年休の値段
有給休暇の年5日取得義務化になってから、「うちの会社は年休がない」「年休を1日も取れなかった」なんてことはなくなったと思います。
しかし、その年休金額、安くないですか?会社休んでお金もらえるなんてありがたい、なんて考えてたら、「嘘〜」なんて金額ではありませんか?
年次有給休暇(年休)とは
年次有給休暇(ねんじゆうきゅうきゅうか)とは、労働者の休暇日のうち、使用者から賃金が支払われる休暇日のことである。「年次」とある通り、1年ごとに毎年一定の日数が与えられる。有給休暇、年次休暇、年休、有休などといわれることが多い。
毎年一定の日数とは、「年次有給休暇のポイント – 厚生労働省」1では次のようになっています。
週30時間、週5日以上または年間217日の労働時間・日数では、勤務年数が6か月で最低10日間の年休が付きます。(最低とは、事業者はそれ以上付与しても良いということです。そうしたことも労働条件改善になります。)
タクシー運転手と年休
出来高制歩合給のタクシー運転手にとって、年休取得は悩ましい問題です。なぜならば、出来高制なので年休取得日は出来高0円になることがあるからです。
しかし、出来高給が0円になったとしても年休金額が多く、給料に影響しなければ問題がありません。ところが、付与方法や金額の算出方法に「不利益取扱い」があるのではないでしょうか。
年休1日につき、5,000円や6,000円という事業者もあリます。その金額では最賃割れしています。そして金額が一律です。さらに、付与方法によっては月例給に影響を及ぼします。賞与にもです。その結果、社会保険にも影響します。
タクシー運転手の年休制度自体不透明です。そのうえ、5日間の取得が義務付けが、ボクたちの不利益になっているのではありませんか?
年休問題の整理
タクシー事業の年休には以下の3点の問題(瑕疵)が存在します。
- 年休金額
- 算出方法
- 付与方法
次に、その問題点と解決方法を考えてみます。
年休金額
「1日5,000円」、一律同一金額の事業者も多いようです(ボクの勤務先もそうです)。しかし、この金額よりも高い賃金になる運転手にとっては不利益になります。ただ、タクシー事業の長年の「知恵の結晶」で、違法ではないのでしょう。
この一律同一の低金額という仕組みは、運転手の基本給の安さが可能にしています。基本給は、例えば、基本給12万円台の事業者も存在するように、タクシー運転手の基本給は安く設定されています。(ボクの勤め先も同じぐらい安いです)年休1日が5,000円や6,000円という金額は、この12万円を基に算出しています。
次にその算出方法を考えてみます。
算出方法
年休額の算出方法は次の方法があります。2
- 通常の賃金を支払う
- 平均賃金を支払う
- 健康保険法の標準報酬日額
年休金額の項で述べましたが、5,000円や6,000円は上記3方法のどれでしょう。一律ということから1の「通常の賃金を支払う」でしょう。では、なぜ通常の賃金が5,000円なのでしょう。
例:基本給 120,000円 月平均労働日数22日
120,000円 / 22日 = 5,455円
このように、5,455円になります。これがタクシー事業者が基本給を安く抑えている理由の一つです。
としても、賃金はみんな同じですか?出来高制歩合給のため、一人一人違うはずです。そしてその差は大きいでしょう。ときとして出来高の多い人は不公平と感じることでしょう。そのことが労働意欲の喪失にもつながりかねません。
となると、2の平均賃金か、3の標準報酬日額を支払うほうが公平公正ではないですか?
付与方法
出来高制歩合給ですから、年休も運行収入に含まめないと運転手にとって不利益になります。なぜならば、足切りがあるからです。その足切りというノルマを基準に賃金が支払われるからです。その賃金は営業収入に歩率(40〜60%程度)を乗じた金額になるからです。
月例給だけではありません。この出来高を基準に支払われるもの全てに影響します。
例えば賞与もです。運行収入の総額に対しての歩率を支払う仕組みになっています。したがって、年休は運行収入に含めなければなりません。
また、運行収入に含めるとしても、歩合給なので5,000円では不当な金額になります。歩率を除した金額を運行収入としなければなりません。
例:年休額5,000 歩率50%
5,000円 / 50% = 10,000円
10,000円を運行収入分として運転手に充てることになります。
このような方法を仮想営収と言います。事故や車両故障の時間損失の補償としても仮想営収を充てます。例えば、会社都合での休業時には時間あたり3,000円の仮想営収を補償します。これが売上に計上されるので、結果的には3,000円×歩率が収入になります。(3,000円×50%=1,500円)
このように、年休金額は仮想営収として運行収入に計上されなければ運転手の不利益になります。
年休取得を嫌がる経営者
これまで述べてきたように、タクシー事業は年休制度も不透明なのです。
売上が100万円の人も、30万円の人も年休額が同じという事業者が多いのにも驚かされます。
経営者の知恵の結晶
結局、年休取得が不利益になる=年休を取らせたくない、という構造なのです。
年休額の最賃割れ
そもそも5,000円は、年休額として安すぎるんです。年休額で最賃割れしていること自体、労働者の不利益なのです。売上に対してはノルマを強い、その基準を達成しなければ基本給(最低賃金)になるような賃金制度で、年休は5,000円です。せめて足切り額 / 平均勤務日数にしないと整合制が取れないのではないのでしょうか。(例:60万 / 22日 = 27,273円)
あるいは、 平均賃金を支払う、標準報酬日額にしなければ不当です。現在の制度では年休を取ればとるほど賃金が安くなります。そのことが年休取得抑止へと働きます。
まとめとして
年休買取制度も存在しています。これは失効分を一枚を5,000円より安い半額程度で買い取る制度です。この制度にも年休取得を抑制する意図を感じます。
安い年休額と年休買取で年休取得を抑止する制度が確立しているんです。
ただ、運転手に有利なこともあるんです。例えば、安い年休を使って拘束時間の調整をする、ということです。月に299時間3(車庫待ちなどの業務形態については322時間)の上限規制があります。上限規制があるほど、長時間労働になるのがタクシー運転手です。
この時間調整のために年休という勤務時間0時間を作ります。その0時間の勤務時間に5,000円もらうのだから、儲けなのかもしれません。さらに、買取もある。
でもそれは、そう思い込んでいるだけなのです。時間調整に年休を使う人たちは稼ぐ人たちなのです。そういった人たちこそ、正当な年休額を請求した方がいいのです。来年の春闘では、正しい年休金額を勝ち取ってください。そして正しい年休の在り方へ修正してください。