貧困の連鎖

ボクが親だったら「期間工なんてヤツの嫁にやれるか」と言うに決まっている。「非正規?顔を洗って出直してこい」と言うかもしれない。期間工や派遣社員に自分の娘を嫁がせるなんて考えないだろうし、きっとなにがなんでも反対すると思う。

昨日の産経新聞に「生活保護世帯の高校進学促進へ静岡県がマニュアル」なんて記事が出ていた。静岡県の健康福祉部が、「生活保護受給世帯の子供が高校へ進学することを促進するため、福祉事務所担当者向けのマニュアルを作成した」というものだ。

「生活保護を受けて育った子供が再び生活保護を受ける割合は国の調査では25%に上る」そうだ。そうして「『貧困の連鎖』を防ぐためには、勉強する環境を整えることが重要」と説くのだけれど、生活保護を受けながら子供のために十分な教育費なんてものは払えるわけがなく、高校までは行かせることができたとしても、その上までは難しい。家から通学できる範囲に大学があればそれも可能かもしれないけれど、なければ大学進学なんて絶望的になる。

それはなにも大学だけの話ではなくて、高校進学も同じことでことで、公立高校入試に失敗したら学費の高い私立高校へ行かなければならない、この国の入試制度が貧困家庭から教育を受ける

機会を奪っているとも言える。親元を離れて大学、それも私立大学で学ぶなんてことは生活保護家庭だけではなくて、普通の家庭でも厳しいというのが今のこの国の教育環境でもある。

という前に、教育費というお金の問題よりも、そもそも貧困家庭は教育の価値に対する信憑性も乏しく、「勉強なんてしてなんになる」という親の精神構造のほうが問題になる場合も多い。

マニュアルができて、そして「学費の安い夜間高校や通信制の高校もありますよ」なんてことを説明したとしても、それらの高校を卒業したからといって一般高校の卒業生並みの就職率なんてものも望めないのも周知の事実で、そうした絶望感が教育という子供への投資を控える、あるいは無駄だと思う気持ちを一層頑強なものにする。進学と就職が結びつかないというのが、この国の雇用問題の複雑さでもある。

企業は学力や人間性よりも、そして職業能力よりも、「高卒」とか「大卒」という「一般的能力(*1)」を採用基準に求めているのだから、いかにすばらしい人間であってもその基準からはみ出したものは受け入れない。どうあがいたってムダなのだ。そのムダということを、生活保護世帯の親は肌で感覚的に分かっているのだから、普通の高校に行くことが出来なければ、「あとはどこへ行っても同じ」なんてことになる。

入学制度もだけれど、この国の新卒一括採用という入社システムも変えなければ(濱口桂一郎氏の言う「就職」ではなくて「入社」、要するに「職に就く」のではなくて「会社に入る」というこの国の就職という現象)いつまでたっても、家庭の経済的理由でその連鎖が続くという悲劇はなくならない。

自治体や国が「高校進学促進マニュアル」なんてものを作成するのならば、高校に進学すれば「これこれこんな職業に就けますよ」、なんてもっと具体的なことを明言することも必要で、じゃあ市役所で彼/彼女たちの雇用枠を作るとか、夜間高校や定時制高校卒業生枠を増やすということを施策しないと、ただ促進するだけでは「イケイケ詐欺」だ。

トヨタ学園高校なんて企業内高校というのもひとつの方法で、企業は馬鹿のひとつ覚えみたいに大学や高校の新卒ばかりを採用することから脱却することも必要なんではないかと思う。職業訓練校やそれら高校からの採用枠を増やすことも考えなければならないと思う。

なによりも非正規なんて雇用の調整弁を、期間工なんて呼称の常用工をなくすことと、どこからでも就職できるような仕組みをつくらないと、貧困の連鎖は続き生活保護受給者はなくならないばかりではなくて、生活保護費という社会的コストだけではなくて、犯罪の増加や狂暴化なんてことを含めて、そういった社会的リスクも増加して、いよいよ住みにくい国になるのだ。

どこからでもチャレンジできるような雇用の仕組みが望まれるのだけれど、現状は「すべり台社会」で一度失敗したら二度と這い上がれない。「非」なんて人たちが「期間工なんてヤツに娘はやれん」という差別を受ける社会が本当に正しいのかと思うのだけれど、トヨタの組合様も日給300円上げればいいだろう、ぐらいに考えていて、結局金で解決しようとしていて「非」なる身分の固定化を図ろうとしているように、ボクには見える。まあ、大企業の組合様がこんな調子だから、いつまでたっても貧困の連鎖なんてのは…解決されない。

*1濱口桂一郎著「若者と労働」第1章「就職」型社会と「入社」型社会p67において「一般的能力」という表現を使って、現在の学卒労働市場の変容を説明している。

向山公園の桜 2013年
向山公園の桜 2013年3月28日

11件のコメント

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    のなさん、こんばんは。20度近くあったそうな。家の中にいるとそんな感じはしなかったけれど…。
    まあ、確かにいまだに男尊女卑みたいな考えの人も多いですね。お茶やトイレ掃除は女の仕事だ、なんて言う人もいるし。
    でも、女性の方が得することもあるし。ボクはどっちかというと女性に産まれたほうがよかったかなあ、なんて思ったりすることがありますよ。

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     今日は、暖かかったですね。テーマに合ってないかもしれませんが、最近、スーパーで話した20代の女性、就職活動の時、「女はいらない。」と言われたそうです。結局、昔から、女の置かれている社会状況は、変わらないんですよね。結婚して、子供生みたかったです。そのうち、生理もあがっちゃいそう…。男になりたい訳でもないけれど、女に産まれてよかったのかな…って。話し逸れますが、弟が結婚するそうです。       春だから、気分上げていきたいです。   

