松尾峠遍路道の試練(28日目の2)

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56号線宇和島市津島町、全長1710メートルの松尾トンネルの上を通るのが松尾峠遍路道だ。トンネル入り口を左折、上ってすぐのところにへんろさん休憩所がある。「てん屋」という名前がつけられたコンクリート造りの立派な小屋だ。13時、その休憩所に着いた。少しだけ休憩。中に入る。泊まるのにはもってこいの場所。中には傷絆創膏やトイレットペーパーなんかが置いていて、「どうぞお使いになって下さい」なんて書かれていた。

雑誌や漫画なんかもあって、その中に少し遍路には不向きな雑誌が開いたまま置いてあった。ヌード写真集(というかえろい系の)で、その写真の少女がこちらを悩ましく見つめていたのだ。「そんなに見つめられても」なんて言いながら、やっぱりペラペラとページをめくってみる。少しドキドキした。いやその写真にというよりも、もしも誰かが入ってきて、かなりHな写真を見ている「本当のお遍路さんよねえ」と言われるような男を目撃されたら。

へんろ小屋てんやに置いていた少しエッチな雑誌と「トレッキング・ザ・空海」のパンフレット
(松尾峠遍路道へんろ小屋てん屋にて 煩悩)

「あ、こんにちは」と言ったあとに、何を言おうか、と考え始めた。それよりもとっとと出て行こうと思った。そして見開きにしたまま、外に出た。外に出て「あ、写真を一枚」と、また中に入って3枚ほど写した。

「きっとあれもお接待なんだろう」と思った。あの小屋に泊まるだろう遍路は90%以上の確立で男だろう。そしてここまでの道のり、すでに1ヵ月、いろいろな欲から遠ざかっている。歩き遍路、そして野宿遍路は欲を捨てていると言っても過言ではないだろう。そこに現れた権化かもしれない。あるいは試されているのかもしれない。その目的のために、そこにいつも置かれているのではないかと思った。

中には使用する人もいるだろうし、それを持ち去る人もいるだろう。それはそれで、また罪を考える機会になるのだろうから…なんて考えていた。そして山道を登っていった。不思議な光景だった。壁に書かれた絵とともにインドの「カーマ・スートラ」を思い出していた。色即是色、空即是空。

13時30分、頂上のへんろ小屋「わん屋」に着く。テントや寝袋を広げて干した。池の畔に幕営してそのまま収納したので湿気ていた。晴れ間が見えていたのだけれど、そうしている間にどんどん曇ってきた。ひとり通り過ぎた。「こんにちは」とだけ挨拶を交わした。13時50分出発。天気が心配になってきた。そのへんろ小屋にあった「宇和島ユースホステルお遍路さんプラン2500円」というパンフレットを頂いた。雨が必ず降るだろうと思った。そう思うとねぐら探しが難しくなる。2500円じゃなくても5000円でも泊まりたかった。

欲望はそこに具現した。

へんろ小屋てん屋の外装 鮮やかな仏と遍路が描かれていました
(へんろ小屋てん屋の外壁画 宇宙やなあ)

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