国民総期間従業員ということ

トヨタ自動車に罪はありません。
派遣切りがなかったということです。「派遣切りトヨタ」とか「非情な派遣切り」なんてことが言われていますが、トヨタ自動車本体ではそのことが問題になる以前、昨年9月、リーマンが破綻した時期には、派遣社員はほとんどいなくて、期間従業員も削減の方向にありました。

リーマン破たん、期間従業員の募集はありません
一部にあった10月から期間従業員の募集を再開するということもなくなりそうで、当分の間は募集もなくて、現在雇用されている人たちも期間延長なしということになりそうですね。

10月から少し増産体制になるという予定(というか、今年の1、2、3月に予定されていた繁忙期の増員、在庫増)がなくなったということで、そのまま募集をしなかったということなのです。原油価格高騰による自動車販売の落ち込みは、派遣切りの被害を最小にしたということにおいて、幸運だったのでしょう。

9月初めに、年内満了予定者は延長なし。
との、口頭での通達がありました。

トヨタ自動車は、世間から思われているような「非情な」こともしていなければ、期間途中での解雇もなかったのですから、法的にはなんらやましいこともなく、「よくやったね」と世間はほめてやってもいいくらいなのかもしれません。
下請け、関連企業においては派遣切りが行われたとしても、それをトヨタの力で止めさせるということも出来ないでしょうし、出来ない状態にあったのでしょうし。
非正規雇用が雇用の調整弁となったことは確かなのですが、もともとそのために期間従業員や派遣社員を雇用していたのですから、それは「切った」というよりも、予定通り「弁を使った」ということでしょう。経営側も組合も「どうして責められるのか」と驚いたのかもしれません。
他の企業、例えばキャノンのあの卑劣な派遣切りや偽装請負と比較すれば、希望退職者を募ることもなく、ほとんどの期間従業員が円満に満了していったトヨタは責任を果たしたと言っていいでしょう。
[第5回]派遣禁止は有効ではない、貧困問題解決のための処方箋:朝日新聞グローブ (GLOBE)|World Economy―先読み世界経済 大竹文雄
という論文を朝読んでいました。
非正規雇用禁止は有効ではないのですが、派遣を禁止するということはまた違う問題のようにも思います。大竹先生もそのあたりはご理解なさっていて、文字数上そこまで言及しなかったのでしょうが。

派遣労働者が増えたのは事実であるが、非正規労働の多数派は今でもパート労働などであり、派遣を禁止したところで、非正規労働がなくなるわけではない。

非正規雇用のなかでも派遣は個別に扱わなければならない問題だろうと思います。派遣切りで、特に問題となった製造業、例えばトヨタでは雇用調整に長期雇用型の期間従業員という直接雇用を行っていました。それは大竹先生がおっしゃられる「正社員の任期制」の前段階のような、あるいはそれを予感させるものでもありました。

派遣労働の問題点を解決するためには、正社員の雇用契約期間に、5年、10年といった任期付きの雇用を認めていくことも一つの方法である。そうなれば、派遣から直接雇用への転換も容易になる。短期の契約であれば、企業は労働者に訓練をするインセンティブはないが、中長期の雇用契約であれば、訓練して生産性を上げることが得になる。

このことをトヨタは目指していたのかもしれません。期間従業員の生産性向上化、「仲間化」ということです。ただ、それは生産性だけのために、それまでの最長11ヶ月という期間が2004年に改正されて2年11ヶ月になったのでしょう。労働者のためではなくて。
2年11ヶ月という雇用期間は非正規労働者のスキルアップや能力開発を行うことが出来る長さです。(1年研修や2年研修というものも、行っていましたしね)全体の生産性を上げるためには、非正規労働者という低賃金の労働者のレベルアップが有効なのでしょうし。
おそらく、組合としてもあのままの景気が続いたら、期間従業員の職業訓練や能力開発といったことを経営側に求めたのだろうと、ボクは思っていますけれど。
全てを正社員化する、言い換えると全てを期間従業員ということ。大竹先生の案は「正社員の雇用契約期間を設けて、派遣も雇用する」ということなのでしょうが、いっそ全部を期間従業員にしてしまうということも考えられると思います。あるいは、非正規雇用は直接雇用の期間工やパート労働者にするということにすればいいのではないかと思っています。派遣という労働力を商品として、それを搾取する仕組みが問題なのですし、その被害者が多いのですから。
トヨタのように最低4ヶ月間連続雇用するのが難しいという企業もあるでしょうが、それならば逆に直接雇用の非正規社員と日雇い派遣という2つの雇用関係だけにしてしまうほうがいいのかもしれません。
その場合は、日雇派遣労働者も雇用先と直接雇用契約を結んで、半日から社会保障の加入を義務付け、加算される仕組みにすれば通算6ヶ月で失業給付も受給でき職業訓練を受講できるようにすれば安全が確保されるだろうと考えています。

