需給ギャップとタクシー不足

ライドシェアはボクたちを幸せにできますか?今回は需給ギャップとタクシー不足について考えてみました。

確かにタクシー不足は深刻です。需給ギャップは解消されません。それはこの地方も同じで、「タクシーがない」「呼んでも来ない」という声を利用者から聞くようになりました。そのタクシー不足からライドシェア解禁の流れが日ごと大きくなっているように感じます。

そんな中、とうとうハイタク連川鍋会長まで「タクシーが余る時代に戻りたい」なんて奇妙な発言をするようになりました。

タクシー受難の時代

「タクシーの余る時代」もありました。2002年の規制緩和後です。しかし、その規制緩和は失敗し共有地の悲劇を起こしました。道路にはタクシーが溢れ社会問題化しました。さらに規制緩和による供給過多は運転手の賃金を押し下げ、長時間労働を誘発し、その結果、事故が増えました。「タクシーの余る時代」はタクシードライバー受難の時代でした。

そんな時代に戻りたい、というノスタルジアは、まるで軍拡を声高に叫ぶカルト政党のようではないですか?

新型コロナ感染症前の豊橋駅タクシープールとコロナ禍

ビフォーアフター
2017年7月と2021年7月、土曜日の豊橋駅タクシープール

需給ギャップとタクシー不足

タクシーが余るということ

タクシーという消費財は大量生産、大量消費、さらには大量廃棄ができません。なぜならば、タクシー=人だからです。人を大量生産し大量消費し、そして余ったら廃棄する。「タクシーが余る」とはそういうことではないですか?オニギリが余るとは違うのです。

大量生産大量消費

例えば、そのオニギリですが、販売数(消費量)を予想して発注します。強気のオーナーさんだと発注数(生産量)を多めにするでしょう。その結果、完全に売れてしまえば失敗です。なぜならばチャンスロスが発生したからです。つまり、オニギリの供給量は廃棄を出すぐらいで適正なのです。

しかし、タクシー運転手を廃棄することはできません。多少の廃棄を出すぐらいのタクシー供給量が適正ということはないのです。だから「タクシーが余る時代に戻りたい」は禁句、いえ否定しなければならないのです。

タクシー規制とは

人の廃棄が起こらないようにタクシー規制があります。規制がありますが、新規参入が原則禁止されているわけではありません。また増車についても原則は届出制です。ただ、特定地域に指定されると、新規参入も増車も禁止されます。さらに供給削減(減車)に強制力が発生します。

"改正タクシー特措法

改正タクシー特措法のポイント1

また国が算出する適正車両数と実在車両数には乖離があって、実在車両数のほうが多い状況です。

タクシー不足と需給ギャップ

ということは、規制と現在起きているタクシー不足の因果関係は多少は認められるものの、相関関係はない、ということです。理由は規制されている量まで余裕があるからです。

次に、タクシーの需要と供給、需給ギャップの実態を考えてみます。

図1、2は新型コロナ感染症の影響がない2018年の時間帯別実車数グラフです。図1は月別、図2は平日と土曜日の年間平均です。このグラフが示すように、1日のうちで需要量が変化します。さらに曜日によっても、そして月によっても変化しています。多くの消費では需給量の変化があります。

"2018年タクシー時間帯別営業回数グラフ

図1 2018年時間帯別営業回数表 田原データーにより作成

"タクシー時間帯別営業回数

図2 時間帯別営業回数表(平日と土曜日)田原データにより作成

意図的な需給ギャップ

この総需要量に対して「余る」供給を行うと、その分一台当たりの需要量が減少します。(5人で10個を分けるか、10人で10個を分けるかの違いです)そして運転手の賃金も減少します。(2個から1個になるからです)

需給ギャップをどの時間帯も0にするとなると、最も需要量の高い時間帯に供給量を合わせなくてはなりません。そうなると、他の時間帯は「余る」ことになります。

これが規制緩和時に起きた「悲劇」だったのです。

言い換えれば、供給量を確保するために、需給ギャップを発生させているのです。もう少し言い方をかえると、需給ギャップは意図的に起こしているのです。そうしないと、運転手の人生が廃棄されるからです。需給ギャップとタクシー不足がない場合は、さらにギャップが拡大されます。

「余る」ことの意味

つまり、余ってはいけないのです。川鍋会長の「タクシーの余る時代に戻りたい」という発言の、その時代が2002年なのかは分かりません。しかし、「余る時代」は不幸な時代、悲劇の時代だったのです。そのことを分かっていないはずはありません。だから問題なのです。

タクシー業界が「共有地の悲劇」を起こした時代、そこに戻りたいという発言こそタクシー業界の悲劇です。ライドシェア推進派の人が言うのならまだしも、それを阻止しようとする人の発言ではないのです。

ミイラ取りはミイラになる

ただ、これまで川鍋会長が主導した施策は、タクシーによる白タクでした。タクシーから専門性をなくし、二種免許の取得要件を緩和、さらに一種免許でのタクシー乗務。事前確定運賃、ダイナミックプライシングなど、ライドシェア対策はタクシーのライドシェア化だったのです。GOという配車アプリを使ったタクシーによるライドシェア、GO Rideを推進だったわけです。

そうすることにより、「余る時代」が来ます。余ったところで廃棄されるのは運転手です。そして企業の利益も余ってきます。大量生産、大量消費、そして大量廃棄を行うということではないのでしょうか。

固定給にした場合

これまで述べたことは「出来高制歩合給」という賃金制度ゆえに問題があるのですが、固定給あるいは歩合給制での高い基本給を設定するのならば話は別です。

固定給の下では5人で10個の作業をするより、10人で10個の作業をするほうが楽だからです。タクシー業界の問題はこの賃金制度が深く関わっています。

つまり、需給問題は、ただ単に供給量を増やすことでは解決できないのです。それはライドシェアを解禁したら解決した、なんて簡単なことでもありません。そのことについては、次に考えてみます。

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