タクシーの運賃
タクシーの運賃は道路運送法1で次のように定められています。
第九条の三:一般乗用旅客自動車運送事業者は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。)を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
国による認可制です。賃金もですが運賃もなんだか分かりにくいものになっています。今回はその分かりにくい運賃について考えてみました。
自動認可運賃と公定幅運賃
タクシーの運賃は国による認可制で、自動認可運賃制度と公定幅運賃制度があります。さらに公定幅運賃制度には、初乗短縮運賃が設定できます。図1
図1 タクシーの運賃制度概略図
この制度について、次の図2を使って説明を試みてみます。
図2 運賃の比較 タクシーの運賃制度について2
自動認可運賃制度
この自動認可運賃制度は、個別に事業者の審査を行い「個々の事業者ごとに認可する仕組み」ですが、国が上限運賃~下限運賃を定め、その中から各事業者が選択すれば「個別審査をせずに、自動的に認可」されます。
例えば、この6月15日に運賃改定がある青森県全域のタクシー普通車の自動認可運賃では次の4種の距離制賃金が設定されています。
タクシー事業者は、この4種の中から選んで申請します。この4種の運賃のどれかを申請すればそのまま自動的に認可されます。これが自動認可制運賃と言われる所以です。
- 上限運賃
- B運賃
- C運賃
- 下限運賃
図3 青森県全域のタクシー普通車運賃(自動認可運賃) 3
公定幅運賃制度
次に公定幅運賃ですが、これは特定地域と準特定地域に適用されます。この制度も見た目は自動認可運賃制度と同じです。ただ少し違うのは、国が定めた幅運賃から事業者が選択し「届け出す」ことです。この違いについては後述します。
このように、(1)特定地域・準特定地域、(2)それ以外の地域、その2つの地域で異なった運賃制度になっています。
ところが、運賃制度は違っていても運賃額そのものは同じになっています。これについては、同じ地域で同じ方式(総括原価方式)によって運賃が算出しているので、同じになるわけです。
そのような理由で、6月15日に改定される青森交通圏の改定運賃も、公定幅運賃と自動認可運賃が同じになっています。(青森県は現在、準特定地域に指定されていますので「公定幅運賃」による設定になります4)
図4 青森交通圏のタクシー運賃(公定幅運賃)5
初乗短縮運賃制度
今回、青森県では公定幅運賃に初乗短縮運賃が設定されました。
これは
(指定地域において)協議会の意見に基づき、公定幅運賃のベースとなる初乗運賃に加えて、加算距離・加算運賃を1回又は複数回分控除ほした初乗短縮運賃を設定することができ、事業者の判断で選択できる。
というものです。今回の青森を例にすると(図4 青森交通圏のタクシー普通車運賃(公定幅運賃))の右側「初乗距離を短縮する距離性運賃」参照)
1.公定幅運賃上限は次の通りです。
- 初乗運賃:1000m 670円
- 加算距離:257m 90円
2. これをベースに、加算分を1回引きます。
- 1000m-257m=743m
- 670円-90円=580円
3. つまり、初乗距離運賃(上限)は、
- 初乗運賃:743m 580円
- 加算距離:257m 90円
になります。そしてこの運賃と距離が発表されているものです。
そうなんです、爾後一回分を控除しただけなんです。したがって、図のように、初乗り743メーターまでの利用者にとっては90円お得になるだけで、その後は公定幅運賃とまったく同じになります。
図5 初乗距離を短縮する距離制運賃 上限運賃・下限運賃比較表
図6 図5拡大図
自動認可運賃と公定幅運賃の違い
申請方法
まず、自動認可運賃は「事業者の申請に基づき、個々の事業者ごとに認可する仕組み」です。つまり、事業者が値上げの根拠となる原価計算書などをもとに運賃改定の申請を行い、それを国交省(運輸局)で審査し、「基準6」に適合していれば認めるというものです。主体は事業者になります。
