夜行バス事故と睡眠時無呼吸症候群

制度改正や基準強化による安全策が採られたとしても、人間が関わっている以上こういった事故はなくならない。

いや今回の事故は、逆に、関越道事故による制度改正がもたらしたものだとも言える。交通事故はなくならない。夜行バス事故もなくならない。

義務化されていない睡眠時無呼吸症候群検査

睡眠時無呼吸症候群(SAS)1を患っていたことが論点になっているのだが、その検査は義務化されていないし、検査を自主的に行ってた宮城交通の安全に対するマネイジメントは間違っていなかったし、そのことを責められるのはまた違う問題だと思う。

義務化されていたとしても「要経過観察」という診断結果なので恐らく業務に就いていたのだろから、宮城交通の運行管理体制には問題なかったと考えるのが妥当ではないのだろうか。

義務化されていない検査について、それをもって事故原因についての争点にするのならば、今後義務化されていない安全基準については行わないほうが身のためという風潮にもなりかねない。そうなれば旅客業者各社の安全に対する意識低下にもつながる。

要経過観察者の勤務について

「要経過観察の運転手をなぜ運転させた」という一部マスコミの論調はそもそも間違っている。運転させても良いことになっているのだから運転させた、ということが責められる理由、その根拠はどこにあるのだろうか。

となると今回の事故、主犯は誰だったのか、というと、あの関越道の大惨事によって強化された制度と基準、そしてほとんど手を付けられなかった制度と基準にある。

安全基準強化という罠

昨年8月から、1日当たりの夜間運転を原則400キロ、高速道路の連続運転を2時間に制限し、交代要員の配置義務という安全基準強化が行われた。

今回もその基準に沿って運行していた。しかしこの基準自体が事故を起こす要因にもなったのだ。安全になるはずの法律が逆に危険に働いたのだ。どういうことかというと、

  1. 基準強化によって運転手不足になった。
  2. 11日間連続、12日間連続という勤務シフトになった。
  3. 2時間しか仮眠をとれなくなった。

今回の運転手も昨年4月から夜行バスの運転手になった。そして11日間、12日間という過重労働になった。もちろんそのことも安全基準内のことだ。そして2時間という中途半端な睡眠時間が逆に居眠りを誘う。仮眠という数字上の実績だけが安全を満たしていて、実は運転手の健康には負担になっていた。

自動車運転者の慢性的な寝不足

居眠りや過労による事故を防ぐための(中途半端な)法強化が事故を招く。そもそも夜間労働じたい健康にはよくない。睡眠時無呼吸症候群でなくても昼間に熟睡できるわけがないのだ。

ボクだってそうだ。タクシー運転手は慢性的な睡眠不足なのだ。それでも夜行バスと違って眠くなったら停車してすぐに仮眠できる。連続運転時間も1時間以内がほとんどだ。だからそういった症状を患っていたとしても事故に繋がりにくい。

高速道路という限られた停車場所で、限られた時間に運行しなければならない夜行高速バスの事故は起こるべきして起こる。人間が運転している限りなくならない。それは交通事故と同じなのだ。ほんとうになくす気持ちがあるのなら、運転手が健全に暮らせるということを考慮した、健康管理だけではなくて待遇面も含めた再発防止策、法整備が必要なのだろうと思う。

質の高い労働環境の必要性

そして健康管理面だけではなくて、年休を取りにくい社内環境、夜間バスに乗らなければならない低賃金、11日間連続勤務をしなければならない運転手不足とダイヤ…このあたりにも国交省は手を入れるべきだと思うのだ。睡眠時無呼吸症候群だけが集中的に俎上に上げられているけれど、運転手のワークライフバランス、生活の豊かさこそが最大の事故防止策だと思うのだけれど…。

夜行バス事故 関越道 睡眠時無呼吸症候群での事故
高速バス事故7人死亡 群馬・藤岡の関越道 – YouTube
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高速バス事故で考えたこと

  1. 睡眠時無呼吸症候群 – 独立行政法人国立病院機構 近畿中央呼吸器センター

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