同郷二人(24日目の4)

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その男性と会ったのは国道321号線落窪から下益野への途中、坂道を登りきったあたりの道路わきだった。ボクはその坂を登ったところでかなり疲れていた。もう12時間近く行動していたし、夕方が近くなるとどうしても歩行が早くなる癖があったので、夕方の長い登り坂はボクの何もかもに止めを刺してしまっていた。膝も痛んでいた。

土佐清水市中浜にて 遠く沖ノ島が見える

(遠く沖ノ島)

その道路わきの奥に広がっている空き地にテントを張ろうかとも考えていた。水はなかったのだけれど、とりあえず食料はあった。少し休んでいると冷えてきたのでザックからフリースを取り出して着ている時に坂道を登ってきたのがそのおじさんだった。

 

「こんにちは」と言った。
「こんにちは」

ふつうならそこで終わるというがほとんどだった。相手は自転車遍路だったし、ねぐらを決めなければならない時間が押し迫っていた。野宿遍路たちにとって一番忙しい時間帯だった。ねぐらにたどり着いたていたとしても、食事やら洗濯やらで忙しいのは変わりない。

「どこまでですか」とボクが聞いた。
「その先の道の駅か、その先のキャンプ場に」
「じゃあ、もう少しですね。自転車だと20分とかですか?」
と話始めたら、おじさんも本格的に休憩体制になって、しばらく話をした。そして「愛知から来たんですよ」と言ったので「ああ、ボクもちょっと前まで住んでましたよ」と地元の話をした。そうなると、他人でもない感じになってくる。

「じゃあ、ボクも道の駅に行きますから」
「ああ、先に行ってるよ」と、その場は別れた。

同郷二人。
同郷ではないけれど、地理的に分かるところの人と会うのは懐かしいし、落ち着く。後に石鎚駅で同郷の女の子に会うのだけれど、その子は言葉で分かった。「九州だよね」「はい」「あのあたりだよね」「ええ、分かりますか」なんてこともあった。

16時を過ぎていた。歩き始めた。途中、向こうからやってきたお姉さんに大きいふかし芋を頂いた。「お遍路さん」とすれ違いざまに言われて「これ」なんて差し出された。綺麗な人だと、ちょっと驚く。というか、すれ違いに言われると「ドッキ」っとする。

あと3キロ。明るいうちに着きたいと思った。少しまた急いだ。寒くなって着たフリースが邪魔になってきた。

かまどや近くの公園には桜が咲いていた

(土佐清水市、かまどや近くの公園には桜が咲いていた。休憩)

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