次に、公定幅運賃ですが、これは特定地域と準特定地域が対象です。つまり、供給過剰である、例えば新規参入や増車は禁止、認可制となる地域です。これら地域に「は特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法施行規則」が適用されます。
公定幅運賃しかないのです。つまり「事業者の申請」はなくなり国が決めた運賃に従う、ということです。(選択肢はありますが)
下限割れ運賃の扱い
自動認可運賃は下限割れ(つまり上の図を例にすると、1.0km 640円、269m 90円より安い運賃を設定すること)になったとしても、
- 幅の下限を下回る運賃は、厳格な審査を個別に実施。
- 認可に当たっては、1年の期限が設定される等の条件が付される。
認められることもあります。
公定幅運賃は指定地域にかかっているため、下限割れ運賃には「運賃変更命令」行政処分の対象になります。もうなにがなんでも変えろという国からの命令が出されます。
なぜならば、指定地域だからです。つまり、タクシーが過剰な地域での値下げ競争を防ぐためです。それは事業者と運転手の賃金保護でもあります。しかし、事業者の経営に対する「熱」を奪ってしっているようにも感じます。そして、怠惰な経営に陥りがちになっているようにも感じます。


タクシー運賃と運転手
事業者の増収
「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えない」という総括原価方式で運賃が決まれます。あくまでも能率的な経営の下における推定でしかありません。さらに、先に運賃改定を行なった東三河地区を例にすると、運転手不足を原因とする稼働率(実働率)の定価により、事業収入は伸び悩んでいます。
となると、今回の運賃改定でも赤字になる事業者も出てきます。それも推定です。
運転手の増収
運転手にとっても、例えば今回の13.96%の改定率がそのまま賃金に反映されることもありません。なぜなら運転手の賃金は、出来高制の歩合給だからです。しかし、事業者を苦しめる運転手不足は、需給ギャップとなって、運転手の実車率を押し上げます。
その実車率の上昇が賃金上昇になりますが、これが実働率を少しだけ下げてしまいます。いわゆる「お腹いっぱい」状態になり、少しだけ労働時間が短縮されます。そうすると、事業者の実働率も下げてしまう。
要するに、需給ギャップの拡大は、労使の収支ギャップとなるのです。逆の共有地の悲劇です。
図5 青森県全域のタクシー運賃(自動認可運賃)新旧比較表
悪質事業者にも変更命令を
この物価高、運転手の賃金も上がらなくては生きていけません。そして、賃金という労働環境の改善を行わないと、さらに運転手不足は悪化します。でも、賃金=人気ではないのですが。
そして、この運賃制度により健全な経営が阻害されているのではないかと思う時もあります。なぜならば、法の言う「能率的な経営の下」による運賃、すなわち健全な収支が、頭のおかしい経営者の手によって「運転手の歩率」と「設備投資をしない」ことにすり替えられるからです。
国が決めたのなら、国は責任を持って、運賃の算出根拠である原価構成に適合しているか、特に運転手の人件費に関わる部分、(例えば、不当に低い歩率、不当な乗務員負担)利用者の不利益に関わる部分(例えば安全教育、過労運転など)については、「変更命令」を出さないと、なんのための運賃設定かと言うことになるのではないのでしょうか。
そしてしっかりと賃金にも乗ってくるように指導をしないと、運転手不足はいつまでも解消されません。いえ、これまでの怠惰が今の惨状を招いているのです。


ということで、6月15日の運賃改定、どうなるんでしょう。
- 道路運送法:第九条の三(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金)
- 国土交通省「タクシーの運賃制度について-資料2」(2023年5月24日閲覧)
- 国土交通省東北運輸局「青森県におけるタクシー運賃改定 ~新運賃の公表について~(令和5年5月16日)
- 官報 「準特定地域の指定期間の延長について」千葉県タクシー協会
- 国土交通省東北運輸局「青森県におけるタクシー運賃改定 ~新運賃の公表について~(令和5年5月16日)
- 道路運送法第九条の三の2