ロイヤルリムジン社の差止訴訟について
タクシー運賃改定による運賃値上げが、営業の自由や必要性・合理性がないと、訴訟を起こした、東京のロイヤルリムジン差止訴訟について考えてみます。
タクシー運賃値上げ強制に反対する仮の差止めの申立て・差止訴訟の提起について
関東運輸局長より、東京特別区・武三交通圏におけるタクシー運賃(公定幅運賃)を、11月14日から約14%値上げする公示がされました。
これに対し、ロイヤルリムジン社及びジャパンプレミアム東京社は、この様な値上げは違法性があると考え、11月11日に従来の運賃と同額の運賃届出が関東運輸局に対して行い、受理をされ、現在も従来と同様の運賃で営業を継続しております。
しかし旧公定幅運賃の継続は、現在形式的に見れば法律に違反している状況になっていることから、このままでは、両社が運賃変更命令や車両停止処分等の不利益処分を受けるおそれがあります。
ついては今回の公示が、①今回の公定幅運賃の改定は、旧公定幅運賃で適正に営業していたタクシー事業者の法的地位(営業の自由)を侵害している。②本件公示による公定幅運賃には必要性・合理性がなく、設定幅が狭すぎ、コロナ禍から回復してきた近時の日車営収の増大等の事情も考慮していないことなどから、関東運輸局長の裁量権を逸脱濫用した違法性があると考え、11月29日に運賃変更命令を含む一切の不利益処分に対する仮の差止めの申立て及び差止訴訟の提起を行いましたのでお知らせ致します。
ロイヤルリムジン社が訴えていた仮の差止めの申立て及び差止訴訟は、差止が東京地裁で認められました。
タクシー運賃、2社への値上げ「強制」を一時差し止め 東京地裁
関東運輸局が2022年11月に東京23区などのタクシー運賃を値上げしたことを巡り、値上げに従っていないタクシー会社「ロイヤルリムジン」(東京都江東区)と「ジャパンプレミアム東京」(中央区)の2社が、国に値上げを強制しないよう求めた行政訴訟で、東京地裁は2月28日付で2社への値上げの「強制」を一時的に差し止める決定を出した。鎌野真敬裁判長は、国側はタクシーの需給状況などを十分に考慮せずに値上げを決めたと指摘し、同局長の判断について「裁量権の逸脱・乱用の違法があった」と判断した。
これまでの流れを概観してみます
昨年11月14日に東京都特別区・武三交通圏のタクシー運賃の14.24%の値上げが行われました。タクシー運賃改定の手順は次の通りです。
- 運賃改定を行う地区の法人タクシー事業者の申請
- 最初の申請から3か月で申請事業者の申請率が台数比70%に達したら運賃改定の手続き開始
- 標準能率事業者を選定し査定を行う
- 運賃改定要否の判定
- 原価掲載員事業者の選定、査定
- 運賃値上げ実施
たとえロイヤルリムジン社が運賃改定に反対でも値上げが行われます。そして、
公定幅運賃というタクシー運賃
上記改定手続きを経て決まる運賃には、上限と下限を決めた幅があります。その範囲内で運賃を申請することになります。
旧運賃
- 上限 420円(加算80円 233メートル)
- 下限 390円(加算80円 251メートル)
新運賃
- 上限 500円(加算100円 255メートル)
- 下限 470円(加算100円 271メートル)
この価格帯の中で(自由)競争は行われる、ということになります。
しかし現実には、上限で設定します。阿吽の呼吸と言ったものでしょうか、価格カルテルが行われているわけではありません。
ロイヤルリムジン社の値上げをしない理由
今回、ロイヤルリムジン社は、値上げを見送る理由として次の4点をあげていました。
- 低燃費車両の導入により燃料費が下がっている。
- 車両の導入にあたって東京都や国から補助金を受給している。(以上2点は燃料高騰に対する対応という理由)
- 1台当り1日6万を超えるようなかつて無い高営収になっている。(大幅な供給不足を生じている)
- 配車アプリ「GO」では、高額な配車手数料をお客様から取る方針。
そして「この値上げの嵐のなかで経理上、顧客に寄せるところまでやり切る」と説いています。
このような行動は、消費者からすれば美談にも写ります。顧客の側に立たず何の経営努力もせず値上げをする」ことが正義なのか、そうも思います。
ということで、運賃の変更をせず、旧運賃で営業を続けていました。
運賃改定をしないとどうなるのか
従わない場合、運賃変更命令が下され、最終的に事業の認可が取り消されます。値上げ申請を行わず、収益率の高い「儲かってしかたない」会社も、値上げを行わなければなりません。
差止訴訟
今回の裁判は、このまま運賃改定を行わず、旧運賃のままで営業を続けた場合に起きる運賃変更命令と事業認可取消の差止め(処分の停止)を求めたものです。そしてそれが認められたということで、処分なしで、旧運賃のまま事業を継続できるということです。
MKの場合
公定幅運賃の制度が始まったのは2014年4月です。その年の5月に大阪地裁で、翌2015年に大阪高裁で、また2016年には福岡地裁で、運賃変更命令の仮差止め決定が出ました。
恐らくですが、出せば差止めされます。今回のように「裁量権の範囲の逸脱・乱用が一応認められる」ということになるのでしょう。ただし、
儲かるのに反対して裁判を起こす理由がないということなのでしょう。そして同調圧力もかかります。
金子社長のコメント
東京につられ、全国で運賃が値上がりしている。地方の移動弱者のためにも大幅な引き上げがないことを願う
これは少しピンボケで、地方こそ値上げが必要なのです。需要もなく供給もない、移動弱者が切り捨てられてゆく地方の移動問題にはタクシー会社の存続は必要不可欠なのです。
だって、コミュニティバスもデマンドタクシーも、自家用有償もタクシー会社がやってるんです。
幅運賃と幅経営
気持ちはわかるんです。タクシー事業はいつも運転手と利用者を置き去りにしながら語られてきました。運賃も同じです。そして運賃に密着している運転手の賃金と利用者のサービスも同じです。
運賃だけ上限を取りながら、運転手の労働条件や労働環境、利用者へのサービスには幅がある。幅運賃ではなく、幅経営なのです。同一地区同一賃金なのに、同一地区格差賃金なのです。
そういったことも変な話です。逆に、収支状況に沿った幅運賃の設定ということならば、運賃は違っていいと思うのですが?
ボクも、事業者がなんの経営努力もなく、儲からなくなったから値上げ、というのは公共交通として国民を欺くことではないのでしょうか?
最後に
今回の運賃値上げは運転手の労働条件改善がひとつの目的です。タクシー運転手の労働条件が改善されると、結局、運転手不足も改善され、十分に供給される、ということです。(そんなに単純ではありませんが、とりあえず賃金です)
とすると、ロイヤルリムジン社の運転手の労働条件や職場環境は、旧運賃での営業で、周囲の同業他社と同程度ということになるのでしょう。いえ、そうでないと、社長の独りよがりになってしまいます。