タクシーと労働組合
ハイヤー・タクシー事業における労働組合について考えてみた。
というのも、「連合の芳野友子会長が自民党の政策会合に出席したことがどうして問題なのか」と聞かれたからだ。
「立憲民主党、国民民主党を支持する組合のトップが与党自民党と仲良くする、ってことに抵抗があるんだろうね」と答えた。
たぶん、ボクもだけれど、自分たちの組合の上位組織まで知らない人もいると思う。少し勉強してみた。
1.サクッと日本の労働組合史
まあ、知らなくても良いし、分ったところで、なにかが変るわけでもないと思う。としても、なにかが変るかもしれない。
連合結成まで
図1は1989年連合結成までの流れを図にしたものだ。
各ナショナルセンターの詳細はリンク先を参照されたい。
全国産業別労働組合連合会(新産別)
日本労働組合総評議会(総評)
中立労働組合連絡会議(中立労連)
全日本労働総同盟(同盟)
1989年と言えばバブル経済の終盤、この頃から組合もだけれど、この国の転換期だったのだろうね。
連合結成と主な野党との関係
1987年の連合設立後は、図2の「連合の組織と主な野党との関係」(出典:東京新聞記事)になる。
「連合」ってどんな団体? 政治に影響力があるのはなぜ?:東京新聞 TOKYO Web
「立民、国民民主両党の最大の支援組織で、両党には産別出身の議員がいます」と記事にもあるように、今も昔も自民党とは相容れない組織、だから「抵抗がある」のだ。
組合の中にも保守政党支持の人もいた/いるだろうが、そういう人たちは、例えば隠れキリシタンのように隠棲していたのだろうか。そう言えば、選挙のたびに投票所に「見張り」がいた、なんてことを聞いたことがある。
そんなことを考えると、組合と政党は切り離したほうがスッキリしそうだ。
2.タクシー業界の労働組合
日本の労働組合は企業単位で「労使の協力と協議」が特徴だ。そして、労働者の代表としての位置付けのところが多い。これが御用組合と言われる所以なのだろろう。もともと『利害対立を前面に立てて労使交渉を行う労働組合(*1)』ではないのだから、「春闘?そんなこと言われても」なんて組合の人たちは思っているかもしれない。
タクシーの労働組合も例外ではなく、組合数(583組合、構成比41.8%)組合員数(37402人、構成比40.5%)とも4割近くが企業単位の組合として存在している。
しかし、他の産業と比較すると組織率が高い。そして全労連への加入率が高い。(組織率が高い理由は後述する)令和3年労働組合基礎調査の概況 – 厚生労働省
ハイタク労働8団体とは
次の8団体は、「ハイタク(ハイヤー・タクシー)労働8団体」と言われる産業別労働組合で、組合員数では連合系が約41.6%、全労連系が11.4%になっている。(図2)なお、組合数では連合系40.1%、全労連系17.1%である。
全自交労連(全自交) 連合
日本私鉄労働組合総連合会(私鉄総連) 連合
全国交通運輸労働組合総連合(交通労連) 連合
関東旅客自動車交通労働組合連合会(KPU) 連合
全国労供事業労働組合連合会(労供労連)(新運転) 連合
全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連) 全労連
中立労組政策推進会議(全中労)
東京ハイタク中立労組協議会(中労協)
図2 主要団体別組合員数(労働組合組織実態調査結果)
図3 ハイヤー・タクシー事業 労働組合数、組合員数 構成比表
上の図はナショナルセンターと企業単位その他でまとめたものになる。
連合系の支持政党は社会党系の流れをくむ立憲民主党と国民民主党、全労連系の支持政党は共産党になる。
連合は、自民党にも相容れない組織なのだが、共産党とも相容れないのだ。図1の連合結成時までに共産党排除、レッドパージが行われた経緯もある。
全トが与党との連携に動いた背景には、立民と共産党の共闘に対する拒否感もある。立民は共産と歩調を合わせて大企業に対する課税強化などを主張しており、全ト内には「立民はもはや敵だ」との反発も出ている。(トヨタ労連、立民離れ…共産共闘に拒否感「もはや敵だ」と反発も : 衆院選 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン)
2021年の衆院選に、全トヨタ労働組合連合会(全ト)の支援を受けてきた古本伸一郎前衆院議員(愛知11区)が衆院選不出馬を決めた局面での発言だ。さらに、
陣営では、「古本氏の不出馬は、全トの組合員に『自民党に投票してよい』とのサインになる」との危機感が強まっている。(読売新聞オンライン)
もはや支持政党なしということになっていた
この流れの中で連合吉野会長が自民党の政策会合に出席したのだから、連合内部では殺気立ってしまうのもわかるような気がする。
タクシー業界でも、連合系のタクシー運転手と全労連系の運転手が乗場にいたら、ガルルルル、となるかもしれない。それに、なんでか分からない嫌がらせを受けたとしたら、組合の違いかもしれない……、知らんけど。
3.都道府県別労働組合結成率・組織率
図4 都道府県別 ハイヤー・タクシー事業 労働組合組織率・結成率表
上位22位までをグラフ化してみた。
これに地方政治における政党の地域特性: 都道府県別政党割合ランキング(高橋亮平) – 個人 – Yahoo!ニュースの、政党割合ランキングを、さらに民主王国と言われる地域に色を加えたのが、図5だ。
ああ、やっぱり、というか、そりゃそうで、仕事では革新政党、プライベートでは保守政党、というのは難しいのではないのか?
23位以降は次の図6になる。
図6 都道府県別 ハイヤー・タクシー事業 労働組合組織率・結成率表(23位~)
大手と言われるタクシー事業者が多いところは結成率、組織率も高くなる。そして地方の中小零細の事業者では組合がない。それがこの数字に表れている、と思う。
4.タクシー運転手と労働組合
ということで、強引にまとめてみる。
労働組合の必要性
タクシー運転手は「事業所外の労働で、かつ、営業活動まで運転者にゆだねている」という特質上、不当な負担を強いられることが多い。また歩合給での賃金制は、ひとたび事故や免停、病気や怪我になれば無収入にもなりかねない。
そういった弱い立場が、労働組合を必要としてきたのだろう。個人の事業主が企業内組合に加入していて、個々の不利益や不当な負担、また、悩みや不安を相談し解消する場所、さらにはインティマ シー コーディネイターとして存在してきたのが、タクシーの労働組合だと思う。
だから、現金貸出制度や交通反則金補助制度のような独特な共助システムがある/あったのだろう。組合というよりも互助共助会として組織率が高くなっていったのだろうと思う。
ユニオンシップ制で加入を促進したのは、安全装置として機能していたからだろうと思う。そして組織率が高くなった。
資本主義の犠牲者になりやすいタクシー運転手を守るためにあるとしたら、社会主義や共産主義との親和性が高い。だから、社会党、共産党を支持政党としてきた。
芳野会長と自民党
冒頭にもどり、「連合の芳野友子会長が自民党の政策会合に出席したことがどうして問題なのか」の答えもそこにある。
てか、そもそも、タクシー運転手は自民党が嫌いなんだよ。自民党政権での政策、資本主義経済の失敗が、ボクたちをこうも清く正しく貧しい人生に陥れている、そう考えると、みんなどこかで組合的な思想信条を持っている、それがタクシー運転手だと、思ったりするんだが。
デニーロも、ソン・ガンホも、そしてボクも……。
図7 労働組合の結成率・組織率の推移(労働組合組織実態調査結果)
図8 労働組合数、組合員数、結成率および組織率の推移(労働組合組織実態調査結果)
参考文献:
(*1)藤村浩之「日本の労働組合 -過去・現在・未来」(「日本労働研究雑誌」 2011年1月、p79)
労働組合組織実態調査結果 一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会
作成した図表のデータは「労働組合組織実態調査結果」によります。