そして雨の中青年は通り過ぎたのだ(30日目の1)

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ひと月が過ぎた。ちょうど30日目。季節は秋から冬へを移ろうとしていた。晩秋というよりも、初冬という感じの朝夕だった。

5時30分起床。少しボーっとして、6時に寝袋から出る。準備、そうしていると、自転車の男も起きた。「おはようございます」と挨拶をして、準備を続ける。「早目に出発して方がいいですよ。少し遅れているようだし」なんていわれたので、「そうですね」と答えた。

6時30分出発。霧深し。
サンクス宇和れんげ店、昨夜利用したところでトイレを借りて、洗顔をする。へんろ小屋には水場がなかった。それから買い物。どこか座ってと思っていたら、霧も深くて、座るところもなかったので、そのまま歩きながら惣菜パン2個を食べる。

雨に濡れるおじぞさんはおしゃれなバンダナと前掛けをしていた
(宇和町瀬戸にて おしゃれなお地蔵様、雨)

鳥坂隧道手前の坂道の途中で、二人連れの遍路さんと、もうひとり朝ボクを追い越していったおじさんが朝食の弁当を食べていた。3人ともボクが泊まったへんろ小屋の先、宇和パークホテルに宿泊していたそうだ。二人連れのおじさんたちは6時前に出発したとのこと。

少し話して、先に出発した。雨が少し降り始めた。鳥坂峠の遍路道を通らないで鳥坂隧道を抜けた。長いトンネル、反射タスキを掛けて歩いたのだけれど、歩道がなくて怖かった。

トンネルを抜けてしばらくすると、自転車の元遍路に追い抜かれた。そして少し行った道の駅でまた男に会った。男はラーメンを作っていた。そして再度別れを告げた。この先もう一度見かけるのだけれど、その時は反対車線を通り過ぎて行った。ボクはそのまま歩いて札掛大師堂の下にあるラーメン屋の駐車場で休憩した。雨は降り続いていた。9時30分。

ココアを飲んで、膝のテーピングをし直して9時45分出発。雨が少し強くなっていた。レインウェアのパンツを着るかどうか迷っていた。北只南交差点の手前で右折、橋を渡って国道441号線を行くのが遍路道だった。雨。ひとりの青年に追いつかれる。「この道で良いんですよね?」と訊ねてきた。「うん、良いはずだよ、地図は?」「持ってないんですよ、携帯があるんで」と青年は答えた。そして青年はレインジャケットを着ていなくて、ダウンジャケットを羽織っていた。濡れていた。

「大丈夫なの」とボクは言った。
「はい、大洲から電車で行きますから」と答えた。

なるほど、そういうスタイルなのか。それで歩き、それに野宿のようだけれど、軽装なのだ。そして青年は「お先に失礼します」と歩いて行った。伊予大洲駅まであと3キロという位置だった。

雨に濡れ歩く若いお遍路さんの後ろ姿
(そして青年は大洲へと歩いて行った…後ろ姿のしぐれてゆくか:山頭火)

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