伊奈、伊那?タクシーの地理について
タクシーの品質とはなんだろうか。
安全に迅速にお客様を目的地までお届けする。ということだとしたら、運転技術と地理に卓越していることが高品質ということになるのだろうか。
運転技術とは
運転技術というのは、どれだけ早く走れるか、なんてことや、どれだけアクロバティックな運転を出来るか、ということではなくて、「優しい運転」という人間性の問題に関わることだったりもするのだろうと思う。「迅速」ということを履き違えると「高速運転」なんて制限速度を越えた運転をすることにもなるのだろうし、逆にあまりにも「低速運転」だと不快に感じるお客様もいるだろうから、速度については遅すぎず速過ぎず、なんだろうけれど、これもお客様ひとりひとりの感覚の違いもあるのだろうし、難しい。
お客様には優しくても、通行している人たちにとっては優しくない運転もあったりするのだろうね。
地理について
地理については、小売店の商品みたいなものではないだろうか。例えばシャンプーが飲み物なのか薬なのかその本来の目的を知らないで売るなんてことはしないだろうし。要するに商品知識がないということは販売する上で致命的だったりもするのだろうけれど、タクシーの場合はそのあたりがとても曖昧だったりすると思う。
バスのように路線が決まっていれば良いのだろうけれど、お客様によっては同じ場所に行くにしても好みの道があったり、あるいは混雑している時のルートが違ったりして、正解がないように思う。正解と思っていても、例えば同時にスタートしたとしたら違うルートが早くて安全だったりする場合もあるのだろうし…。
これまた難しい。
ルート選択について
地理を熟知した上でルート選択にミスがあっても、お客様が同意の上ならばそれはそれで正解なのだろうけれど、ボクのような新人ドライバーはルートを選択する余裕もなくて、そして「地理に不慣れなもので教えていただければ助かります」なんてお客様にナビしてもらうことも多い。そうなるともう正解も不正解も無く、全てをお客様に委ねる、というか、商品知識がないままにシャンプーを「えっと、これがどういうものか知らないのですが、教えていただけると…」なんて言って販売しているようで。
そんなコンビニの店員がいたらちょっと怖くない?
なんて考えると、タクシーの運転手はけっこうそういう販売の仕方をする。商品量(場所)が無限だし、薬局に魚を買いに来た人に対しても対応するようなこと(例えば行ったことのない遠方の街に行く)なんてこともあるのだから、不可能かもしれないと思ったりもするのだけれど。それでもせめて住んでる市やその近隣の地理は憶えたいものだと思っているのだけれど。
お客様に育ててもらう、それがタクシー運転手なのだろう。
豊橋に生まれたわけではないので、その地理という商品知識に疎い。疎いというよりも日本語を知らないで国語の教師をしているようなもので…。
聞き違い?
はじめの頃、駅から乗せたお客様が「伊奈まで」と言った。ボクは小坂井に伊奈という場所があることさえ知らなかったので「えっと、飯田のほうの伊那ですか?」と尋ねた。
「(笑)運転手さん、おもしろいね」
「えっと、違いましたか」
「小坂井のほうのね」
「そうですよね」と言ってから、ボクはその伊奈を探し始める。ボクが知っている地名は長野県の伊那市で、小坂井の伊奈は始めて聞く場所だったのだ。そうなると長野県の伊那市のほうがボクにとっては地理的に詳しいということになる。
天竜川駅の時もそうだった。その駅名を聞いたときに真っ先に浮かんだのは飯田線の中部天竜駅だった。そしてあの辺りだと思って「えっと、飯田線の?」とこれまたお客様に聞いた。その時はそれほど驚かれなかったのだけれど。
読めない地名
読めない地名なんてのもあって、いまだに地理には苦しむ。というか、ほとんどの人、それは地元だろうがボクのように余所者であろうが同じことなんだろうけれど。ナビやセンターに聞けばという人もいる。でもね、その場所のおおよその位置をしらないと、出だしで逆方向に行くなんてことも。知っていればその方向に進んでいるうちにナビを操作したりセンターに問い合わせたり出来るのだろうし。
それでもそういう時間のない近場さえも知らない場所が多いのだけれど。まだまだお客様に迷惑かけているのだろうと思う。「ありがとうございます」と本当に感謝して料金を頂いている。はあ~。