冷たい雨とおでん

冷たい雨が降っている。

おでんを作って、ほんとうはキミと、もぐもぐ食べたかったんだけれど、なんだかんだと忙しいふたりなので、結局は別々に食べることになってしまった。朝、目覚めると雨が降っていたので、そのまま起きるのをやめて布団の中に丸まっていたら、お昼過ぎまで眠ってしまって、なんだかもったいない休日になってしまった。それから洗濯をした。洗濯物も雨で行き場をなくしてしまって、これまた洗濯機の中で丸まっている。天気予報ではそろそろ晴れるころなんだけれど、雨は降っている。ボクは相変わらずただボンヤリと空を見ている。

まだ指先に残っている幸せの欠片の感覚と、まだ部屋の中に残っている哀しみの断片の香りが、時間や空間の隔たりを修復する。コトバという不確かなものを頼りにボクたちはあいかわらず「コイビト」で、季節が変わったところでセケンとかジョウシキとかチツジョなんてものの窪地の中で息を殺して棲息している。コトバは吐き出され、愛として咀嚼され飲みこまれ、空腹は満たされる。

空を見飽きたボクは、もぐもぐとおでんを食べている。その咀嚼音が部屋の中で反響する。その音にボクの神経は麻痺してしまっては、またもぐもぐと食べている。そうして全て平らげては部屋の静けさに驚いている。

おでん

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