裏切りの街角 いすゞ期間従業員の決断

遠藤実さんがお亡くなりになりましたね。
千昌夫さん、舟木一夫さん、北島三郎さんという大物演歌歌手の方たちのインタビューをテレビで見ました。「言葉では言えない関係」という師弟関係を聞くたびに、心に残る歌だけではなくて、この国はいろいろなものを失ってしまったし、失おうとうしている、と更に悲しくなりました。
師弟関係、演歌の世界でも「おやじ」という表現を師匠に対して使うようです。中学を出て、あるいは高校を出て、右も左も分からない東京に出て行って、そして師匠のもとに住み込んで、まずは雑用から初めて、そして歌のレッスンをする。そういう師弟関係が親子以上の関係を生むのでしょうね。
ヤクザもそうですね。杯を交わして、親子、兄弟という血とは別の深遠な関係を築く。
日本の仕事場は、昔はそういう関係で成り立っていたように思います。現在でも中小企業ではそういう感じのところが多いのかもしれませんね。「黒いものでも白」と言わなければならない、そのような世界。
子は親のために命を捨てる、親もこの為なら全てを捨てる、と言う関係。それが日本の集団意識のようなものだったのでしょう。芸能界ではまだまだ色濃く残っているような。「石原軍団」「たけし軍団」、あるいは落語の世界や歌謡曲の世界。
良い部分も悪い部分もあるのでしょうが、いつからか上に立つ「親」が、下のもの「子」を捨てる世の中になりました。それも「切り捨てる」という血も涙もない世の中にです。そういうトップしかこの国にはいなくなってしまいました。トップもですが、若頭、兄貴と言われる立場の人たちも仁義という言葉も忘れて知らん顔をする。
いすゞ自動車の期間従業員が労組を結成して解雇撤回求める通告書提出をしたというニュースが先週ありました。4人。
ボクはとても勇気ある決断だと感じました。契約期間は4月までだったそうですが、その4ヶ月のために立ち上がったわけです。恐らく「自分のため」というよりも、「全体のため」という侠気からだろうと思っています。
来年初め、ほとんどの期間従業員が、2月~4月の間までの契約期間で、それを12月26日までに打切られたのでしょう。普通はこう考えるのでしょうね。「2ヶ月早くなっただけだし」。
そして「ここで騒いで問題を起こしたら、次に雇ってもらえないかもしれないしなあ」ということを考えたのかもしれません。1400人の契約打切りがあったのにもかかわらず4人しか組合に参加しなかったのは、そういった意識からだろうと考えています。そしてこう言われたのかもしれません。「景気が良くなったらまた募集を再開するから」と。
この解雇が撤回されたとしても、2~4ヶ月後には解雇されるわけですし、再雇用という道が厳しくなることも確かなのです。それに代表の方は3年目ですから、延長ということもないのでしょうから。それでもその非正規労働者のために立ち上がったでしょうね。誰も助けてくれないのだから。
会社に感謝する、ということが確かに一昔、あるいはふた昔前までは、当たり前だったかもしれません。「給料をいただいて」いたのです。今は、会社に感謝しなければならない理由というのが見つかりません。労働者、特に非正規労働者は「安価な道具」として使い回されて使い捨てにされる、という絶望の中で従事しているのだから。
それでも日本人は真面目な民族なので、会社を裏切ったりはしません。自分の仕事を裏切って無責任なことはしません。トヨタ自動車でも期間従業員が適当なことをしているとは、ボクは感じませんでした。そういう暇もないのがライン作業でした。
非正規労働者はGLやEXという「おやじ」のために寿命を縮めるように腱鞘炎を隠し、筋肉痛を我慢して良い仕事をしようとする。その「おやじ」たちに、たとえ裏切られたとしても、裏切られると分かっていても。
トヨタもホンダも、創業者の時代は違ったのでしょうね。例えばホンダも宗一郎氏のことを「おやじ」と呼んでいたそうですね。昔は、自動車産業もそんな時代があったのでしょうね。師弟関係、親子関係…。
日本のもの造りが終焉に近づいたというのは、そういう環境や関係がすでに崩壊している、ということなのです。裏切りの街角、トヨタの街なのだろうと、ボクは考えています。

7件のコメント

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    元田原工場の人さん、こんにちは。
    えっと、ま、それが期間従業員の運命でもあるのでしょうけれどね。
    組合が会社のためのものだから、組合員も動きにくいのだろうと思ったりもします。憲兵も多く居るのだろうし、なんて…。

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    >さといもさんへ
    期間従業員から見て社員は仕事のできて頼れる先輩でした。
    今でも尊敬しています。
    社員に登用された人は根性と体力のある人でした。
    自ら戦地に赴く果敢な人のように思いました。
    増産時はラインを回すために必死になったり、
    改善のアイディアを出したり、ライン終了後に改善を手伝ったりと、いろいろできるけれど、
    減産時は去ることしかできないのが、期間従業員の寂しいところです。

