福島屋で熱燗を一杯

白粉くさい酒、なんて台詞が落語の中に出てくるんだけれど、酒は居酒屋なんてところで、ゆっくりと飲むのが性に合っているようで、白粉くさいお姉ちゃんのいる場所はどうも苦手なのだ。

若い頃は、スナックなんてところでお姉ちゃんの(まあ、その頃は本当に年上のお姉ちゃんたちだったのだけれど)人生話なんてのを聞くのが好きだったり、ボク自身の人生相談をしたりして、それはそれで楽しかったのだけれど、中年の域に達した年齢になった今では、自分の子供ぐらいの年齢のお姉ちゃんにそんな話もできる訳もなく、結局高い金払ってこっちのほうが気を遣ってホスト役になってしまっては、疲れるのがオチだったりするので、面倒くさくなってしまったのだろう。

ボクよりも年上のお姉ちゃんのいるスナックなんてなると、熟女バーってことになるのか…。熟女というよりも、完熟、柿でいうなら熟柿……。逆にピチピチ(死語?)のお姉ちゃんのいる場所、あるいはフィリピンパブなんてところのほうが癒されるかもしれない、そう思っても、どうもフィリッピンパブなんてのところは人身売買のにおいもしたりして、またそれはそれでなんだか落ち着かない。

蕎麦屋で一杯なんて風流さも持ち合わせていないので、結局やっぱり居酒屋で一杯なんてことが多くなる。(お家で一杯が多いのだけれど)

居酒屋で飲んで、酔ったところでフラフラと街を歩くのが好きだったりする。家に帰る道すがら、いつも通らない路地裏に迷い込んでしまうと、感覚が麻痺する。くさなぎくんが全裸になって踊った気持ちも分かる。これまたそんなデリケートな感覚を持ち合せていないので、せいぜい裸足で歩くぐらいのことしか出来ないんだけれど…。

さてさて、福島屋。豊橋では老舗の居酒屋らしい。評判通り、肴は美味しいし、お酒も旨い。居酒屋というよりも、小料理屋と表現したほうが良いと思う。特筆すべきは「豚足」。ここの豚足は醤油で味付けされたものを焼いている。これが絶妙の味付けで、豚足目当てにリピートする人がかなりいると思う。このボクもそのうちのひとりになってしまった。

福島屋で熱燗を一杯だけではなくて四合ほど飲んで、そしていつものようにフラフラ歩いて豊橋駅前まで出てきた。北島や船町界隈は開発とか近代化とか発展なんてものと縁切りしている路地が多くて、古き良き豊橋の街を残しているところが残っている。狭い道路は確かに車社会では困ることもあるのだろうけれど、逆に車が入ってこないという安全性を確実に担保している。

結局、人も街も白粉で覆い隠しては、それのもつ本質なんてものまで隠蔽してしまって、人びとの感覚に妙な刺激を与えて神経を破壊してしまうのではないかと思う。化粧が悪いという意味ではない。街を政策なんてもので区画整理してしまうということだ。安全とか住み易さなんてスローガンで道幅を広げアスファルトで覆い隠し、コンクリートで立体的に創造してしまうことだ。

もうボクたちは素肌の土地なんてものには何の魅力も感じ得なくなってしまって、たっぷりと白粉を塗った、そのにおいのプンプンするものにしか価値を見いだせなくなってしまっているのだ。そしてそのにおいのプンプンする酒を毎日飲んでは、情緒なんてものを破壊されているのだ。

なんて考えながらボクは豊橋駅のベンチに座っていた。ホームレスはそろそろ塒を確保しはじめている。彼らも開発とか発展とか近代化なんてものの犠牲者なのだろう。タクシープールにはたっぷりとタクシーが溜まっている。道路はお迎えの車で渋滞している。

福島屋の豚足

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