タクシー「格安運賃」について考えたこと

MKタクシーが、去年4月に国が定めたタクシーの運賃、いわゆる「公定幅運賃」より10%から17%ほど安い運賃で営業していることに対して、大阪高等裁判所と福岡高等裁判所は、その安い運賃での営業を認める決定をした。

これはどういうことか、ということを少し考えてみた。

例えば、ボクたちが旅先の駅からタクシーを利用とするとする。タクシー乗り場で待機しているタクシーの運賃は同一で、どのタクシーに乗ろうと料金の差はない。それはある意味「安心」で「安全」なことだと思う。発展途上国のタクシーのように法外な値段を請求されることもなく、検査を受けたメーターによって距離と時間で正確に運賃が計算される。

「公定幅運賃」というものがあったとしても、同一営業地域内では、各社、「談合」ではなくて、「カルテル」でもなくて、「阿吽の呼吸」によって、同一賃金になっている。例えばここ東三河南部交通圏においては(中型)、初乗りが660円~700円、距離は80円=261メートル~246メートル、という上限と下限の中でA、B、C、D、Eという運賃が設定できるのだけれど、全社上限での同一運賃の営業を行っている。

不思議に思う人も多いのだろう。でも考えれば700円で売れるのだから700円で売ったほうが儲かるに決まっている。わざわざ安売りすることもないのだ。それに旧初乗り運賃が670円だったのだから、消費増税に合わせて700円になるほうが普通のことのようでもある。世間は軒並み増税に合わせて値上がりした。デフレ脱却の意図もあって、物価は上昇しなければならない。

地方のタクシー業界は「共有地」の意識が強いと言っても良い。ゆえに「共有地の悲劇」は避けたいとの心理が働く。共倒れこそが第一に避けなければならないことなのだ。一社だけ違うということをするには勇気がいる。出る釘社会において村八を意味する。それにそこで働く運転手も黙ってはいない。「どうしてうちだけ運賃が安いんですが」あるいは「運賃が高いんですか」とストライキに突入なんてことにならないにしても、人手不足の業界、「じゃあ、辞めて違うタクシー会社に移ります」なんてことも平気な人たちも多い。というか、職人気質の運転手「包丁一本さらしに巻いて」と、二種免許をさらしに巻いて「旅に出る」のも、業界の修行のひとつと思っているに違いない。(こいさんは待っててくれないが…)

いや、価格競争が起きると、コストという点で公共交通の経営が行われると、まず第一に従業員に負担がかかる、ということをボクたちはすでに学んできている。タクシー業界に価格破壊が起きると、派遣運転手や期間運転手が登場するようになる。既に書いたように「タク女」なんてのが登場して、パート主婦の運転手が増える。学生アルバイト運転手も出てくる。

あるいは、コスト至上主義、絞れる雑巾を更に絞って使え、なんてどこかの自動車会社のような仕組みが登場する。安全よりは利益が優先される。タクシー業界、削れるところが限られている。これまたどこかの自動車会社のように下請けを泣かせて利益を上げるということもできない。顧客を泣かせて利益を上げるということになる。

価格競争の果てには品質・安全性の劣化とリコールの増加、雇用条件の悪化が起きる。深夜営業中止なんてことをボクたちは牛丼屋戦争で、異物混入なんてことをファストフードで学んできた。不利益を被るのは常に国民なのだ。危険に身をさらされるのは常に国民なのだ。

今はMKタクシー一社が低運賃で営業しているだけだから問題は現出していない。「お客様に利益」「売上増加」なんて言っている。しかし価格競争が始まったら、上記のことが起きる。政治は時代に逆らわないで法改正を闇夜に行う。二種免許なんてものが撤廃され、業界というものが消滅し、オンデマンドにスマホでタクシーを選んで乗る時代が来るかもしれない。いやタクシーという業態が変化して、走っている車全てに有料で同乗できるシステムになることもイメイジできる。

それはそれで未来のこの国の公共交通の姿なのかもしれないけれど、それには事故が起こらない、とか、確実に目的地に着く、なんて安全が担保されなければならない。パッシブ・セーフティもアクティブ・セーフティも、まだ完全ではない。

今回の高裁の決定は「償うことができない損害を避ける緊急の必要がある」という一点で分かるのだけれど、タクシー業界に価格競争が起きることは避けなければならないと思う。一部資本家の利益のために、共有地が荒廃し、国民の安全が脅かされるのだから。そして価格競争の果てに起きることは、世界有数の安全な交通社会の崩壊ということだということを、みんな考えなければならないと思うのだけれど。

#今は運転手が被害者になる事件がほとんどだけれど、この先乗客が被害者になる事件のほうが圧倒的に多くなるってこと。例えば海外の連れ去り殺人事件のようなことが日々起きるってことも、特に女性は考えたほうが良い。

タクシー「格安運賃」、二審も認容 大阪高裁  :日本経済新聞

タクシー「格安運賃」
タクシー格安運賃認める決定 NHKニュース

4件のコメント

  • A子さん、どうも。
    どうなんでしょうか?
    仕事内容については、また明日か明後日にでも書いてみようかと思っています。
    難しいかもしれないし、そうでないかもしれないし、やってみなければ分からないのだろうし…。
    ああ、そういえばオペレーターなんて求人ありますね。

  • タクシーのことです少し聞きたいんですけど、配車センターの仕事ってどんなことをするんですか?難しいのでしょうか?

  • さといもさん、どうも。
    タクシー会社を選べないわけではないのですが、まあ混乱はするでしょうね。駅や空港以外の配車で利用される場合だと選べるので料金が安いほうに利用者が多くなるので、価格競争が起きるだろうし。
    結局、運転手の負担が多くなるかなあ、なんて考えています。手っ取り早くコストカットできるのは賃金ですし。
    会社は増車すればするだけ儲かる、まあ、コンビニと同じで加盟店の閉鎖はかなりの数あるけれど、企業としては増益が続いている、そうなるのだろうと、その歯止めが特措法での台数規制だったり、公定幅運賃だったりするんですが…。

  • こんにちは。
    駅や空港などで待機しているタクシーは基本客が選べない仕組みなのでそこで会社によって料金が違うと色々と混乱のもとになるので同一なのが適切だと思います。
    同じ公共的なものでもJRと名鉄、大手航空会社とLCCなどは料金が違いますがこちらは客が使いやすい側を選ぶので違っていても何ら問題はありません。
    安心感といえば旅先にて大手チェーンのホテルや飲食店を選ぶ方が居るのもそういった理由が少なからずあるはずです。実際これらの業界はぼったくりや不透明な会計などがあり「よそ者」だとわかると吹っかけてきたりなど悪質なところもありますし。
    大手チェーンは正直つまらないし味気ない部分も多いが価格だけは多少の相違はあれど概ね統一されているし安心なのは事実です。

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