愛知にとって期間工とは| トヨタ期間従業員に行こう
トヨタとその関連企業の雇用力というものに感謝している人が多いのだろろうと、感じています。特に40歳を越えるとトヨタ以外の期間工や派遣会社では雇用してくれるところが少なくなりますから、やはりトヨタは中高年にとってありがたい雇用主

だったのです。
トヨタの期間従業員と言う制度は、何度か書きましたが、大きな雇用力でしたし、労働者にとっても調整弁として、セーフティネットとして、その制度を利用(中には悪用していた人もいるでしょうし)していましたから、もう少しどうにかすれば、例えば大竹先生のように「任期制」という識者の意見が多くなり、そこからシステムの変換が起これば、労使共に「得」になるのだろうと思うのですけれど。それがこの国の「得」でもあるのでしょうし…。

欧州では、経営上の理由による解雇は認め、失業保険や職業訓練は充実するというのが大きな流れだ。この点は、日本も参考にすべきである。目の前の失業者を救う方法を間違えると、その何倍もの失業者が発生するだけでなく、将来、日本全体が貧しくなってしまう。

失業に対しての保障が手厚くなることは良いのでしょうが、失業保険や職業訓練が有効的に作用しないと、現状では受け皿もないのに、ただ失業保険や職業訓練で失業期間を引き延ばしているようにも感じます。訓練後が見えない訓練なのですし。
そのことも含めて「間違えると」、勤労者の負担が増えて、高齢者も失業者も扶養しなければならない時代になるのだろうと思います。そうなると働かないもの勝ち、なんてモラルハザードが起きるのだろうし。

急激な不況による大規模な失業を防ぐためには、政府による需要創出しかない。そのためには、増税も選択肢になる。

と、ま、ボクも思うのだけれど、ほとんど消費もしなえれば、生産もしていないので、言う立場にないのかなあ、なんて思っています。てか、長くなったけれど…。
折鶴
#一部訂正加筆しました。(3月10日22時30分)

2件のコメント

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    北斗星さん、こんばんは。
    そうですね、低コストな労働力を使うというのは利益のためには合理的で有効な方法でしょうしね。企業の目標は利益ですから。
    社会保障の面で国が企業と離れた位置で考えなければならないことだったのでしょうけれど。
    失業保険や職業訓練もその先を考えないと、ただ与えるだけになってしまって、いつまでもその納税者は増えないのだろうと思います。
    それどころか、ベーシックインカムなんてことで勤労者が高齢者も失業者も扶養する時代になると、いよいよ滅亡だなあ、なんて思っています。もうビンボー年寄り国家になりつつありますもんね。

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    企業の雇用責任という点では、トヨタの期間従業員制度は立派だと思います。雇い止めを非難する人もいますが、もともとそれが前提の雇用形態ですからね。とりあえず、雇用保険や社会保険の任意継続など、セーフティネットも機能しています。
    問題なのは、同一労働同一賃金ではないということですね。
    派遣に関しては、単発の登録形スポット派遣以外、派遣会社が雇用責任を負うべきです。それができない悪徳派遣はさっさと整理すべきでしょう。業務規模を考えても、渥美線沿線に散在する個人経営の小さな会社が派遣など営むべきではないと思います。
    派遣も有期雇用が悪いとは思いません。そういう働き方を望む人もいるし、これから高齢化が進むのですから、高齢者にも働けるような環境を作るには、有期雇用という形態も必要ですよね。
    ただ、この国の場合は労働形態もワークシェアも、それらが全て企業の都合に終始してしまい、労働者が雇用形態を選択できない地域が多すぎるのが問題です。
    札幌など、派遣の草刈り場と呼ばれ、本州に働きに行ったまま職を失い、帰ってこれない人がたくさんいます。
    最近、ヨーロッパ各国の制度を見ていて、まず働いて税金を納める人を増やさなければ、税収も増えないという当り前のことを大前提にしているのに驚きます。
    そのために職業訓練も行い、子育て支援も行い、子育てが終わればすぐに働けるようにする。その中での有期雇用は、労働差別ではなくあくまで労働者が選択できるシステムになっている。しかも、正規も非正規も同一労働同一賃金です。
    なぜ日本はこんな当り前のことができないのでしょう?一部の企業だけがブクブク太って、国民も国自体もどんどん貧しくなってゆく。
    日本人だけはこのことに気づいていませんが、株価や為替を見ると、海外ではこの国のゆく末を見限ったように思います。
    世界第二の経済大国。10年後にはビンボー年寄り王国になっているかもしれません。
    こちらも長々と書いてみましたm(_ _)m

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