規制緩和とタクシーについて

規制緩和しタクシーが増えると、運賃が安くなり、交通空白地が解消され、深夜早朝・災害時にも適正な供給量が確保され、国民の利便性が向上するのでしょうか?

今回は、タクシー規制の変遷を概観し、2002年の規制緩和と2009年と2014年に施行されたタクシーに関する法律について考えてみます。

「実はタクシー台数は減ったのではなく、減らしたのだ」

確かに、2009年のタクシー適正化・活性化法の施行は減車も目的にしていました。理由は2002年の小泉、竹中「聖域なき構造改革」の規制緩和で起きた「共有地の悲劇」からの脱出のために「減らす」必要があったのです。

共有地の悲劇

2002年(平成14年)の規制緩和は需給規制を廃止し供給を自由化するものでした。

「聖域なき」規制緩和は一気に供給過多を引き起こしました。平成13年度末より平成18年度末で、事業者数7,046社が12,254社に、車両数21万2,916台が22万8,254台に増加しました。そしてこの諸問題を象徴するグラフがTwitterでも使用されている図1全自交総連「規制強化と現社の実現 規制緩和失敗の証明と自交総連のたたかい」のグラフです。

全国タクシー台数の推移 2001年〜 規制緩和とタクシー
図1 全国のタクシー台数の推移 1

タクシー車両の大幅な増加は、利用者にとっては待ち時間の短縮、多様な運賃・サービスの導入による利便性の向上など良い点もありました。しかし、

  1. 経営の悪化
  2. 運転者の賃金・労働条件の著しい悪化
  3. タクシーの安全性や利便性の低下

といった「タクシー事業を巡る諸問題」が起こりました。つまり市場の失敗、共有地の悲劇といわれることが起きたのです。

木下さんが使用している図1は車両数だけのものです。「諸問題」をこのグラフに重ねてみます。

ハイヤー・タクシーの日車営収等の推移 規制緩和とタクシー

図2 ハイヤー・タクシーの日車営収等の推移 2のデータを使用し作成

特定特別監視地域等において試行的に実施する増車抑制対策等の措置(2007年11月)

特定特別監視地域等において試行的に実施する増車抑制対策等の措置について

2009年の道路運送法改正により需給調整規制がなくなりました。しかし、際限のない参入や増車を防ぐために、供給過剰の兆候にある地域を指定して増車規制を行いました。それが「緊急調整地域」制度です。

そのうえで、「緊急調整地域に指定される事態を未然に防ぐために」3 「特別監視地域」を指定し増車規制を行いました。

さらに、特特地域「特定特別監査地域」を指定することにより新規参入や増車による「諸問題」の発生を抑止する制度が導入されました。

「特定特別監視地域」は、特別監視地域のうち、供給拡大により運転者の労働条件の悪 化を招く懸念が特に大きな地域(概ね人口30万人以上の都市を含む営業区域)とされ、運 転者の労働条件の悪化や不適切な事業運営の下で行われる供給の拡大について、事業者の 慎重な判断を促すための試行的措置として平成19年11月20日より講じられている。同地域 では、新規参入については、最低車両台数の引上げ、社会保険等の加入状況調査、労働条 件等に関する計画の提出等が義務付けられ、既存事業者の増車については、60日前の事前 届出、増車前監査の実施とそれに基づく増車見合せ勧告、労働条件等に関する計画の提出 や計画と乖離した場合の減車勧告等が導入されている。

特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法案のポイント

タクシー適正化・活性化法(2009年10月)平成21年

2002年の自由化がもたらした「タクシー事業を巡る諸問題」は、供給過剰、その傾向にある地域を指定し、新規参入や増車を規制しても解決できませんでした。そしてリーマンショックです。タクシー業界はどん底でした。

そのどん底からを業界を救済するために、2009年にタクシー適正化・活性化法が施行されました。「供給過剰進行地域における対策」に「特定地域」を国が指定し、需給調整を行うことにしました。つまり2002年の緩和の再規制です。

減車しかなかったんです

「『タクシー事業を巡る諸問題』について根本的な解決に至らなかったため、供給抑制(減車)の観点から新たな対策が講じられた4」のが、タクシー適正化・活性化法だったのです。

ですから、確かに「タクシー台数は減ったのではなく、減らしたのだ」なのです。しかし、決して木下さんの考えているような現社ではなかったのです。それは、労働者の命の救済だった、そのようにボクは考えています。リーマンショック後の混乱の中でも、タクシーだけは求人がありました。多くの非正規雇用労働者が行く場所を失いました。それでもタクシーは正社員としての居場所がありました。そして、タクシーに救われたひとりがボクなのです。

タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法(2014年1月)平成26年

ボクが入職した2009年は、駅にタクシーが溢れていました。プール(待機場所)では、囲碁を打つ人もいました。待機中に駅前の食堂で昼食をとる、なんて人もいるぐらい、まだ供給過剰だったのです。

ただ、数字を見ると、適正化・活性化法の施行と需給調整の効果が少しずつ出ていた頃でもあったのでしょう。輸送人員、運送収入は減少していましが、日車営収(稼働1台1日当たりの営業収入)は、どん底の2009年から回復しています。しかし、輸送人員、運送収入はリーマンショック前には戻りそうにありませんでした。

ハイヤー・タクシーの日車営収等の推移 2001年から2017年 規制緩和とタクシー

図3 ハイヤー・タクシーの日車営収等の推移5のデータを使用し作成

次の図のような改正が行われました。

タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法による制度変更のポイント 規制緩和とタクシー

図4 タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法による制度変更のポイント6

1 タクシー適正化・活性化法の改正においては、「改正以前の特定地域」(以下「特 定地域(旧)」という。)を、タクシーが供給過剰等の状況にある「特定地域」とそ のおそれのある「準特定地域」に分け、「特定地域」に指定された場合、協議会によ り作成される「特定地域計画」において、当該特定地域内の「供給輸送力」の削減目 標や削減の方法について取り決めることができるとされた。また、「特定地域計画」 が国土交通大臣の認可を受けた場合には、同計画及びそれに基づく行為については独 禁法の適用除外とするとされた。

 

さらに、「特定地域」及び「準特定地域」においては、国土交通大臣がそれぞれの 協議会の意見を聴いてタクシー運賃の範囲(公定幅運賃)を指定することとされ、そ の下限よりも低い運賃は是正命令の対象とされた。

 

2 タク特法も改正となり、タクシー運転者の登録制度が全国的に拡大されている。ま た、全国3地域の特定指定地域でタクシー運転者の登録のために実施されていた「地理試験」は、「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」へと内容が変更され、その実施地域も全国13か所の指定地域へと拡大されている。

 

3 道路運送法の改正では、「特定地域」でも新規参入・増車が禁止されることから道 路運送法の需給調整規制撤廃後のセーフティーネット的対策であった「緊急調整地 域」が廃止された。また、バス・タクシーなどの旅客運送業を適正化するための「旅客自動車運送事業適正化事業」を実施する「適正化機関」が設置されることとされた。

 

タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法について

規制緩和とタクシー

このように「実はタクシー台数は減ったのではなく、減らしたのだ。」なのです。それは「判明した」などと言われることではなく、公共交通、その利用者と労働者を守るためのものでした。規制緩和の失敗を補う形で部分的な規制を行い、崩壊を防いできました。

これまでは、受給調整は必要だったのです。ただ、単純に台数合わせだけだったかもしれません。運転者の労働条件についても強制力のある改革が必要だったかもしれません。この10年で運転者の質は向上しました。しかし、業界自体の質はどうなのでしょう。

現在のタクシー不足は実働率が低いことです。つまり運転者不足です。受給調整によりタクシー車両が足りていない、というわけではないのです。タクシー会社の車庫には動いていない車両が多いということです。

タクシー不足とタクシー規制タクシー不足とタクシー規制について考えてみます。 というのも、現在問題化しているタクシー不足の原因がタクシー規制にあるという声が多いからです。そういった声は日ごと大きくなり…
続きを読む
blank kixxto.com
タクシー不足とタクシー規制

コロナ禍での離職超過が起きています。運賃値上や供給不足による賃金高でも人が集まらないのです。なぜか?もう語り尽くされているのではありませんか?

受給調整、減車はうまくいったのです。ただ、人が残らなかっただけなんです。そう考えています。(というか、木下さんの書き方がね。そんな煽り方、釣り方はダメですよ)

みどりの窓口善因善果、悪因悪果、自業自得、因果応報… 志の輔師匠の「みどりの窓口」。みどりの窓口の職員さんと、切符を買いに来た理不尽な要求をするお客さんの話。 その日の最後のお客さんは「…
続きを読む
blank kixxto.com
みどりの窓口
タクシー減車法案で考えたこと改正タクシー事業適正化・活性化特別処置法が成立した。来年4月から施行されるそうだ。新聞やネットでの声は消費者(利用者)と事業者ばかりで、運転手の声は聞こえてこない。なので生…
続きを読む
blank kixxto.com
タクシー減車法案で考えたこと

  1. 規制強化と減車の実現
  2. 2 自動車運送事業等の動向と施策
  3. 特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法案のポイント
  4. タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法について
  5. 2 自動車運送事業等の動向と施策
  6. タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法による制度変更のポイント

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA