ロイヤルリムジングループのタクシー運賃値上げ見送りについて考えたこと
ロイヤルリムジングループが東京23区と武蔵野市、三鷹市で行われたタクシー運賃値上げ見送りの意思を表明しました。そして日本労働評議会が「道理ある進歩的方針に拍手」と所信表明をしました。
このことについて考えてみました。
次のサイトは日本労働評議会の「労評中央本部所信」です。
そして、ロイヤルリムジングループ金子社長の「タクシー運賃値上げ見送りのお知らせ」です。
http://www.diamondblog.jp/official/kensaku_kaneko/2022/11/11/ロイヤリムジン、タクシー運賃値上げしません‼/
では、値上げを見送る理由を概観してみます。
まず、値上げを見送る4つの理由を以下のように述べています。
- 低燃費車両の導入により燃料費が下がっている。
- 車両の導入にあたって東京都や国から補助金を受給している。(以上2点は燃料高騰に対する対応という理由)
- 1台当り1日6万を超えるようなかつて無い高営収になっている。(大幅な供給不足を生じている)
- 配車アプリ「GO」では、高額な配車手数料をお客様から取る方針。
1、2の燃料高騰に対する対応という理由がない
というのはその通りだと思います。加えて「燃料高騰相当分」の支援を現在も継続して受けています。
タクシー事業に対する燃料価格激変緩和対策事業(第4期)を実施します 国土交通省
さらに考えられるのは、燃料価格が下がったら値下げするのか、という疑問も残ります。この件については、運賃自体を値上げするよりも燃料サーチャージ制など運賃構造を見直すことによって対応できるのではないのでしょうか。
3の供給不足について
確かに、タクシー事業者の営業収入の伸び悩みは供給不足が原因と考えられます。
運賃改定直前の2022年10月の「東京のタクシー輸送実績・速報」(東京交通新聞)のデータによると、実働1日1車ベースは、51,353円で2019年比2.1%上昇しています。
しかし、全体では
- 実働率 −11.1%
- 輸送回数 −21.7%
- 営業収入 −18.2%
になっていて、実働率のマイナスが事業者の営業収入を押し下げていると考えることができます。
事業者の営業収入=日車営収×稼動台数です。
つまり、稼働台数が2019年並になれば営業収入も増加します。
東京のタクシー実績 速報10月分 東京交通新聞
4の配車アプリでの高額な配車手数料について
迎車回送料金(300円~500円)に加え優先配車パス(980円)や優先配車機能(月額3,480円のプレミアム昨日に付加)を新設しています。
このような優先権を設け利用者の選択を行うことは、料金問題以前に公共交通として適切かとういう疑問が残ります。
値上げ=賃上げではない
そして「改定率14.24%のうち8%を賃金アップ等のタクシー乗務員の労働条件改善に必要な費用増」としています。
しかし、一部の事業者では歩率を下げる、足切額を上げるなどの操作が行われています。
また、タクシー運転手の賃金は歩合給ですので、生産(営業収入)は運転手の生産性に左右されます。だから、全ての乗務員が8%の賃上げになるとは言えません。
企業努力
結局、新型コロナで離職者が増え、人手不足になっているために収益が悪化している。だから、運賃値上げで対応したい。という見方も出来るわけです。
そのことが「企業努力もしないで」と言われる所以です。
そのうえで「インフレ便乗をしない」金子社長の「値上げ見送り」いう表明に対して「道理ある進歩的方針に拍手」となるのです。
そして「この値上げの嵐のなかで経理上、顧客に寄せるところまでやり切」ることが国民のためであり、正い企業理念なのでしょう。
運賃値上げ見送りの意味
「顧客の側に立たず何の経営努力もせず値上げをする」ことで、企業は簡単に収益を改善できるでしょうが、結局は「国民大衆の生活は相対的に貧困化、困窮化してゆく」ことになります。そのことへの警鐘の意味も含まれています。
それらを含めて「企業経営者として進歩的であり良心的である」金子社長の「運賃値上げ見送り」に拍手なのです。
たしかに私たちの生活が貧困化し困窮化したら、贅沢な乗り物であるタクシーの利用が激減するでしょう。そうなると、歩合給である私たちタクシー運転手の賃金も同じように減ります。
収支が悪化したら値上げで対応、などと安易で傲慢で欺瞞に満ちた経営を行うのではなく、顧客や乗務員に寄せた経営を行うことこそが、タクシー経営に求められているのだろうと思います。
賃上げと言われると、なかなか反対もできない。しかし、その「労働者の賃上げ」に隠され、内包されている、その正体を考えさせられる所信表明でした。