規制緩和と値上げ~タクシー規制について(3)~
昨年の10月31日に豊橋市を含む東三河南部交通圏が準特定地域の指定を解除された時にボクたちがまっさきに思ったことと言えば、自由化されてMKタクシーなんて大資本が進出して価格競争(それも値下げ)が起きるかもしれない、それぐらいだった。既存のタクシー会社による増車は、運転手不足が解消されていない現状と、好景気による応募者の減少によって稼働率が下がるということを考えると、簡単に増車も増員も行われないだろうと思われるので、ボクたちの状況は指定解除ぐらいでは変化しないだろうと思っていた。
タクシー規制のことを何度か書いてきたのは、自由化によって共有地の悲劇が起きるし、それによって利用者の安全が損なわれる弊害のほうが大きいと思ったし、運賃が下がることはそのままボクたちの生活そのものに影響すると思っていたからだ。
自由化による価格競争は、どちらかというと値下げのほうに振れると思っていた。それはボクだけではなくて、ほとんどの人が、そしてこれまでも規制緩和や自由化は値下げという消費者利益に繋がっていたのだろうから、そう思っていたに違いない。国の施策も業界保護ということが前提だったのだから、規制して競争による各企業の疲弊を防止すると言うことだったに違いない。安全というコストまでもを削減することを恐れたのだろうし。
東海交通がタクシー運賃の値上げを国交省に申請した。「値上げ」だ。そのことを聞いた時にボクはピンとこなかった。だって指定解除された理由は、日車実車キロまたは日車営収が減少していないということだったのだから。この要件自体が間違っているとは思うのだけれど、とにかく「儲かっている」と国が判断したのだから。国が東三河南部交通圏のタクシー会社は「儲かっている」と判断したのに、さらに「儲ける」ことをすることは、非常識だろうし、不正義だそうし、公益的ではないように、普通は考える。
確かにボクたちドライバーにとって「値上げ」はウエルカムなのだけれど、ほらみたことかで規制緩和や自由化ってのは常に消費者に味方するわけじゃないんですよ、ということの裏打ちになったと思う。
東海交通の値上げの理由は「業務のIT化や電子マネー決済システム導入などの設備投資に加え、燃料のLPガスの高止まりが経営を圧迫している」というものだ。
「日車実車キロまたは日車営収が減少していない」のだけれど、その比較対象年である10年前とはずいぶんとタクシー車内の設備も変わってきて、いまではカーナビにGPSなんてものが当たり前になってずいぶんと進化している。ただ、ドライバーの生活は相変わらずのままで、年間所得は全産業平均の二分の一なんて金額だ。
今のところ東海交通一社だけの値上げみたいだけれど、他社が追随しなくても豊橋市内での車両数シェア60%の同社の強みで競争は起きないだろう。なぜならば圧倒的なシェアが顧客の選択の自由を阻むからだ。差別化なんて戦略を取ったとしても限定された供給量が需要を満たすことができない。結局、高くてもすぐに来る東海交通をたのむ、ということになるし、駅においても待たなくてはならないのなら今あるタクシーに乗る。
それでも、あえて値下げするタクシー会社が現れるとおもしろいのだけれど…。結局、他社も値上げする。運転手から不満の声も上がるだろうし。
規制緩和や自由ということは良いことばかりではない、ということなのだ。というか、もう旅客輸送ばかり考えていないで、タクシー業界はなにか根本的な変革期に来ているようにも思う。貨客混載なんてことがキーワードになるのかなあ、なんて考えている。ローソンと佐川急便のようなことを、タクシーでやれないのかなあ、なんて考えたりすると、なんだか未来はありそうな予感もするのだけれど…。
長くなっているので、申請料金については次回にでも…。