タクシーの死(2)

ロイヤルリムジン社の600人一斉解雇が、良くも悪くもこのコロナ禍におけるタクシー業界の経営と雇用、乗務員の思考までもを慎重にさせたのは確かだろう。

タクシーの死(1)

5月支給の賃金から、雇用調整助成金による休業手当が支払われている。しかし助成要件や助成率などの変更が何度かあり、情報が錯綜したため企業の申請が慎重になり、作業の猥雑さも手伝って、休業させるタイミングが遅くなったところも多かったようだ。

国からの支給が遅いため、申請せずにそのまま倒産になった企業もあるはずだ。

タクシー業界の宿痾

おおよそタクシー業界の宿唖の病巣は「歩合給」にある。

働き方改革で同一労働同一賃金が言われる中、同一労働でありながら、そして同一地域でありながら、賃金が違うということについて誰も何も言わない。会社によって違うその賃金制度は、謎が多い。もらっている本人たちにも分からないところが多い。

国際自動車裁判1における残業代問題の難解な歩合給計算、待機時間は労働時間なのかと争われた中央タクシー事件2や名鉄四日市タクシー事件3などの曖昧な労務管理は、業界の謎の部分が露出し、特殊性が顕現した例だと言える。そういった原因は、制度そのものの出発点が性悪説を基に作られているからだ。その解釈は拡大され、それを取り締まるルールも拡大されていったことによるものだろうと思う。

待機時間が労働時間かと言う問題を性悪説で考えると「仕事がしたくなくてさぼっていても労働時間になるんだから、運転手はさぼる」、だから「待機時間なんてのものは30分だけ労働時間であとは休憩時間にする」ということになる。

ルールと性悪説

過労死問題で言われていた、労働時間の上限や、休息時間(インターバル)も、タクシー業界にはすでに存在していて、それも性悪説に基づいた待機時間や残業時間といったルール関係しながら、労働者を取締るものとして存在する。

それに、70%〜75%が原価構成比率における人件費という労働集約型産業ということも、賃金を複雑怪奇にした。

労働集約型で歩合給ということは、コンビニエンスストアと同じだ。出店数により本部は利益を確保しようとする。1稼動当たりの営業収入が減ろうとも、稼動数と稼働率を上げて全体の営業収入を増加させる。ドライバーの賃金は営業収入とほぼ比例する歩合給なので、常に70%〜75%になる。簡単な仕組みだ。そしてこの簡単な仕組みが共有地の悲劇をもたらした。

一斉解雇という方法

最終的な経費削減方法は、ロイヤルリムジン社が行った「一斉解雇」だ。労働者を働かせなず、経費の大部分である人件費と車両費を最小限に抑えることで、会社を存続させる。

ロイヤルリムジン社だけでなくとも、そういった発想に行き着く。会社の存続を考えなければ「身売り」をする。今回のコロナ禍、タクシー業界が混乱し自ら「タクシーの死」を選んだのも、その労働集約型産業が原因で、経費のほとんどが人件費と車両費だからだ。働かせなければ損失も少ない。そして今回は雇用調整助成金という公的支援があったのだから、停めたほうが停めないよりは得だと計算したはずだ。

稼動させても賃金分も稼げなければ休業させた方が得になる。それは会社もドライバーも同じで、多くの会社がいかに休業数を増やすかということで、損失を少なくしようとした。だから供給制限をし、公共交通でも唯一無二の運行制度である24時間営業を止めた。公共を捨てた。そしてモラルハザードが起きた。

会社の倒産よりも雇用

分らなくもない。会社が倒産しては元も子もない。大多数の会社は雇用を守るためだったのだろうし。それにタクシー業界を救済すらしなかった政府に対して、公共交通という義理立てをする必要があるのかと考える経営者も多かったはずだ。利用者にも「文句があるのなら安部首相に言ってくれ」なんてことにもなる。

公共を考えれば稼働させなければならない。経営を考えれば休業させたほうが良い(あるいは一斉解雇しての会社の休業)。その選択を迫られたときに、公共を捨てて経営を優先させる。「タクシーの死」を選択せざるをえなかった。

まだに労働者性悪説に基づいた歩合給という古めかしい賃金制度で搾取され続けられながら、社会的地位も低くいままエッセンシャルワーカーなんて称号だけは与えられている、そんな哀れな運命を背負わされている、そのことが問題なのだろうと思う。

いや、会社が悪いということではなくて、国も悪い。そして我々タクシー乗務員にも問題がある。古めかしい制度に呪縛されている。すでにタクシーは死んでいる。(つづく)

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コロナ禍の豊橋 広小路通り 金曜日22時 2020年4月タクシーの死

2020年4月24日金曜日22時27分 豊橋市広小路通

  1. 残業分歩合減、運転手と和解金4億円で合意 国際自動車:朝日新聞デジタル
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