芝浜と清原世代

芝浜を聴く。

どうして勝五郎は酒に溺れてしまったのだろうかと考えていたのだけれど、「気持ち良いから」という単純な理由づけで良いのではないだろうか。年齢は30デコボコ、魚屋という職業柄飲む機会も多くなる。腕の良い職人でそれなりに収入があったのだろうから、そこそこ旨い酒を、金を気にしなくて飯のかわりに、水のかわりに飲んでいたら、アルコール依存症にもなるだろう。

子の不在、夫婦間の愛の不在、仕事上の失敗、パワハラ、なんて理由はありそうだけれど、江戸時代の30歳だ。三下り半で女房を離縁することもできる時代だ。子ができなければ、愛がなくなれば「出ていけ」となると思うのだ。

やっぱり「気持ち良いから」という理由で依存症になった、そう思うのだけれど、愛の不在が男を依存症にする、なんて答えのほうがもっともらしく、それらしいのかもしれない。

 

警察庁発表の「覚醒剤事犯年齢別検挙人員」というデータを見ると、平成26年度中の覚せい剤による検挙者の最も多い年齢層は40歳〜50歳で、前年までの30歳〜39歳の年齢層を抜いた。40歳〜50歳、50歳以上の検挙者が増加していて、ほかの年齢層は下降傾向にある。清原世代、そう呼ばれる人たちが最も多く、そうして増加していると読み取れる。

ボクもその年代のひとりなのだけれど、確かにこの年齢での失業や離婚は致命的だ。すぐにこれまで通りの仕事と収入、それに慣れ親しんだ環境が手に入ればいいのだけれど、そうでないのが現実で、失業は職を失うだけではなくて、それまでの人間関係も、そうして人格や尊厳までをも失いかねない。

このブログで一番よく読まれているのが「50歳からの期間工 – 道中の点検」だ。50歳、そして期間工なんてキーワードで検索するのだろう。おそらくその年齢層の人が、大企業という安心と、そこそこの収入を目当てに、期間工という選択をすることに悩んでいるのだろうと思う。

40歳台〜50歳台、この年齢層での失業からの正規雇用は難しくなる。ホームレスになるのも同じくこの年齢層だ。

年金を受給するには早すぎて、かといって新たに手に職を付けるなんてことには遅すぎて、家族を養っていかなければならないし、独身だとしても家や車のローン、中には養育費なんて人が多いのもこの年齢層なのだから、酒でも飲まなければやってられない、ということで、そのまま依存症へ、なんて人も多いはずだ。

失業というよりも失望なのだ。

失望、そして虚しさや切なさ、哀しさや辛さ、そんなネガティブな時間と空間だけに支配された毎日から救い出してくれるのは、酒だったり、あるいはクスリだったりするのだろう。救ってくれる人も失業とともに失ったのだから、もう酒とクスリしか残っていない。神も仏もいないのがこの国だ。救い主など現れないとすると、目の前にある極楽浄土に手が伸びる。

中高年の雇用問題が、そのまま薬物問題に繋がっているようにも思う。そうして非正規労働者の増加と格差の拡大が、社会と断絶した人々を増加させ、犯罪に対する抑止力を喪失させる。

「よそう、また夢になるといけねえ。」

ではなくて、きっとボクたちの芝浜はこういうオチになる。

「よし、飲もう。夢であってほしいから・・・。」

 

覚醒剤事犯年齢別検挙人員グラフ

01【セット版】平成26年中情勢表紙
表1-3 覚醒剤事犯年齢別検挙人員をグラフにしてみました。

2件のコメント

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    テルさん、こんにちは。
    今日を入れて残り2日というと、金曜日から出勤ですか?なんだかあっという間ですね。

    ボクの場合は、まあ、リーマンショックもあったし、知らない街だったしで、なんだか自棄になっていた感じもありました。遍路なんてのもしたのですが・・・。

    ボクもだけれど、まあ、孤独は孤独なのかなあ。慣れてしまえば、なんて言いたいけれど、どよ〜んと底を感じる時もあるし・・・。

    男のほうが弱いのでしょうね。きっと。

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    田原笠山さん、こんにちは。突然の連休も今日を入れて残り2日となりそろそろダラダラとした生活習慣を直さないとなあと思っています。正直新しい満了金になって半年の在籍手当5万円が廃止されたので出勤は出勤が減るのは…痛いですね。

    やはり中高年になると新しい環境でやっていくのは億劫になって、周りもそこそこの収入を得ているのに失業というのは精神的に堪えるんだろうなあと思います。
    清原氏の逮捕も、孤独となり精神的に誰も頼れる人が居なかったら…の場合の最悪のケースなのかなと思います。

    来週あたりが寒さのピークですね、暖かくしてお過ごし下さい。

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