闇の奥

真夜中、悲しいわけでも辛いわけでも苦しいわけでもないのに、泣きながら目がさめた。

人は泣きながら生き続けている。

「ボクがね、生きてきて自慢できることと言えばただひとつ、結婚しなかったことかな。だって相手の女性も、生まれる子供も不幸にはならなかったんだし」なんて話した。「でも、結婚してみなければ分からないし」なんてGさんは言った。『「わからない」ことはしないほうがいい』と言おうかと思ったのだけれど、やめた。

自分の始末にも困っているボクが人をシアワセに出来るわけがない、そうずいぶんと前から思うようになっていたし、ボクのような人間が産れる不幸も見たくないと考えるようになっていた。こんなことを言うと親に怒られそうなんだけれど、どこかでボクという血は断たなければならないと、思っている。

ひとりで、野垂れ死にするのが性に合っている。仲間とか友だちなんてものをあてにしてはいない。血のつながりなんて関係も数年前に断ち切ってそれはそれでせいせいしている。道に倒れても誰かの名前を呼ぼうなんてことも思いはしない。

平気で子供を生む人は、よほどの楽天家、あるいは自信があるのか、老後のためか、馬鹿かだ。

派遣や期間従業員、多くの非正規労働者、あるいは不安定な労働環境にある人たちは、きっとボクと同じような考えなのだろうと確信している。結婚や出産、育児なんて莫大な出費に対する担保がない。それどころか車さえも買う余裕もない。いつまた仕事がなくなるか分からない。収入は上がったとしても最低賃金にスライドする程度の時給10円20円の世界だ。駐車場代にもなりはしない。

「必要とされない人間なんていない」なんて言う人がいるけれど、確かに奴隷も世の中には必要だ。派遣も期間工も世の中には必要な人間で、世のためこの国のため経済のために生きなければならないのだろう。富の分配の法則はとっくに崩壊している。

もう数十年泣き続けている。ボクが産まれたその日から、悲しいわけでも辛いわけでも苦しいわけでもないのだけれど…。

闇の奥

2件のコメント

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    dさん、どうも。
    最期は、笑えるとは思っていなくて、せめて人に迷惑をかけなければそれが一番かなあ、なんて思っています。それなりの準備はしているとしても、どうしようもないこともあるし…。
    人生も逆算できると良いのだけれど。

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    最期だけは…笑って逝ければこの上なしなのかな

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