タクシー運転手の基本給について
タクシー運転手の賃金制度についてはとても複雑に設計されていることが多いようです。その複雑な賃金設計のひとつに、基本給を抑えた出来高制歩合給があります。今回は、タクシー運転手の基本給について考えてみました。
賃金設計が複雑になった理由
その理由は運転手の自由さにあります。例えば、ひとたび出庫してしまえば、自分だけの部屋で嫌な上司もいません。利用者からの指示命令はあったとしても、会社からの指示と言えば配車だけです。どこに行って何をしようが自由です。「眠かった」と言えば海辺に停めて寝ることもできます。だれも文句は言いません、安全がすべてに優先されるからです。
そんな自由さは、タクシー運転手にとって働きやすさになります。慣れてしまえば、楽な仕事です。(個人的な感想です)
その自由さ故に、ほんとうに昼寝をするために出勤する人も現れました。頑張らない人たちも登場しました。多様性のある職場になりました。
経営者の知恵
しかし、経営者はその自由さや多様性と対峙するように、賃金制度を複雑にし運転手負担を増設して、運転手が努力しやる気をだすように知恵を絞ってきました。
そして「知恵の結晶」と喩えられる賃金制度になりました。「昼寝してもいいけれど、ノルマはやれよ」「がんばらないと、罰則があるよ」「もう少しやれば、歩率が高くなるよ」「トップになったら賞金を出すよ」「事故をしたら自腹だぞ」などの仕組みを作り出したということです。頑張らない人たちを排除するシステムを作り出した、そう言えます。
それらの中には、累進歩合制、トップ賞、修理費の自腹など、現在では廃止を求められている制度も存在します。
タクシー運転手の基本給
じつは、基本給が低い理由も、自由な働き方と関係があります。つまり、昼寝してもいいんだけれどノルマを達成しないと給料安いよ、ということです。
基本給の設定が最賃割れしている事業者も多いようです。ボクの勤務している会社も13万円程度です。
基本給が低いことのメリット・デメリット
基本給が低いことのデメリットについては、各会社の賃金制度によっても違います。しかし、勤務時間×最低賃金を額を割っているような基本給はあやしいと考えたほうが良さそうです。
基本給が低い会社は社員にとってデメリットしかありません。簡単に言えば搾取です。
このように断言しているサイトもあります。つまり、事業者にとってはメリットが多いということです。
運転手にとってもメリットはあります。それは、遅刻欠勤控除の額が低くなることです。例えば、130,000円だと、÷20が1日の欠勤控除です。遅刻はさらに÷8時間が1時間分の遅刻早退控除額です。遅刻早退欠勤控除が低くなりますが、年休金額も低かったり…。運転手にとってはデメリットのほうが多そうです。
提案
では、どのような基本給にすれば良いのでしょうか。
出来高制賃金の見直し
異論や反論はあるとしても、タクシー会社の出来高制は公共交通には相応しくありません。なぜならば、賃金=運賃という出来高制制度は、運賃が距離、時間、回数によって決まるからです。このことが、短距離、手間暇がかかること、細かい仕事を忌避、回避する動機付けになります。
つまり、短距離利用者や車椅子利用者の乗車拒否問題は、賃金制度が原因で引き起こされます。いくら会社が接客・接遇向上を説き指導したとしても、運転手の賃金は売上でしか評価されません。そして足(ノルマ)未達成では、最低賃金になってしまいます。
これまでは売上が出来ない理由も運転手の責任にしていました。性悪説によってルールを設定し、罰則ありきの賃金設定になっていました。これが問題で、出来ない人たちを排除してきたのがタクシー事業なのです。そして、優しい人たちは去っていきました。
タクシーの仕組み自体、低営収の人たちのとっては「いじめ」だったからです。さらに評価されるのも売上です。そもそも賃金=売上なのですから。
基本給の改善
ということを踏まえて、法定労働時間内での勤務シフトにして、その時間で最低賃金以上の基本給にしたほうが良いと考えます。目安は、時給1,500円です。なぜなら日本交通が始めたGO Crewの時給だからです。
次の表のようなイメージになります。出来高制の歩合給賃金も残しています。つまり、基本給を上げるだけで良いんです。
図1 タクシーの基本給を上げた賃金
運転手不足の原因
賃金が上がれば運転手も増える、そんな単純な話ではありません。ボクたちの賃金制度にもリスクが潜んでいて、それはコロナ禍において顕在化されたことでもあります。
「せめて14万円ないと」コロナ禍、1人で亡くなったタクシー運転手|【西日本新聞me】
コロナ禍でなくても、タクシー運転手の賃金リスクは高いのです。そして安心できな賃金制度だから、長時間労働になりやすく、それが事故やトラブルの原因になります。さらに、運転手自身の健康にも害を及ぼします。
「長期的な会社経営を考えると、営収トップテンとワーストテンはうちには不要」と言ってしまう経営者。こういった労働者を「不要」とモノのように考えていることこそ問題なのです。
タクシー事業の良いところは、多様な年齢、経歴、そして性別を問わず公平な働き方と賃金なはずです。それが雇用のセイフティネットとなっていました。ボクも救われました。ところが、その賃金制度は「不要制度」だったのです。
ボクたちは安心して地域の皆さんの移動に関わりたいのです。事故や事件もですが、賃金リスク、そのあやしさとリスクを解消しないと、人手不足は解消されません。そして、その賃金制度こそが、経営者の経営努力を奪ってしまっているのです。