延光寺(26日目の4)

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延光寺へ向かっていた。松田川沿いの道を歩き新宿毛大橋を渡る。四十番札所観自在寺へは打ち戻って「新」ではない宿毛大橋を渡り宿毛市内を56号線経由か松尾峠経由で向かうことになる。夕方に宿毛市内、どこに泊まろうかと考えていた。膝はバンテリンが効いているのかサポーターが良かったのか、あるいは陽気で暖められたからか、痛みがやわらいでいる気がした。

レストラン鶴亀の手前で二人組のお遍路が来るのが見えた。すぐに分かった。室戸へ向かう10月28日に東洋大師明徳寺で会った初老の男性二人だった。あれから2週間が過ぎていた。ボクは3日停滞した。彼らもまた何かハプニングがあったのだろうか、と思った。

「こんにちは、おひさしぶりです」と声が届く距離になったらたまらず言った。「ああ、えっと、室戸の」「ええ、お久しぶりです。あれから無事にまわられていますか」と言った。

「まあ、ゆっくりだけれど、なんとかねえ」
「そうですか。ボクは膝を痛めて大方で停滞していたんですよ。もうずいぶん先に行かれていると思っていましたから、こうしてお会いできて、驚いています」
「わたしたちもね、雨の日はあまり動かなかったり。それにちょっと疲れてね」と応えてくれた。話をするのはいつも決まっていた。二人の役割は決まっているのだろうと思った。都会、何十年も東京の夜の世界を渡ってきた人たち、というのがボクの印象だった。例えば歌舞伎町のことなら隅から隅まで知っているというような、そんな印象を受けた。友人、というよりも、恋人同士、そんなことを考えていた。

「今日は宿毛泊まりですか」
「ええ、そう。宿にチェックインして、荷物置いてお参りしたから、手ぶらでね。あなたは」
「ボクは、まだ決めてなくて。たぶん宿毛市内になると思いますけど」
なんて話をして「また」と言って別れた。そしてボクは延光寺を目指した。おじさんたちは宿毛市内へ向かった。

再会した遍路さん2人の後ろ姿
(同行三人、人はひとりでは生きられない)

そしてしばらくすると、魔法の杖を持つ青年に再会した。「早いね」と言って彼を見ると荷物を持っていなかったので「荷物は?」と訊くと「宿毛駅のコインロッカーに入れてきました。どうせ戻ると思ったので、ちょっと寄り道して」と言った。

 

「ああ、なるほどね。そこまで考えなかったよ。オレは100均に寄ったけれど」
「そうですか。今からだともう1時間ほどですよ。泊まりは宿毛市内ですか?」
「どうなるかなあ、君は?」
「ボクは、松尾峠を目指して松尾大師の大師堂にと思っているんです。夜景が綺麗だと聞いたもんで」
「なるほど、オレはそこまでは無理かなあ。戻って17時に宿毛市内だもんね」
「そうですね。この時間、ボクでギリギリって感じですもんね」
「そうだね。ま、またそのへんに寝るよ」
「そうですか。それじゃあ、お気をつけて」
と別れた。それ以来会うことはなかった。

それから39番延光寺には15時に着いた。15時40分発。山門近くにある民宿に泊まろうかと思った。しかしそのまま宿毛市内を目指した。

延光寺の座禅仏は少し口を開き、深い皺を刻み、いまにも何かを語りかけようとしていた
(延光寺の座禅仏は少し口を開き、深い皺を刻み、いまにも何かを語りかけようとしていた)

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