ライドシェアが解禁できない理由
ライドシェアが解禁できない理由を考えてみます。
解禁できないのは、安全ではないからです。その安全ではない理由には以下のものと、これらに関係するものがあげられます。
- ドライバーが危険
- 利用者が危険
- 事故が怖い
- 供給量に不安
- 雇用破壊
1〜5に関するリスクは、ライドシェアだけにあるのではありません。タクシーにもあります。全ての移動サービスに内包されている問題と課題だと言えます。
1〜3は、例えば、全てのドライバーには罪を犯す危険性があります。事故も同じです。故障しない自動車も少ないでしょう。
4は、どちらも需給ギャップが解消されることはありません。5については、ライドシェアドライバーには雇用関係がありません。タクシーも不安定な職業ではあります。
これらは、双方で起こり得る問題で、その多寡を議論しています。安全であるとは、リスクのないことでしょう。しかしゼロにはなりません。「絶対」はないからです。
ライドシェアでは、安全性や、リスクを排除する方法として、相互レイティング神話なるものがあります。しかし、これは危険性を完全に排除する方法ではありません。なぜなら、犯罪は起きているからです。そして「絶対」はないからです。
ライドシェアが解禁できない最大の問題
1〜5の危険性はタクシーにもあると述べました。あるのですが、タクシー業界はこのリスクを排除する制度や対策を築いてきました。その代表的なものは次の通りです。
- 運行管理
- 車両管理
- 二種免許制度
- 苦情窓口(事業者、運輸局、タクシーセンター)
- 車内カメラ
- 車両の位置情報
- 無線システム
- 配車システム
ライドシェア解禁論者の安全性の拠り所である相互レイティング(だけ)と比較するとどうでしょう。レイティング(評価)の最大の欠点は、乗車後に評価するということです。この(評価の)事後有効性が安全ではないのです。むしろ、危険だと言えるのではないのでしょうか。
情報漏洩という危険性
これまで説明したリスクは、ドライバー個人と車両に起因するものです。犯罪や不正行為は人によって起こります。言い換えれば、運転手個人的なもので、最小単位の犯罪や不正行為です。
ところがライドシェアは、犯罪や不正行為の規模が大きくなることが懸念されます。そのひとつとして、情報漏洩や悪意のある情報収集による犯罪です。つまり、アプリにより情報収集され、プラットフォーマーにより不正に使用される危険性が大きくなるのです。1〜5に加え6番目の情報漏洩が非常に危険なのです。
これまで述べてきた1〜6でライドシェアの怖さがお分かりいただけたと思います。以上です。これから先は、もう少し詳しく説明します。
タクシー会社かアプリか
情報について考えてみます。タクシーが入手する利用者の情報には次のようなものがあります。
- 利用者の
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- 行き先
- 勤務先
- 病院
- 学校
- 銀行
- 外食
- その時間帯
- 家族構成
これらの情報を悪意を持って使用するとします。例えば、Aさん(住所、電話番号情報あり)は高齢者夫婦だけで住んでいる。何日何時に通院する。帰りはいつも3時間後。
あとは書きませんが、怖くないですか?
これまでのタクシー会社は
- 電話による受付配車
- 配車システムによる配車
- オンプレミス型(非オンライン)
あるいは「流し」という運行スタイルで、利用者の情報漏洩は守られてきました。例えあったとしても、運転手からは、乗車したお客様だけです。配車係からとしても、受電した利用者のごく一部です。さらに、会社全体で流用したとしても、その範囲です。それは、どこの企業でも起こり得ることです。
ところが、ライドシェアになると
- 百万単位の大きな情報
- ドライバーからの流出の危険性
移動に関する全ての情報の流出が起こりえる、ということです。もちろん、ドライバーからというのはタクシーでも起こるでしょう。しかし、抑止力はあります。例えば、タクシーで、事件事故、犯罪が起こったとします。その時、運転手は逃走したとしても、会社は協力するでしょう。
ライドシェアはどうでしょう。車両ごと逃げたら?
アプリの安全性
その情報を、組織や大掛かりなものに使われることが怖いのです。例えば、マイナンバーと紐付けされたら……。もう「1984年」の世界が身近に迫っています。
これまでも、スマホ経由で情報は抜かれているでしょう。しかし、それは選択肢のある中での、一部のものだけではないですか?Amazonだけで食品を調達する人は少ないでしょう。交通系アプリの情報ではピンポイントで場所が特定できません。
そして現金で支払うという選択肢も、近くの商店で買うという選択肢もあります。ところが、ライドシェアだけになると、タクシーという移動手段が利用できなくなる可能性も出てきます。どうでしょう。
国防上の問題
以前からアプリを危険視する声はありました。その中で、2014年あたりに、ハイヤー・タクシー連合会の川鍋会長が使ったのがこの「国防上の問題」です。UberやDiDiなどの輸入アプリが、利用者の個人情報を抜くことの危険性を問う文脈での発言です。
ただ、危険性はそれら配車アプリだけではありません。全てのアプリに内在しています。そうなると、次はプラットフォームの規制が必要になります。
「安全ではない」「国民を危険な目に遭わせられない」こういった声がある以上、お試しで解禁はしません。ライドシェア解禁はさらに困難になります。プラットフォーム規制、次に「保険をかけろ」という流れになります。
その保険がタクシー会社なのです。え、ちょっと待ってください。要するに、今のままで良いんです。地方の移動困難を救うには、現行の自家用有償運送で良いんです。観光地も同じです。少しだけ範囲を広げれば良いだけの話になるのです。
日本版ライドシェア
利便性だけを追求するなら、アメリカ版ライドシェアかもしれません。ところが、安全性も加えると「保険」が必要となるのです。
したがって、タクシー会社が運行管理、配車管理するライドシェアになります。すでに、配車アプリもあり、運行管理システムもあります。それを利用するだけの話なんです。電話での配車システムもあります。
それに、地方の移動にはタクシー会社が必要なのです。なぜなら過疎地でライドシェアをする人がいないからです。ライドシェアが成り立たない地域では、タクシー会社が外部補助や内部補助でやっと経営している現状です。
ライドシェアが解禁されると、そういった地方のタクシー会社の経営が困難になります。なぜならば、収益の出ている都市部での過当競争が、内部補助を困難にするからです。
交通権という人権
そして結局、交通権の確保は政治の問題になります。ライドシェアでは交通権も供給量も確保できないのです。だから、ライドシェア解禁ができないのです。そうなると、今までのまま、あるいは、日本版ライドシェアしかないのです。
問題の本質は、ライドシェア解禁の是非ではありません。交通権の確保、タクシー不足の解消なのです。
(タクシー会社や保険会社で安全を確保したライドシェア。ライドシェアが解禁するためには、図のような仕組みが必要です)