雇用調整助成金とタクシーの休業について

雇用調整助成金のコロナ対策での引き上げが第二次補正予算が参議院で可決成立した。「雇用調整助成金の抜本的拡充をはじめとする生活支援」として、1兆9835億円の予算が組み込まれている。この拡充、コロナ特例で、緊急対応を9月まで延長し、日額上限が8330円から15000円に引き上げられた。

雇用調整助成金を使って、もっと休業してください稼働台数をかなり削減しているようだが、削減したとしても、外出自粛と給付金付きでの休業要請を出している状況では、週末の繁華街はゴーストタウン化していて、相変わらずタクシーは並…
続きを読む
 kixxto.com
雇用調整助成金を使って、もっと休業してください

雇用調整助成金のコロナ対策

国から企業に支給される助成金の上限8330円は、年収300万円の賃金の従業員に対して休業手当の100%を支給した場合に相当する。それ以上になると企業の持ち出しになっていた。(下図参照)

雇用調整助成金と休業手当、賃金の関係表

8330円といえば、最低賃金で8時間労働したときの金額と同程度だ。(東京の1013円×8時間は超えているにしても)、その最賃から導き出されたのではないかと思える額と、月給にして25万円以下の労働者は最低賃金程度かそれ以下の休業手当、25万円以上は企業の持ち出しになるという、そのバランスの悪さに、国の雇用政策の不実さを感じていた。

8330円が15000円になったことで、平均賃金の100%を支払う企業が増える。平均賃金の100%を支払ったとしても、全員がその最賃レベルの8330円を支給されるわけではない。そして平均賃金によっては8330円以下の人もいるということは課題として残される。(平均賃金だからしかたないと言えば、それまでだが……。)

休業したい人たち

ただ、この休業と休業補償、労働者と経営者の感じ方の差は大きい。労働者の休業補償がより多くなっても、企業の売り上げが増えるわけではない。労働者は今回の「値上げ」が、休業へのインセンティブに寄っていく。働くより休業を歓迎するようになる。そしてモラルハザードが起きる。その結果、倒産する企業も増える。

タクシー業界においても、「農業との兼業乗務員は、田植えと重なったため歓迎している」という報告もある。(「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム」での井原雄人早稲田大学客員准教授)

兼業乗務員だけではなくて、年金受給者や本業ではない乗務員も歓迎している。また、感染したくないために休業したい人もいる。

タクシーの賃金制度

さらに、タクシー業界においては歩合給という賃金制度が休業を助長する。ボクの周囲でも、緊急事態宣言中は出勤しても稼げない、新型コロナに感染したくないということから、休業を望む声も多かった。そして今も多い。休業手当の約2倍の営業収入(タクシー運賃・料金)を稼ぐということは、今でも困難だ。(営業収入の約55%〜45%が歩合給として支払われるので)

だから休業したほうが得になる。上述の兼業乗務員や年金受給者は、さらにその思いが強くなる。そうでない乗務員も「働かなくても給料が出る」のだから、休業したくなる。損得だけではなく感染リスクもあるのだから。

雇用調整助成金の本来の目的が、雇用を守るということならば、事業の存続が前提だ。倒産しては元も子もない。失業までの失業調整助成金になってしまう。

雇用調整助成金とタクシー業界

このように雇用調整助成金に対する運転者と経営者の温度差が拡大している理由は、雇用調整助成金に対する考え方なのだ。休業手当が増えれば増えるほど、休業を望む従業員が増えるほど、企業は衰弱してゆく。持続化給付金ぐらいでは、自治体独自の給付金ぐらいでは、立ち行かかなくなる。

市場が回復しなければ、そしてこのまま休業が減らなければ、最後には倒産する。もう倒産した中小零細タクシー事業者もある。

新型コロナ禍におけるタクシーの供給制限は、単に需要が減っただけではない。休業補償による労働者と経営者の損得計算による稼働自粛にあって、それは特に地方で顕在化している。

その影響は、地方の交通空白地の移動をさらに困難なものにした。そして一斉休業や出勤調整、夜間の休業という公共交通として機能を失くしてしまった。

公共交通と助成金

皮肉なことに事業を継続させるための助成金が、事業の本来の目的や本来の意義を喪失させている。せっかくエッセンシャルワーカーという称号をもらいながら、社会的使命である公共交通というものを自らの手で毀損している。そのことにボクたち自身が、タクシードライバー自身が気づいて、モラルハザードをおこさないようにしなければ、なんて自戒している。

「くらしの足」を守るために、そして雇用調整助成金の拡充を無駄にしないために、企業に対しての補助金を増やし倒産、廃業しない補給をお願いしたい。

NHKニューススクリーンショット
新型コロナ対策の2次補正予算が成立 事業者の賃料負担軽減など | NHKニュース

公共交通マーケテイング研究会

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA