運行管理者の独立性と運行中止基準の明確化を
知床沖観光船事故の痛ましく悲しいニュースが流れる。
社長だけの問題ではない。運航管理者や船長も、運航の安全を第一に考えるのであれば、中止という決断をすることが出来たはずだ。その前に、運航中止の基準が曖昧ではなかったのか。原因を究明し、観光船だけではなく全ての乗物において異常気象時の無理な運行による事故が起こらないように祈る。
タクシーの運行管理から問題を考えてみる
異常気象時、例えば大雨の時とか雪が積もる日、どのくらいで運行の中止を決め、運転手に指示しているのか。
旅客自動車運送事業運輸規則には次のようにだけ規定されている。
(異常気象時等における措置)
第二十条 旅客自動車運送事業者は、天災その他の理由により輸送の安全の確保に支障が生ずるおそれがあるときは、事業用自動車の乗務員に対する必要な指示その他輸送の安全のための措置を講じなければならない。
「安全の確保に支障が生ずるおそれがるとき」は、「安全のための措置を講じなければならない」
具体的な指数や数字が示されておらず、どういった安全のための措置なのかも、ほぼ現場まかせになっている。
そして運行管理者の業務として
(運行管理者の業務)
第四十八条 旅客自動車運送事業の運行管理者は、次に掲げる業務を行わなければならない。二 第二十条の場合において、同条の措置を講ずること。
第二十条の「異常気象時などにおける措置」を講ずること、となっている。これが「異常気象時」の措置のありかただ。
おそらく、各事業者ごとに、次項の「異常気象時における措置の目安」と似たような基準を設けて運用している。しかし結局事業者まかせになっているのではないか。
異常気象時における措置の目安
2020年2月28日に「輸送の安全を確保し、持続的な物流機能を維持するため、 台風等による異常気象時下における輸送の目安を定めます」として国土交通省自動車局貨物課 が「トラックによる貨物の運送を行う場合に輸送の安全を確保するための措置を講じる目安」の通達を出している。
ただし、措置の内容がまだ曖昧である。
例えば、雨と風は3段階で
- 輸送の安全を確保するための措置を講じる必要
- 輸送を中止することも検討するべき
- 輸送することは適切ではない
3ではじめて「適切ではない」(これとて曖昧だが)という指示が出てくる。
降雪、視界不良(濃霧・風雪など)、警報発表時には、相変わらず
- 必要な措置を講じるべき
- 輸送を中止することも検討すべき
- 輸送の可否を判断すべき
このように、あくまでも「目安」で、「必要な措置」「中止することも」「可否を判断」となっている。最終的には事業者の自己責任に終始している。
異常気象時に事故が起きる原因
誰が運行の中止を判断するかと言うと、タクシーの場合は統括運行管理者だろう。しかし、その判断が遅れたり、曖昧になる。そして時には現場の判断よりも経営者が利益を優先される。このことこそ問題なのだ。
多くの場合、現場の管理者が判断をする。そして運転手に「危険を感じたら運行を中止し安全な場所に退避してください」などの指示を出す。
法律が事業者への判断に委ねた運行中止という決断は、最終的には運転手へ自己責任へと変わる。
運行管理者の独立性と運行中止基準の明確化を
もちろん、運行管理者は独立している(はずだ)。個々の健康状態を乗務前点呼によって判断し、乗務させないことも出来る。ただ、中小零細事業者が多いタクシー事業では社長がワンマンでその意見が絶対だ。もっとひどいところでは違法なことを自らが行う経営者もいる。(*1)
独立性が担保され(されている)としても、運行管理者の資質の問題、にしてしまうには、荷が重すぎる、と思う。
運行中止基準の規則化
そうなると、やはり事業者別ではなく、人の命にかかわることなのだから、法で規定したほうがいい。
事業者や管理者の判断に頼るのではなく、事故を起こさないために、運行中止基準をわかりやすいものにし、中止した時のことまで明確にしてほしい。例えば
- 営業所において基準値を超える数値が観測された場合は全てのタクシーを安全な場所に停止させ、基準値以下になるまで待機させる
- 実車中の運賃については時間制運賃を停止させる
- 迎車中においての遅延などのトラブルについては責任を負わない
- 待機中については5分単位で運転手への下車補償を行う
- 利用者・事業者双方の不利益(損害など)については、国が責任をもって補償する
これぐらいのルールは必要だ。そうすれば運転手も積極的に停止・中止・待機を行うようになる。管理者も止めやすくなる。
異常時には運行を中止するという制度を進化させないと、また事故は起きる。歩合給で働くタクシー運転手も経営者的発想になって危険だ。事故は誰も幸せにしない。だからキチンと対策をしなければならない。
第4条 当社は、次の各号のいずれかに該当する場合には、運送の引受け又は継続を拒絶することがあります。
(5)天災その他やむを得ない事由による運送上の支障があるとき。