては、「乗り捨て」部分は超過利潤になります。距離が近いほど「こんなにもらって良いの」と感じても良いはずです。
100メートル、いや10メートルに対して支払われる運賃は、例えば牛丼一杯と味噌汁の値段なんですが、決して「ゴミ」ではないはずです。
利用者は「500円も払っているのに」
運転手は「それぐらいの距離歩けよ」
その感覚の違いが態度に出てトラブルになったり、乗車拒否問題に発展しました。
そのうえ「すみません、近くて悪いんですけど」と超過支払いをしながら、利用者が謝ってしまうケースも増えてきました。
考え方、気持ちの問題だと思うのです。
そしてそのワンマイルという利用者と運転手の心の隙間にmobiというエリア定額乗り放題移動サービスも登場しました。
mobiが獲得したいのは、タクシーが捨ている/いた、その美味しい「超過利潤」なのです。
タクシー業界が目指していたもの
タクシー業界こそ、その問題に取り組んできたのです。
2016年に発表された「タクシー業界において今後新たに取り組む事項について」にも、「初乗り距離を短縮することによる初乗り運賃の引き下げを行うことにより、乗りやすいタクシーの実現へ」とし、初乗り距離短縮運賃を推し進めてきました。
今後新たに取り組む事項について 全国ハイヤー・タクシー連合会
15年ぶりの値上がりですが、距離が1.059kmから1.0kmに短縮され、運賃が80円上がっても、使い勝手が良くなった、と考えることが……。
例えば、大盛りしかないお店のラーメンが、ちょうどの量になった。残すことも、頑張って平らげることも無くなったので、良かった。値段もぴったし500円だし。そのように感じる人もいる?と思いますが、チップがなあ……。
運送収入と初乗り運賃
運転手にとって運賃は高いほうが良いのですが、短距離利用者にとっては、これまで書いてきたよう「乗り捨て」が少ないほうがお得です。
しかしながら、初乗り運賃の距離だけの利用者は、本当に少ないはずです。当時のデータ図2で計算して6.5%しかいません。
1日30組ご乗車いただいたとして、2組弱です。
図3 東京のタクシー2022 一般社団法人 東京ハイヤー・タクシー協会
また、図3のデータから、1回当たりの平均実車距離は4km程度、2021年の1回当たりの平均運送収入は1,820円です。
このことを踏まえて、初乗り運賃は、運送収入にそれほど影響を及ぼさないのではないか、と思うのです。
だって、初乗りだけの利用者は6%ですし、稼働時間内の実車率が高いほうが良くないですか?
その6%だって、1日の流れの中で2回程度なんだし、結局は運賃は走行距離で決まるのだし…。
そして、例えば、1000m走行して、500円、迎車回送料金付きなら920円。2分弱で(1kmを時速40キロで走行した走行時間)その値段です。
このように、初乗り距離は実は美味しい部分なのです。