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    さといもさん、どうも。
    >そうやって生きる術を知ってしまい
    それも含めて教育の価値に対する信憑性とか精神行動ですね。
    学校の問題もですが、この国の企業の一括採用というのが特に問題ですね。要するに浪人や留年よりも、就職浪人に厳しいというのが問題かな。
    ずっと居たいという方を基準に考えるから「多様性」なんてことで誤魔化されるのかな。そして非正規でいることが「幸せ」なんて格差を肯定することを平気で言う人が出てくるのでしょうね。
    ホームレスが「幸せ」だという人もいるのも確かですから。

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    生活保護を受けている家庭で育った子供がまた生活保護になりやすい理由としては思うような教育が受けられないのもありますが幼い頃からそうやって生きる術を知ってしまい結果的に働く意欲を失ってしまっているのもあるかと思います。
    学校もそうですけど就職の際にも同じような能力の方が居て1人は裕福な家庭、もう1人は生活保護を受けている家庭だったら前者を選ぶ会社も少なくないのではないでしょうか。
    夜間や通信の高校や大学も学歴の上では何ら変わりはないのですが一般に下に見られてしまう傾向があるのは否めません。実際教育の質が昼間のそれより見劣りするのは事実ですし。
    高校受験に失敗して私立、夜間、通信を選ばずにあえて留年し翌年受験する方も稀に居ますがその時点でかなりのハンデを背負ってしまうせいか一般的ではないですね。大学なら浪人や留年でもそれほどハンデはないかと思いますが。
    世の中推薦や特待生などの制度に批判的な意見がちらほらありますが意欲や能力がある貧しい家庭の子供を救うといった意味合いがあるのも考えるとそれほど悪くないのではないかと思ったりします。いわゆるスポーツ枠とかも。
    個人的には長く居たい希望がある方については仕事の能力や健康に重大な問題がない限り社員にするのが理想だと思います。
    ただ社員にはなりたくないけど期間従業員としてずっと居たいと言う方もたまにおりそういう方にどう対応すればいいのかは何ともいえません。
    その方にとっては期間従業員で居ることが「幸せ」で社員になることが「不幸」なのかもしれませんし・・

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    dさん、おはようございます。
    犯罪者になりたくないから痛みを我慢する。そして悪化して…。労災にならないものがかなりあるのかなあ、なんて思っています。
    まあ、そんなこともずいぶん書いたのですが…。
    社員になりたいがために滅私奉公、で、使い捨てられるのだから、血も涙もない。
    百歩譲って経営側はしかたないとしても、組合も結局は同じ考え方なので、どうしようもないのですけれど。

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    前科者といえば。
    怪我した期間従業員はまさに犯罪者ですな…トヨタ調書にも記され、二度と復帰は叶わぬ…

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    元2塗装さん、おはようございます。
    あの頃は、けっこう横の繋がりみたいなのもあって、ブログを通じていろいろな出会いもありましたけれど…。
    堤工場の方も何人かここに書き込みをしていましたし。
    長期間常用代替の期間社員として雇い続けて、そしてまた赤紙でそれを続ける。それでも社員として登用させない意味が分からない。トヨタの奴隷制度ということなんですけれど。
    要するに一生ずっと期間工地獄に陥れようとする悪意をトヨタ自動車に感じるわけです。
    多様な働き方と安倍総理は言うけれど、そういった実態が分かっていない。「(社員に)するする詐欺」みたいなものです。

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    すみません、名前を間違えてしまいました…
    きちんとコメ欄を見ながら書いたつもりが。

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    おはようございます。
    当時から田原笹山さんのサイトを拝見していました。
    (他にもいくつかの期間工ブログ)
    名前が一定ではなかったですが、コメントも何度か。
    私が働いていた堤は、プリウスで他の工場よりも少し状況は
    良かったようです。
    リーマンショック後に期間工の採用を絞っていましたが、
    再赴任のハガキが来ましたから。
    延長にしても、再赴任にしてもそうですが、
    正社員では欲しくなくても、期間従業員として欲しがるトヨタに
    怒りを通り越して呆れてしまいました。

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    元2塗装さん、こんばんは。
    そういった事情でしたか。ボクもリーマンの年に満了でしたので、同じ時期にいたことになりますね。
    一度レールをはずれると、まるで前科者のような扱いを受けるのが日本の企業、というか、この国の雇用システムのような…。
    トヨタなどは何年も非正規で雇用し続けながら、そして赤紙で再雇用しながら「正社員ではダメ」というのだから、これが使い捨てではなくてなんだろうかと思います。
    正社員でダメなら非正規でもだめだろ、と思うのが普通で、登用という餌をぶら下げながら、若者の時間を食って太り続けているのがトヨタ自動車のように思っています。
    ボクも、リーマンショックのあとは、ほんと就職がなくて結局1年ほど遊びました・・・。

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    すべり台社会とは、その通りだと思います。
    経済的な理由で大学を中退した私は、最初からレールに乗れませんでした。
    非正規で働いている最中に、トヨタの社員登用制度を知りました。
    家族には体を壊すと随分反対されました。
    課長のお墨付きをもらって、社員登用が目前となった矢先に
    リーマンショックが起りました。
    それまで100人の採用が、たった数人になり、塗装部からの登用は有りませんでした。
    延長の話が来ましたが、断って2年で地元に帰りました。
    今では当時を笑って話せるぐらいに幸せですが、
    何をやってもうまくいかない絶望感で、地元に帰って当初は
    何もやる気が起きませんでした。

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