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    職場条件が変わるのを嫌がる人はいるでしょうね。家族との関係なんかを考えたりすると。単身赴任に近くなったりしますからね。それに転属転勤の理由にも拠るのかもしれませんね。
    中には意味の分からない転属転勤ということもあるかもしれませんし。プライドというのが邪魔するのも人だろうし、なんていろいろなころを考えていますが。
    ま、期間従業員だとどうせ「終わり」が来るのだから、理由はなんにしろ決断の時期というのはあるでしょうね。1年も拘束されるという状況ですから。それも非正規のまま。
    それよりかまだチャンスがある今退職して正社員への道を模索するというのも手かもしれませんし。
    それも考えはいろいろあるでしょうね。延長することが幸福かというと、それはまた別問題ですからね。ここでも何度も書いていますが、若い人には無駄な時間の消費にもなりかねませんしね。
    トヨタにいることが「幸福」ではなくて、仕事があることが「幸福」だとしたら、どうせいつかは使い捨てられるのなら、なんて考え方もあるでしょうね。
    そこを分けて考えないと、トヨタに雇用されることが幸福なんてことになると、「仕事があるだけでもましと思え」なんてことにもなりかねませんしね。そういう思考の方も多いのでしょうが。

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    ワークシェアリングの考え方自体は私も賛成しています。
    だけど社員、期間従業員とも納得できない人が周りには一部居ますね。
    職場(工場)や勤務が変わったりするのに難色を示す人が。
    期間従業員の方で上記の理由により延長を断った方が居ると聞きますがやはり本人の考え方次第なのでしょうか?
    一部社員の通勤や駐車場が混むとか言ってる人達はくだらない発言を自重すべきです。

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    >北斗星さんへ
    そうなんですか。ボクもそういう噂のようなものは聞いていました。トヨタでもそういうことはあったようですしね。
    それはきっと人として当たり前のことも含んで、ということでしょうし。そしておっしゃる通り、そういう暖かさが製品に反映される、というのはもの造り、あるいは料理などを作るということにもあると思います。
    想像力がないと顧客のことなんて考えることが出来ないでしょうからね。
    いすゞは、そうですね。今回も犠牲者のほとんどが中高年の人たちになりそうですね。その人たちのことを理解してないと「元々いるホームレスに迷惑」なんてことを平気で言う人も出てくるのだろうと。
    組合というシステムも日本人にはなじみがないのかもしれないと、思いました。
    ありがとうございます。品格はどうなんでしょう、それほど…。実際は…。です。
    >さといもさんへ
    そうお取りになりますか。
    対立を煽ったところで、期間従業員側になんのメリットもないでしょう。
    誰も何も言わない、聞こえてこないという苛立ちですよ。特に組合という社員の代表者からね。
    いすゞの場合もそうです。なぜいすゞの組合が彼らを助けられないのですか?「仲間」と言っておきながら。
    トヨタもそうです。他の人のコメントにもありましたが、組合員であるシニアの延長が断られる状況でも沈黙です。これが社員のリストラが始まったらどうでしょう。きっと立ち上がるのでしょうね。というか組合があるからしないのでしょうか。
    裏切りとか対立なんてレベルの話じゃないのですよ。「助け合い」と何度も申しています。そこが出来ないこの国が終わっている、と考えているのです。

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    色々皆さんに聞きたい事があります。
    期間従業員から見て社員は敵なのですか?
    社員に登用された人は「裏切り」者なのですか?
    社員は皆給料泥棒なのですか?
    など。
    私は両方の気持ちがわかります。
    だからこそ互いの対立を煽るような発言が気になるのです。

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    20代の頃、日研の派遣で7ヶ月ほど関自で働いたことがあります。
    その頃は、期間工はあくまで補助戦力、職場の社員は職工肌の人が多く、打ち解けるまでは苦労しましたが、仕事の面ではずいぶん相談にのってもらいました。
    でも、なあなあではなく、仕事に対してはシビア。月一で入る検査も本当に厳しくて、最初はダメ出しばかり。面倒を見てくれる上司や社員に申し訳なくて、作業終了後、1人ナイショで残って練習しました。それに気づいた社員が、自分も無給で付き合ってくれましたね。
    北海道に来てからも、関自の上司や社員が何度か手紙や電話をくれました。たかが、半年ちょっと働いただけの派遣にですよ。あの頃はまだ、人間扱いされていたし、血の通う人間たちの作り上げる車だったから、世界中で売れたんじゃないですかね。
    派遣会社の担当社員もとても親切なヤツで、「派遣はボッタだから、もうやらない方がいいよ」などと言ってくれました。偶然北海道出身だったので、帰省した時にわざわざ店まで来てくれました。
    いすゞの組合は…悪いけど、大勢に影響ないでしょう。でも、この問題に限らず、この国の矛盾に対して、そろそろはっきりNo!と言うべき時だと思いますよ。
    普通選挙下での議会制民主主義というものに、実は日本人はほとんどなじみがなく、やっぱりお上の言うことは絶対だという、江戸の昔のままの感覚ですからね。
    四国も楽しみに読んでます。僕のおバカ旅ブログとは、格調が違いますね。人間としての品格の差を痛感してます(>_<)

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